第十三話 物体再び…?
土曜日の皿の事を冬音がお姉さんに言ったら…告げ口されてお母さんにひどく怒られたそうだ…当たり前だけど。そして後日、少しだけ気になるので夏騎に聞いてみた。
二人のお母さんの前の前の前の前の…以下略の夫から貰った物で捨てるタイミングに困っていたらしい。それを冬音に伝えたらホッと息を吐いた。
二人のお母さんを前に一回見た事がある。結構若く見えて三十歳後半くらいだと思ったけれど…本当は何歳なんだろう…。本人に聞くわけにもいかず夏騎に聞いたけれど年を聞いた事がないらしい。
結局、年齢は謎のままだった。そして今…これもあたしにとって謎としか言いようがない物が目の前にある。どうしてこうなるのか…作った本人である冬音にもよく分からないらしい。
「物体再び…」
「もう手の付けようがないわね?一体どうしたらこうなるのか知りたいわ」
「それを一番知りたいのは私…」
冬音の料理の腕の酷さに本井さんが呆れて、なんとか人並みに料理が出来るよう教えてあげているそうなのですが…。作ってみて出来上がったのが物体…?
ちゃんとレシピ通りに作り無駄な物も入れてないのに…。あたしと桜も冬音と同じ物を作っているのにどうして冬音だけ…?
「どうして腹痛が起こるような物、作れるのよ…」
「でも夏騎は食べても大丈夫だったよ?」
「あれじゃない?お母さんが料理下手で、私の作った物と同じような物を食べ続けて胃が強くなったとかじゃない?」
『ありえる…』
あたしと桜がハモってあたし達は顔を見合わせて笑い合っていた。けど同時に…冬音の作った物は胃が余程強くなければ食べる事が無理な物だと分かった。
「胃が強くないと食べれない物って…どんな物よ」
「これだよ、辛いから私に言わせないで…」
「どうしよう!いつになく冬音が弱気だ!大丈夫だよ、ね?桜」
ポジティブな意見をあたしは桜に求めた、けれど目を逸らして桜は、こう言った。
「そうね…私だったらこんな物を食べるくらいなら食用の虫を食べる方がマシだわ」
「そんなに!?そんなに嫌?」
「どうせ私の料理は虫以下だ…」
「あああ…冬音が段々ネガティブになってゆく」
あたしは近くにあった自分のクッキーの前に見せる。冬音は、ゆっくりと顔を上げてあたしを見る。驚いたような…そんな表情をしていた。
「さすがに食べてあげられないけど…冬音にあたしが作った物をあげる。甘いもの食べれば少しは元気が出ると思う…」
最初は躊躇していたけれど、冬音は怖ず怖ずとクッキーを受け取り一口食べた。こんなクッキーで元気が出るなんて…冬音がそんなに単純じゃないのは知っている。
それでも、なんとか冬音を元気付けたかった。そうしないと、いつまでも止まってしまう…料理をしようと思わなくなる。
それはダメだと思う。せっかく冬音に女性らしい事を見に付けさせるチャンスなんだから!男子と普通に取っ組み合いをして勝ってしまう少し男勝りな冬音から脱出させなければ!
「ありがとう、でも私の料理の腕をどうやっても上げるのは無理だと思う」
「そんな事ないってば、桜もそう思うでしょ?…桜?」
あたしがそう聞くけれど、桜は考えるように俯いて物体を見ていた。あたしが首を傾げて桜に近づくと冬音も後ろから付いてきた。
「桜、どうかしたの?」
「秋に食べさせようとして結局、夏騎君が食べたのよね?これ」
「そうだよ?」
そういえば、秋じゃなくて夏騎が食べちゃったんだよね…。でも夏騎が無事と言う事は秋も大丈夫って事になるよね。
「一回食べさせてみない?夏騎君が大丈夫なら秋も大丈夫だと思うの。元彼女でも手料理は食べさせなかったから好みとかは分からないけど」
「でも一回失敗してるのにもう一度は…」
ん?待てよ…。いいのか…好きな人に食べさせていいのか…。まあ元はクッキーなので問題ないかな。そんな訳であたしの中では秋に食べさせるって事で…。
少しの腹痛だけで食欲もあるし動くのも苦じゃなかったって冬音が言ってたし。病院でもそんなに大した事ないって言われて整腸剤貰っただけだったとも言ってたし。
「あのさー、春香が作ったって言ったらあいつ何でも食べるよ」
「え…マジで?あたしの作った物なら?」
「マジで、前に春香からのプレゼントって言って姉の作ったシフォンケーキあげたら涙流して食べてた。だから実証済み?」
「果たしてそれを実証済みと言っていいのかしら…」
桜が言い出しっぺなのに心配してるよ…。とにかく、冬音の料理をあたしの料理だと言って食べさせる事に決定。
放課後にあたし達は三組に行ってみると、秋がまたうつ伏せて寝ていた。睡眠不足なのだろうか?前は夏騎が睡眠不足だった。
「秋、あたしが作ったのだけど…食べてくれる?」
あたしの言い方がすごい棒読みで内心ヒヤヒヤしたけれど秋は顔を勢い良くあげて、あたしから物を受け取り早速食べ始めてた。食べさせる事には成功したようだ。
そして食べ終わったと言うか…完食してしまった後の秋は何事もなく、またうつ伏せて寝始めた。その光景にあたし達は…ただ呆然と立ち尽くしていた。
これは成功と言っていいのだろうか?てか、そもそも成功の内に入るのか?
「……今、お前が食べたのは私が作った物だよ」
「そうだったのか?知らなかった…俺か夏騎で良かったな。他の人が知らないでこんな風に食べたら保健室行きだぞ」
「はいはい、もしかして母親が私と同じような感じで胃が慣れてしまったのですか?」
「…何で知ってるんだ?」
目を細めながら顔を上げて秋が冬音に聞いている。
「知ってると言うかそう思ったのですよ」
秋は目を擦り、鞄を持って夏騎達と一緒に出て行った。あたしは少しだけ残る事にした。後からついて行くと言ったら冬音と秋は喧嘩しながらも渋々教室を出た。
なんだか二人、似たもの同士だなー。そんな事を考えながら秋がうつ伏せていた机を触る。
みんな気づいてなかったけど…親友のあたしには分かるんだ…。
冬音が突然敬語になった時は、本気で怒ってる時だって…。
続く*