第十五話 風とセーター(前編)
外は風が強いようで砂埃が立っていた。今日の授業の中に写生があったのであたしは先生にこんな提案をしてみた。
「外は風なので写生は中止したらいいと思いまーす」
そう言ったら廊下に立たされた。めっちゃ説教されて立たされた。一体あたしが何をしたと言うのですか!別にそうしたらいいと思った事を言っただけなのに…。
と言うか今時、廊下に立たされるとは…。怖いくらい後ろから視線を感じる。だけど写生に使うスケッチブックと筆入れを持って来ていたので教室には、まず戻らなくても大丈夫だ。
それから暫くして授業が終わったのかクラスメート達が教室から出てきた。みんなクスクス笑うのであたしは思いっきり睨んでやった。
すると後ろから肩を叩かれたので振り向くと呆れ顔の冬音がいた。その冬音の姿の中で何かが足りない気がしたけれどきっと気のせいなのだろう。
「まだ立ってたの?ほら、行くよ?」
「もう授業終わったんじゃないの?」
「もうって…さっきの写生についての注意事項とかの話だったんだけど…。聞いてなかったんだ」
冬音は溜息を吐くとあたしの腕を掴んでから歩き出した。あたしが授業中に考えていたのは勿論秋の事だ。クラスが違うけれど秋も夏騎も昼休みと放課後には教室に来てくれる。
だけどあたしは秋の事を四六時中見ていたい…授業が退屈だから息抜きにさ?……外に出てみるとやっぱり風が強くて夏だけれど肌寒かった。
「セーター持ってないんだよね…冬音は寒い?セーター持ってる?」
「私は平気だけど、季節はずれなのにセーターなんか持ってきてる訳ないじゃん」
「だよね…どうしよう?」
セーターが二人共ないって事は誰かに借りるか我慢?でもあたしは無理!セーターなしでこの肌寒さは耐えられない。
「誰かに借りるしかないね?」
「秋か夏騎君なら持ってるかもしれないよ?春香だったら喜んで貸すだろうから借りておいで」
「喜んでって…でもあたしが行くの?」
確かに秋のセーターが着れるのは喜ばしい事だしすっごく着たい…だけど…。
「他のクラスも授業中でしょ?だとしたら教室のドアを開けた瞬間、先生と生徒達の視線があたしに集まるわけだよね?そんなの絶えられない!」
「すごいリアルで分かる…。でも、そしたらどうするのさ?」
「うーん…」
季節はずれでも寒くてもとにかく今は秋のセーターを着るのが最優先な訳で…だからと言ってあの視線に耐えられる訳でもない…。どうしたらいいんだろう…。
「冬音が頼んで来てくれない?セーター貸してって…」
「別にいいけどお礼として駅前のたい焼き屋のクリームを十個買って貰う事になるよ?」
「ええー!?駅前のたい焼き屋さんは高いんだよ?」
駅前のたい焼きは一個でもただでさえ高いのに十個もなんて…それにそんなに買ったらあたしの財布が寂しい事になってしまう!
それだったら自分でセーター貸してもらいに行った方が安上がりだよ!冬音もがめついな…。でも…でもだからってセーターを借りに行って先生や生徒達…以下略なんて無理。
そんな事を考えていて、ふと冬音を見ると、しまった!と言う顔で自分の手を見ていた。どうしたのかとあたしは首を傾げる。
「どうしたの?」
「スケッチブック忘れた…」
「そう言えば持ってなかったね」
気のせいがまさかスケッチブックとは…しかしあたしは廊下に立たされる前にスケッチブックを持ってきていたのです。だけどあたしだけが持ってても意味ないんだよね…。
どうした物かと考えていてある案が浮かんだ。
「冬音がスケッチブック取りに行くついでに秋からセーター借りて来ればいいんだよ」
「それなら私も春香も目的の物を持って来れるね。じゃあ行って来るよ」
そう言って冬音は学校へと取りに戻って行った。意外にもあっさりと戻ってしまったのであたしは少しの間、呆然としていた。
たい焼きより自分の道具の方が大切と言う事かな?食い気だけじゃなくて少しだけホッとしている。あんまり食べてると太っちゃうからね。
まあ、そんな事を言ったら前のように無理なダイエットを始めてしまうだろう。そして秋みたいなさっきの言葉を言えば…「春香が秋に毒された!あいつめ…春香になんて事を教えるんだ。女子に太るなんて失礼な、そのなんとなく健康を気遣ってる感じがまたイラつく…」と言った感じで喧嘩勃発。
そして二人の喧嘩を止める為にあたしと夏騎がまた苦労するのだろう。喧嘩が起こった時の事を考えて深く溜息を吐いてからあたしは手近にあった設置されているベンチに座って冬音を待つ事にしたのだった。
*続く*
今回は春香目線。後編は冬音目線です。