第二十一話 ハムスター脱走
昼休み 一組教室
「ちょっと!なんか私の肩に乗ってない?乗ってるわよね!?」
桜パニック。肩に乗っているのはハムスターらしい。さっき何処からきたのかハムスターがやって来て近くにいた桜の肩へと上っていった。
そんな訳でその様子を見ていた冬音・あたし・冠凪さんしかハムスターだと分からない。桜は正体が分からずパニックになっていると言う事です。
冬音は面白がって教えないし、冠凪さんはハムスターが苦手らしい。そしてあたしはと言えば、冠凪さんと同じ理由で無理。
「冬音、取ってあげなよ?」
「えー?面白いのに…」
「正体が分かってるなら早く取りなさいよ!怖くて仕方ないわ」
「はいはい…」
冬音は渋々と言った様子でハムスターを取る。冬音が取ったハムスターを見た桜はすぐに笑顔になった。ハムスターが好きみたい…たぶん見るの限定で。
「それにしても…どこから来たんだろうね?」
「冠凪さん、何か知ってるんじゃないの?」
桜が此処ぞとばかりに冠凪さんに詰め寄る。詰め寄られた冠凪さんはあたし達に目で助けを求めているけど…ちょっと迫力が凄くて助けられない。
冬音はそんな二人を楽しそうに眺めている。ダメだ…冬音に頼ろうとしたあたしがいけなかった。冠凪さんも諦めたのか話を始めた。
「実は…一時的にハムスターを私達、サイエンス部が預かる事になりまして。ペットを学校に連れて来るのは特例なので、とりあえず世話だけしてたんですけど…」
「可愛くて触りたくなったから出したら脱走した…ってところか…」
冠凪さんが続きを言う前に冬音がその続きを言った。そう言えば、さっき放送があった。
《サイエンス部で預かっていたハムスターが脱走しました。皆さん、足元にご注意下さい》
確かそんな内容だった気がする…でもしょうがないよね?可愛いから触りたくなるのは分かるよ!とっても分かる。
「部室で騒いでいたので何事かと思っていたら…ハムスターが脱走したとかで…私も探していたのですが、とりあえず見つかってよかったです」
「…そ…うだよね?とりあえず見つかったんだから」
目を泳がせてあからさまに逸らしながら冬音は顔を引きつらせていた。そんな挙動不審な冬音に、あたし達の視線は集まる。
「どうしたのかなー?冬音ちゃん?」
姉さんがニッコリ笑顔で冬音に問い質す。姉さんと言うのは、あたし達の中で一番迫力のある桜の事で…正に蛇に睨まれた蛙。ごめん冬音…あたし彼女に勝てる気がしない。
「そっそれがですね…何と言うか…」
「ハッキリ……ね?」
「ハムスター逃がしました」
ああ…冬音がもう諦めたような顔をしている!それよりハムスターを逃がしたって事は?冠凪さんが不安そうな表情を浮かべる。
「もしかして…また一から探さないといけないんですか?」
「本井さんに寄って来たんだから、ハムスターの近くに本井さんを近づければまた寄ってくるかも…」
「冬音ちゃん?それを実行したら一週間お菓子禁止だから」
「全力で探させていただきます」
今日の冬音は完全に桜に負けてるなー…。冬音にとってお菓子が一週間も食べれないのは、あたしが一週間勉強をずっとするくらい辛い事なんだよね…さすが姉さん、容赦なし。
「秋と夏騎君にも手伝ってもらう?私達四人でもいいと思うけど人が多いに越した事はないでしょ」
「そうだね、じゃあ夏騎達にも手伝ってもらおうか」
「そうですね」
あたしと冠凪さんが同意する中で冬音だけが難しい顔をしている。あたしは冠凪さんと顔を見合わせてから冬音に聞いてみた。
「どうしたの?難しい顔して」
「いや…思ったんだけど、三人共触れないんじゃなかった?季野君達は大丈夫だと思うけど…」
「が…頑張ってみるよ…」
あたしはそう言いながら内心、絶対に無理だと思った。だってハムスターって観賞する生き物だと思ってたんだもん、それなのに犬や猫みたいに触れるなんて!
「じゃあそれぞれ何組かで分かれて探した方がいいかもしれないわね。触れる秋達と冬音ちゃんの誰か一人づつと私達の誰か一人づつで組みましょう。これだと三組作れるわ」
「でも、どうやって分けるの?あたしは夏騎がいいんだけど…」
「あの…私も夏騎君がいいです」
いつもは控えめな冠凪さんがそう言った。前に冬音から冠凪さんが好意を寄せているのは夏騎だって聞いた事があったので驚いたりはしなかったけど…動揺は、していた。
「私、季野君と一緒じゃなくていいんだ!私がハムスター触れて良かったー!」
あたしの隣で冬音ガッツポーズ。そんなに秋と一緒が嫌なのですか…そんな事言ってたら泣いちゃうよ?秋が…。
「私は秋と組む事にするわ。冠凪さんは冬音ちゃんと組みなさい。春香は言わずもがな夏騎君と組む事になるわ」
「それじゃあ、あたしが頼んでくるね」
早速一組を出て夏騎達のいる三組へと向かった。確か、今日は教室で食べるって行ってたんだけど…あっ、いた。あたしは夏騎達の所へと歩き、ハムスターについての事を話した。
「俺達が同意する前に勝手に決められてるんだな…」
「しょうがないよ、一大事なんだから」
呆れる秋とは裏腹に夏騎は協力的だった。もちろん秋も呆れているだけで協力はしてくれそう。そんな訳で夏騎達と共に一組へと戻った。
「それで、俺は誰となんだ?」
「口で説明するのは面倒だからメモに書いてみたわ」
そう言って秋にメモを見せる。そっちの方が面倒だったんじゃないかと思ったけれど、今日の桜は冬音が敬語になる程の迫力なので黙っている事にした。
*メモ*
1 秋・私
2 夏騎君・春香
3 冬音ちゃん・冠凪さん
そのメモを読んだ秋は夏騎に渡し、二人共読み終わったメモは桜の元へと回った。そしてそのメモはゴミ箱へ。
それぞれの組み合わせであたし達は教室を出て、ハムスターを探し始めるのだった。
*続く*