第二十三話 鬼ごっこ①
いつもと変わらない昼休みだった。突然、校内放送が流れた。あたし達だけではなく全生徒が静まり返ってる中でスピーカーからの声だけが響いていた。
声は冠凪さんのモノだったので、またサイエンス部が何かやらかしたのかと思ったけれど、どうやら違うようだった。
《毎回、問題ばかり起こしているので、謝罪も兼ねてこれからゲームをしたいと思います。ルールは簡単。鬼ごっことほぼ同じです。赤いTシャツを着た私達、サイエンス部から逃げ切れれば勝ちです。勿論、賞品もあります。どう言う物かは終了まで公開いたしません。参加する方はサイエンス部までお越しください。締め切りは昼休みが終わるまで。開始は放課後からです》
そう言って校内放送が終わった。賞品が気になるのか生徒達が次々とサイエンス部へ向かっている。あたしは一緒に昼食を食べていた桜と冬音に聞いてみる事にした。
「二人は行かないの?」
「行くけど、もう少し人が減ってから行くわ。人が多い中で押し合いながら行くなんてごめんだもの」
「右に同じ」
桜達と同じ考えの人もいるのか、六・七人まだ教室に残っていた。食事を再開しようと思っていると秋と夏騎が教室に入るところだった。
途中で何かあったのか秋が女子生徒を引き剝がそうと悪戦苦闘している。しかしそれを夏騎は面白そうに見ているのであたしは黙っている事にした。だって夏騎がつまらなくなっちゃうかもしれないから!
「離しなさいよ!!私の彼氏なんだから」
桜が凄い気迫で言うと女子生徒は一瞬たじろいで教室を出て行った。あたし達の視線は桜へと向けられる。
「ああでも言わないと離れなさそうだったじゃない。他にもっと簡単な離し方があるなら是非やってみなさいよ」
「虫を頭に乗せる…とか?」
「冬音ちゃん?それじゃ逆に離れないじゃない。ほら、他にないでしょ?」
そう言われてしまうと本当にないので、あたし達はその話題を止めて食事を始めた。それから人が少なくなってきたところで部室へと向かった。
どうやら夏騎と秋も参加するらしい。夏騎だけじゃなくて秋も参加するとは…意外だった。あたしはチラチラと秋の方を振り向く。傍から見れば挙動不審な人である。
「チラチラと…俺の顔に何か付いてるのか?」
「べ…別にー?」
「先生!春香が挙動不審なので何か隠し事があるんだと思いまーす!」
冬音が挙手をしながら高々にそう言った。それを聞いた―――たぶん冬音が言った先生(?)の―――桜が腕を組んで頷いた。それにしても、桜は姉さんとも先生とも呼ばれてしまっているのか…そして本人が気にしないで逆にノッてしまう!
どうしよう…この中でまともな人間があたしと秋だけになってしまう…。桜は…突っ込みを放棄してるもん…突っ込んでよって言ったら怒られそうだから言えないし。そんな事に悩みながらあたしは溜息を吐く。
「ふーむ…それじゃあ何で挙動不審なのか白状してもらおうじゃない?」
「参加!秋が参加するのは意外だと思ってるんですよ!隊長」
只今の呼び方 ・姉さん・先生・隊長。たぶんこのままノリで呼び方が増えるでしょう…苗字や名前以外の呼び方が出たら、それは桜だと思っていいと思います…ってあたしは誰に言ってるんだ。一人ボケツッコミ程、虚しい物はないよ?
「ところで…何で冬音はあたしの心が読めるの!?」
「………フッ」
「鼻で笑った!この人、あたしの事を鼻で笑いやがったよ!」
鼻で笑われるくらいなら、いつものように顔に出てるよと言われた方が何倍も、何百倍もマシだ!チクショーなんか悔しい!
「まあまあ、落ち着いて…」
「夏騎は落ち着き過ぎなんだよ!冬音も桜に対しての呼び方統一してよ!分かりにくいわ!一々説明するのも面倒だわ!こんなコントみたいな事してないで早く行くよ?……分かったら返事は!!」
「「「は…はい…」」」
ツッコミギレたところで、あたし達は冠凪さんの所へと向かった。部室の出入り口付近で汗を流して座っている冠凪さんの姿が見えた。
「大丈夫?冠凪さんも疲れてるんだね。あたしもだよ…別の理由で」
「あっ春香さん…それに他の皆さんも…。スミマセン、ちょっと疲れてしまって…」
「気にしなくていいのよ、それよりまだ参加しても大丈夫かしら?定員とかあるの?」
桜さんが疲れ切っている冠凪さんに聞いている!質問攻めをしている!冠凪さんはまだ頭が回らないのか当惑した表情をしている。
「まだ大丈夫みたいだよ!ここに参加者の名簿があった」
「ちょっと冬音さん!?いいの?勝手に見たりして」
「……ダメだね」
ダメだと分かってるのにこの人は…。でもツッコミ疲れたので冠凪さんの隣で休もう。あたしはそう思い、冠凪さんの隣に座る。
「名簿に記入していただくだけでいいので、参加する人は書いてください」
「じゃあ、私と春香と夏騎君と秋と冬音ちゃんでいいのかしら?」
「いいんじゃない?どうでも…」
「冬音ちゃん、もしかして貴方飽きた?」
「うん」
冬音は突然飽きたようでその辺をウロチョロしていた。しかし、何を思ったのか立ち止まり、夏騎の手をジッと見つめている。
「双子って…全て同じなのかな?手の大きさとか、スリーサイズとか」
「スリーサイズ!?暇過ぎてついに双子に目を付けたわね」
暫くペンで書く音だけが響き、あたし達の中で誰一人として喋る人がいなかった。冬音は今もターゲットロックオンしてるよ、手をすごい見てるよ。
「双子って言ってもさすがにサイズまでは同じではないと思いますよ?」
おおっ!冠凪さんがフォローしてくれた。天使に見えるよ。冬音は一瞬悲しそうな顔をした後、夏騎にベッタリくっついていた。
あたしとしては嫉妬する時なんだろうけど…今日の冬音はいつにもまして自由。何かあったのかと心配になったりするのです。
「冬音どうしたの?何かあった?」
「敢えて言おう、暇であると。そして放課後までこんな暇が続くのかと考えると…ゾッとする」
「暇なんだね…後、授業あるよ!?忘れてない?」
もしかして授業も暇とか言うんじゃないだろうね?これだから出来る人は…。ここで嫉妬です。冬音は首を横に振った。そして一言。
「眠い…」
食後だもんね。食後は一番眠いよね。そして冬音は去って行った。たぶん教室だろうな…。
まだ続きます!