第十八話 過去の彼
昔…と言ってもあたしが高校一年生だった一年前の始業式…。あたしは自分のクラスを確認してから気がつくと学校内で高校生ながらに迷子になっていた。一応どこにどの教室があるかなどは把握しているけれど…。
それでも迷子になってしまったのだから仕方がないと開き直っていた。そして学校を正面から見れば自分の教室がある場所が分かると思い、外へ向かって走り出した。
今思えばそんな事しても正面にクラスが何組か書いてある訳でもないので、どっちみち分からないままだ。なんだろう…今より一年の時の方がバカな気がする…。
そんな訳でそこで自分の間違いに気づき走って校内へと戻ろうとした…それが悪かった。あたしは走った時に躓いてしまい当然のように転んだ。そんなに勢いがあったのかズササーと音を立てながら滑った。
それをどこからか見ていたのか一人の男子生徒があたしに苦笑しながら手を差し伸べてくれた。あたしは赤面しながらも彼の手をとる。
「大丈夫?随分派手に転んだね」
「すごい恥ずかしい…」
「手は大丈夫みたいだけど膝が怪我してる…はい、絆創膏」
「…ありがとう」
絆創膏を受け取ってあたしは膝に貼る。もしかして絆創膏を常備してるのかな?それとも偶然持ってただけか…。
「あの…名前!……あれ?」
あたしが両膝に絆創膏を貼り終わって顔を上げた時には彼はもうあたしの前から姿を消していた。あたしが絆創膏を貼るのに、もたもたしていたからいけないのだけれど…名前くらい聞きたかったと後悔していた。
あたしを助けてくれた彼は…眼鏡を掛けていた…。そしてあたしはその後に冬音に会い、さらに半年後、双子の二人と出会う。
「そんな訳で秋に恋をしたんだよ!前に会ってまた知り合えるなんて…もう奇跡でしょ?」
「え…うん…(秋の眼鏡を夏騎君が掛けていたらその時に出会ったのが夏騎君って可能性もありえるけど)そうだね」
「そうでしょ?」
なんだか冬音がすごく言葉を飲み込んだ気がしたけれどきっと気のせいだろう。今は昼休み。冬音があたしが秋を好きになったキッカケが知りたいと言うので話していたところだ。
そんな訳で喉も渇いてきたし…あたしは自動販売機へとジュースを買いに向かった。ちなみに冬音に聞いたら「紅茶」と即答された。喉渇いてるけど行くのが面倒だったと思われる…。
自動販売機がすぐ目の前だったけど喉がかなり渇いていたのもあって、あたしはつい走ってしまい躓いた…何もないところで転んだ…。
うわー…、一年前の入学式以来の恥ずかしさだ…誰か見てたらもうヤダ…あれだ…穴があったら掘りたい?じゃなくて入りたいだ。
すると、見ていたのか誰かがあたしに手を差し伸べてくれた。これは…さっき話してた時の状況と同じ…。
「あっありがとう」
あたしは恥ずかしさのあまり顔を俯かせていた。しかし顔を少し上げてみると…秋がしかめっ面をしながらあたしを見ていた。
「危なっかしいな…大丈夫か?」
「うん…大丈夫。あの…秋って一年くらい前の始業式で誰か転んだ人に絆創膏あげたりしなかった?」
もちろんこれは自分の事だけれど「一年くらい前の始業式であたしが転んだ時、絆創膏くれなかった?」なんて…いくらなんでも聞きづらい…。
もし間違いだったらかなり恥ずかしい事になってしまう。しかしどうやら間違いだったようだ。秋は少し考える素振りを見せてから左右に首を振った。
「悪いけど誰にもあげた記憶はないな…と言うか夏騎に眼鏡を取られて散々だったんだ」
「え…?」
それってどういう事?そう聞きたかったけれどあまりの驚きに言葉が出なかった。夏騎が眼鏡を…って事は助けてくれたのは夏騎だったの?ってなんであたしはこんな時だけ頭の回転が速いんだ…。
でも、もしそうならあたしの好きな人は秋じゃなくて…夏騎だ…。あたしがずっと好きだと思っていた秋は…なんだか少し助けてくれた彼と違う気がした。
あたしは…あの苦笑しながらも手を差し伸べてくれた優しい彼が好きだったんだ…夏騎をずっと好きだったのに…あたしは勘違いをして好意を秋じゃなくて間違えて夏騎に向けてしまっていたんだ。
秋は好き…でもきっと…それは恋の好きじゃなくて友達の好き…。あたしは恋をろくにした事がない…だから好きがわからなかった…でも…でもね?
秋が他の女子と話をしてても別に大丈夫なのに…夏騎が他の女子と話してるのを見ると胸の辺りがモヤモヤして…なんだか嫌な感じがした。
あれが嫉妬?なのかな…。こんな形で自分の好きな人が分かってしまうなんて…誰も…あたしも考えてもみなかった。
「どうした?急に俯いて…」
「おい…お前…春香に何した」
秋の真後ろで冬音がかなり低い声で秋を睨み殺気を放ちながら言った。そんな冬音にあたしは慌てて否定する。
「違うの!秋は関係なくて…」
「春香は優しいからね…だからそんな風に…。それよりお前」
「だからそのお前っての止めろよ」
「じゃあ何か?もやし眼鏡って言えばいいのか!」
「ついに合体させたか…もういいよ…なんとでも言えよ…」
それを聞いて冬音が勝ち誇ったような笑みを浮かべる。ああ…ついに秋が諦めてしまった…。でも喧嘩が終わったので良しとしよう…。
冬音の乱入により、とりあえずはこの件…保留にして置こうかな?
続く*