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無限問題  作者: 城宮 美玲
恋心編
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第三十二話 君の香り②

香水のビンを持ち上げて、桜はあたしと同じようにまじまじと見ていた。冬音は香水自体にあまり興味がないのか、また足をブラブラさせて夏騎や秋を観察したりしている。ちなみに兄が近づこうものなら隣に座っている秋の後ろに隠れる。


どうやら秋よりも兄の方が冬音に嫌われているようだ。なんでそんなに毛嫌いするのかと言うと、前に初めて冬音と兄が会った時、兄が冬音に一目惚れをしたのです。しかし、だからと言って…初対面で告白はないんじゃないかと…。


突然告白をされた冬音は、その告白を聞かなかった事にして一目散に逃げ出して行った。そんな冬音としては衝撃的な出会いだったのであんなに毛嫌いしていると言う訳だ。すぐ隣に妹である、あたしが居ると言うのに親友に大胆告白をした兄には冬音が逃げた後、何時間にも渡って説教をしてやった。


本当は説教するのは兄の役目のはずなのに…しっかりしてほしいと心底思うよ…。あたしが兄を情けなく思っていると冠凪さんが香水の入ったビンを一つ持った。


「誰か試してみてくれませんか?体には害はないので」


「じゃあ、私が試してみるわ」


おおっ桜が試すんだ!なかなかのチャレンジャー。皆が付けないから仕方なく私が…って風にも聞こえるけどね。


シュッと小さく音を立てて、桜は香水を左手首に付ける。桜の手首に顔を近づけてみると、薔薇のような香りがした。


「やっぱり桜は薔薇って感じだよね」


「そ…そうかしら?」


少しだけ照れながらも桜は嬉しそうだった。そういえば桜が照れるのってあんまり見た事ないなーと、あたしまで嬉しくなってしまった。すると、さっきまで秋の後ろに隠れていた冬音がいつの間にかあたしの隣に来ていた。


「ほら、薔薇には棘があるから桜さんは薔薇の香りなんだよ」


「ごめんなさいね、私はそんなに刺々しいかしら?」


「春香ー私、褒めたのに桜さんが怒るー。桜さんの周りだけ冬のように寒い」


「あれ、褒めてたんだ…」


思った事がつい口に……気をつけないと余計な事、言って桜を怒らせそうだな…。よし、とりあえず声に出ないよう頑張ろう…。


「次は誰が付けますか?…春香さん辺り」


「いいよ、そろそろ付けたいと思ってたし…」


香水のビンを持ち上げて、あたしは桜と同じように左手首に付ける。顔を近づけてみると、りんごのような甘酸っぱい香りがした。


「甘酸っぱい青春を送っているからかしら?」


「でも、春香は苺の香りかと思った」


元々座っていた椅子に戻ってから冬音がそう言った。もう一度香りを確かめてみると今度は苺の香りがした。あたしの代わりに桜が冠凪さんに聞く。


「どうなってるの?」


「その人によって香りが変わるんです。春香さんの場合は甘酸っぱい系のフルーツの香りがするんだと思います」


「へぇー…」


かなり凄い香水に桜が声に出して関心していた。今度こそ本当に関心しているようだった。それにしても、人によって香りが変わる香水とは…。


あたしと桜が関心している間に冠凪さんは視線を冬音に向けた。そして微笑むと香水のビンを冬音の前に置いた。


「それでは、次は冬音さんお願いします」


「オーケー!」


やっと自分の番が来て、嬉しいのかノリノリでOKしていた。どうしよう…いつもの冬音じゃない!!放置してたから?ごめんね冬音、もう放置しないよ!


あたしが涙ぐんでいると桜が足を組み直して、鼻で笑った。いつにも増して女王様のよう…目がおかしくなったのか王冠まで見えてきたんだけど…。


「ついに冬音ちゃんが餌食になるのね」


「誤解させるような事、言わないでください!と言うか、さっきの棘の件まだ引き摺ってるんですか!?」


いつもはツッコミをしたりしない冠凪さんも今回ばかりはツッコむ。正直言って助かった、さすがにあたし一人ではちょっと心細かった!


隣で小さくシュッと音がしてので、その方を見てみると冬音がまた、いつの間にか左隣に居た。もうこっちに椅子持って来ればいいのに…。しかし、すぐにあたしの右隣に桜が居る事に気づいて言うのを止めた。


「冬音は桃の香りがするね」


「そう?」


「え?しない?」


「うーん…」


首を傾げて冬音は自分の右手首に顔を近づけた。どうやら右に付けたらしい。でも、あたしは顔を近づけなくても香りが分かったのになんで冬音は顔を近づけても、また首を傾げてるんだろう?その様子を見て冠凪さんがあたし達に言った。


「時々、自分には香りが分からないのに人には香ると言う事があるんです。部員でも二人いました」


「そうなの?そういえば春香は桃って言ったけど私は森の香りがしたわ…何か癒されるような…」


「冬音さんのようなタイプの人の場合は他の人が冬音さんに受ける印象がそのまま香りに反映されるんだと思います」


「なんだか凄いものを今回は作ったわね、いつも害のないものを作ればいいのに…」


「それを言われると…」


桜の言葉に冠凪さんは言葉を詰まらせた。研究に没頭しちゃっていつの間にか出来上がったのがいつもの物なんじゃないかな…と推測してみたりする。きっと冷静になって作れば今回みたいな物が出来るんだろうなー。どっちにしても冠凪さんは天才肌だよ。桜と冠凪さんが話しているのを見て、なんとなくあたしは微笑んでしまったのだった。










                             ③に続く。

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