第二十四話 鬼ごっこ②
放課後、ついに放課後になりました。あたし達は屋上前の階段の所で集まっていた。ちなみに冬音は“眠い…”と言っているだけあって授業中に何度も寝ては起こされ注意されを繰り返し…授業中は安眠出来ないよ。
そして放課後になったところであたし達は集まり、ゲームが開始されるまで待機している今正にこの状態へと戻るのです。
「いつ始まるのかしら?」
「そろそろだと思うけど…」
あたしがそう言った、その時にタイミングよく校内放送が流れた。辺りがシン…と静まり返る。やっぱり賞品の効果か?
《皆さん。たくさんの参加ありがとうございます。それでは今からゲームを開始したいと思います…が、ここで特別ルールです。サイエンス部の部員から逃げ切れれば勝ちですが、反対にタッチされず部員を捕まえる事が出来れば賞品が一つづつ増えます。やり過ぎないように気絶させる程度でお願いいたします。それではゲームスタート》
校内放送ず終わった。たぶん今の声は部の部長?まず言いたい…なんて白状な部長なんだ!だって部員気絶OKって…なんでわざわざ特別ルール作ったんだろう普通でいいじゃん!このゲームで一番損してるのは部員だと思う。
そしてどうやら部員の意見を聞かずに部長の独断で決めたらしい。なんで分かるのかって?だってここまでブーイングが聞こえてくるから…。
「大丈夫なのかしら?」
「桜の心配も分かるよ…あたしも物凄く心配だもん」
やがてブーイングが無くなり、多数の足音が聞こえて来た。やっと鬼が出てきたらしい。キャーキャー、ワーワーと叫び声が飛び交っている。
運良く、まだここには来ていないけれど、来るのも時間の問題だ。それに第一、こんなに大勢で固まっていて捕まらない訳が無い。頭の回転が速い桜と冬音と秋の三人はとっくに思いついていたらしい。
「大勢で固まるのは良くないわ。複数に分かれましょう。まず夏騎君と秋。そして私と春香。冬音ちゃんは余り」
「酷い!せめて余り物には福があるよって慰めて!」
「余り物は…所詮余り物よ」
「キツイ!結局これだ!」
なんだか…桜が冬音を単独にしたのが分かった気がした。今日の冬音は面倒くさい…そしてツッコミ疲れる。あたしは心の中で桜にグッジョブと親指を立てたのだった。
さて、桜と逃げる事になったあたしは廊下を堂々と歩いていた。これは桜の提案。逆に堂々としていれば捕まらないと言う自信からのこの行動。
「ねえ…前から来るけど?」
「当たり前じゃない。透明人間じゃないんだから見つかるでしょ?」
「捕まらないとか言ってなかった?」
「私、過去は振り返らない主義なの」
こんな事があっていいのですか!?相手はどんどんあたし達に迫ってくる。運が良い事に後ろからは来なかったので…後ろに猛ダッシュ!
不意に振り返ると桜もなんとか付いて来ていた。更に後ろには鬼が付いてきていた。しかしサイエンス部は体力がある人が少ないようなので、すぐに諦めていた。
立ち止まって桜を待つ。なかなか来ないので戻ってみる。何があった!!何故か桜が捕まっていたのです。捕まえられた人には緑のカードが渡されている。
ちなみにそのカードをとんでもなく記憶力の良い人が渡すので、捨てたりしても逆に失格になってしまうのです。そんな人をさっきあたしは見た。
すると、あたしに気づいた桜が恨めしそうにこちらを見上げていた。体力が無いわけじゃないけれど…短距離が苦手らしい。
「春香が早過ぎるからいけないのよ。もう一人が潜んでたみたいで最初の鬼が体力切れだと安心した間に捕まったわ」
「ええっ!あたしの所為なの?」
「道連れにしないだけマシだと思いなさい」
「は…はい、ありがとうございます」
今、あたしはどうしてお礼を言いながらこの人に頭を下げているのだろうか…。しかしそう反論する前に鬼が来てしまったので逃げる事にした。
なんとか鬼を振り切ったところで、冬音がすごい速さであたしの前を通り過ぎていった。体力のない冬音がすごいスピードを出していたので一瞬呆然とした。ハッと気がついた時には冬音の姿はどこにもなかった。
首を傾げながら仕方が無く、周りに注意を払いながらも思考をめぐらせる。そう言えば…このゲームっていつ終わるんだろう?
「あと30分位ですかね?」
「そっかー…ってえっ!?」
声のする後ろへと振り返ると、制服姿のままの冠凪さんが立っていた。一応、冠凪さんも部員だったはず…。
「私は放送係だったので鬼にはならないんです」
「そうだったんだ…それにしても冠凪さんまでエスパー化?」
「全部声に出してましたよ?」
苦笑いで冠凪さんがそう言った。そうか…あたしは声に出してたんだ…気をつけないと独り言を言っている人に見えちゃうな…。
「今のところ捕まったのは、本井さん・夏騎君の二人です」
「桜は知ってるけど夏騎まで捕まったの?」
「はい…ちょっと冬音さんが…」
一体冬音が何をしたんだろう…すごい知りたいけど聞くのが怖い…。やっぱり聞く事にした。
「聞きますか?実は…転んだので助けようとして…」
「夏騎が冬音を助けようとしたの?」
「あっいえ…転んだのは夏騎君で冬音さんが助けようとしたんですけど…冬音さんの“苦手な人”が近くにいたようで逃げてしまったらしいんです」
ああ…もしかして、さっき冬音が全速力で走っていたのはそう言う訳だったんだ。聞いたところで、鬼が来ない今の内に休憩する事にした。
残り時間30分
続く