第三話 虫と騒ぎと餡蜜と…
昼休みのチャイムが鳴り、あたしは冬音の席へと歩いて行った。
「食堂行こう!」
「えー…餡蜜付ける?」
「付ける」
「じゃあ行く」
そう言って冬音は、すぐに立ち上がった。即答ですか…ちゃっかりしてるなー。
食べ物に釣られるんだよね…知らない人でも食べ物もらったらついて行っちゃいそう…。
「食べ物もらっても知らない人について行ったらダメだよ!」
「何を突然…私は小学生か…」
「そうだ!秋達も誘わない?あっでも今日、お弁当かな?」
あたしは、秋達の居る教室を覗いてみた。
「居る?」
隣から冬音も教室を覗く。
「居ないみたいだね」
「どこに行ったんだろう?」
「さあ?居ないんじゃ仕方ない…」
冬音は、セーターのポケットに手を入れて廊下を歩いて行く。
「ちょっと冷たいんじゃないの?」
「餡蜜が先」
冬音に続いてあたしも、ついて歩く。
「双子か餡蜜だったらあたしは、双子を取る!」
「そんな自信たっぷりに言われても…と言うか春香の場合…」
「双子じゃなくて秋を取る!」
「だと思った…」
食堂に着き、食事を終えて冬音が餡蜜を食べようとした瞬間、校内放送が聞こえてきた。
《只今、学校内の昆虫観察で使う予定だった昆虫が入っているケージをサイエンス部の部員が誤って壊してしまい、校内に昆虫が逃げ出しました。甘い物をお持ちの生徒は、ご注意ください》
「またサイエンス部だって…」
「サイエンス部以外が問題を起こした事なんてあった?」
「ないね…」
逃げ出した昆虫、どうするんだろう?もちろん捕まえて戻すんだろうけど…。
でも、どうやって捕まえるんだか…。
「あ…季野くん達だ」
「え?」
食堂の出入り口の方で、秋達が何かしていた。
近づいて声をかけてみる。
「何してるの?」
「さっき昆虫が逃げ出しただろ?だから罠を設置してるんだ」
「偶然近くにいたのが僕らだったから手伝わされて…」
「お前は、すぐにサボってたがな…」
秋達の仕掛けた罠に、少し経ってから昆虫達が集まって来た。
「あれ?」
昆虫の数を数えながら、秋が首を傾げる。あたしは、罠に引っかかっている昆虫達を見た。
「どうしたの?」
「三匹足りない……」
「どこ行ったんだろう?」
そう言ってから、あたしは周りを見回した。周りにいるとは決まってないけど、なんとなく見回してしまう。
「三匹くらい、その内出てくるでしょ?踏んでなかったら」
「確かにその通りだけど、なんて事言うの…」
「私は、餡蜜食べてくる」
冬音の言葉を聞いて、秋が顔を上げた。
「餡蜜?……止めておいた方がいいんじゃないか?」
秋は、目を逸らして眼鏡の縁を指で押しながら、そう言った。冬音は、不満そうに顔をしかめる。
「嫌、私は食べるよ」
そう言って冬音は、食堂に入っていき……少ししてすぐに戻って来た。
「どうしたの?餡蜜は?」
冬音は、力なく首を横に振った。
「食べられない……」
「どうし………!?」
あたしの前に冬音が差し出した餡蜜を見て、どうしてなのかすぐに分かった。
餡蜜に三匹の昆虫が……。
「もしかして、残りの…?」
「ああ、餡蜜と聞いてなんとなく予感は、していたが……」
そう言って秋は餡蜜に付いている昆虫三匹を取り、ケージに入れた。そして餡蜜は、もちろん食べられないので……。
「私は一体今日のデザート、何を食べればいいの?」
「今日くらい、我慢しろよ…」
呆れながら秋が言った。フラフラと冬音があたしの所に歩いてきて両肩を掴んできた。
「ううー、春香ー」
涙目だし、もう冬音半泣き状態…。あたしが困っていると、夏騎が冬音の肩を叩いた。
冬音は、振り返る。
「実は、チョコが余ってるんだけどいる?」
「是非ください!」
両手を出して冬音は、夏騎に言った。夏騎は何処からかチョコを出して冬音に渡した。
「デザートの恩人!今度何かお礼します」
「楽しみにしてるよ」
「大袈裟な……」
あたしと秋は、冬音のデザートに対しての執着に呆れて思わず溜め息を吐いてしまうのだった。
後日、授業のその昆虫を観察する事になり……。
「あたし達のクラスで使う昆虫だったんだ……驚いたね?冬音…?」
「先生ー松永さんが倒れましたー」
餡蜜台無しにされちゃったんだっけ……。あたしは、また溜め息を吐いた。
続く……?