第十話 お見舞いとノートと腹痛と… side冬音
昨日のカップケーキこと物体を食べた所為で今日は学校を休まざるを得なかった。味がなかったから大丈夫だという根拠のない自信が災いしたのだろうか?
でも、春香の話によると夏騎君は大丈夫だったらしい。もしかして秋に仕返ししようとした罰が当たったのか?
時計を見てみると、もう春香達が学校を出たと思われる時間になっていた。お見舞いに来るって言ってたし…もう少し待ってればいいか…。
そう思った直後にチャイムが鳴った。確か…お母さんはお茶会に行ってて、今家にいるのは私と……。なんでこんな時にお母さんいないわけ?お母さん、戻って来てー!
そんな私の願いが届くはずもなく、ついにあの人がドアを開けてしまったらしい。少しの無言が続いた後、春香達の「おじゃまします」の声が小さく聞こえた。
私の部屋は、二階にあるので階段の軋む音が聞こえて来た。そしてドアをノックする音が聞こえてドアが開く。
「冬音、大丈夫?」
春香のその問いに答えず、私は逆に聞いた。
「会った?玄関で会ったよね?無言だったし…季野君達の顔がなんとなく赤くなってるし…」
「えっと…今のは?」
「私の姉…」
そう、私には四つ年の離れた姉がいる。職業は、モデルだ。モデルとしては少し有名らしい。よく知らないけれど…。そして私の姉にはかなり困った事がある。
「いつもあんな格好してるの?お姉さん…」
「外ではさすがに…でも家の中じゃ、あんな格好だし普通に宅配便とか来ても出るし…」
姉の困った事は、家で、ものすごい薄着だと言う事だ。今の季節は夏ですかー?と思わず聞いてしまうほどの薄着だ。そしてその格好で恥ずかしげもなく出るものだから…。
「お母さんが入れば出てくれるんだけどね…今、お茶会に行ってていないんだ」
「そうだったんだ?あっそうだった!」
何かを思い出したように春香が鞄の中を探る。学校から直接来てくれたらしく三人共制服だった。なんだか申し訳ない気持ちになる。
「はい、今日の授業ノート!休日にまた見せに来るからその時写してね!今じゃ辛いでしょ?」
「いや、大丈夫だよ。病院にも行って来て薬飲んだから。心配してくれてありがとう」
「冬音……」
なんだか周りがキラキラし始めた気がするのは…私だけだろうか?雰囲気を変える為に私はノートを春香から受け取り見てみた。
「そこのページが今日の授業の所だよ」
「へ…へぇー?」
字は、女の子らしい丸い感じの字だった、読みやすくていいのだけれど…このページを埋め尽くさんばかりの可愛い動物の絵や四コマは、どうにか出来ないのだろうか?すごい邪魔なんですけど…。
けど口を滑らせてハッキリそんな事を言えば「ご…ごめんね?あたしの絵の所為で…」と悲しそうな顔をするに違いない。それに秋がまた何か言いそうで面倒なので言えそうにない…。
「そうだ!秋と夏騎のクラスの方が授業進んでて、ノート持ってきてくれたんだよ!わざわざ家に帰って」
「そうなんだ?」
助かった!夏騎君!ついでに秋にも助かったと言っておこうか。夏騎君と秋からノートを受け取り読んでみる。
「………?」
「どうしたの?」
春香が首を傾げて私が見ている夏騎君のノートを覗き見る。
「ん?」
夏騎君のノートは、なんと言うか綺麗なんだよね?悪い意味で…。綺麗なんだけど…文字がじゃなくて…。
「何も書いてないのですが?」
ノートを閉じてから私は夏騎君に聞く。夏騎君は、特に気にしてない様子でこう言った。
「だって授業自体聞いてないし…」
「じゃあ渡さなくていいじゃない?なんで期待を持たせるような事するかな?」
そうだった…夏騎君も春香と同じで補習と赤点の常連なんだっけ?こうなったら秋に期待するしかない!ムカツクけど…。
期待とムカつきを抱きながら私は秋のノートを捲った。そのノートは、文字も綺麗でよくこんな綺麗な字が書けるなーと関心した位だった。
重要な点には、しっかりとマーカーで印が付いていたりしている。ゴチャゴチャしていなくてスッキリとしているノートだった。
少しだけ…いや、かなり悔しい…けど…。
「季野君のノートを写すよ」
「ええー?なんで?」
「一番スッキリしてるノートだから。私のノート、取って?」
春香は不満そうだったけれど、しぶしぶでも私のノートを取ってくれた。イイ子だ…でもこれ位でイイ子なら世の中イイ子だらけになるんじゃ…。
「どうしたの?ノート、写さないの?」
「え?写すよ」
写すのにそう時間はかからなかった。七・八分位ですぐに終わった。
「じゃあ、お大事に!」
「三人共、風邪とかに気をつけてね」
「いつもは春香だけ心配するのに今日は違うんだな?」
「こういう日もあるさ!」
春香達を自分の部屋の前までだけど見送ってから再びベッドに横になった。六時ごろ、お母さんが帰ってきて、私は早速お母さんに言った。近くに姉もいたが直接だと負けてしまう。
「友達が来る時にお姉ちゃんに薄着で出ないでって注意してね!親友の好きな人が今日一緒に来てたんだから、誘惑されちゃ困る」
「あら?冬ちゃんの好きな子じゃないの?」
「…お母さん「今日の夕飯何?」
「まだ秘密よ」
鼻歌なんか歌いながら上機嫌でお母さんは台所へと向かった。私は姉に視線を移す。
「無理して言わなくていいのよ?お母さんだって毎日夕ご飯秘密にするんだもの。いつかサソリとか出して来そうね?」
姉はそう言って苦笑いをする。本当にありそうだから不安になる。
「ありがとう…」
「あんたがお礼なんて珍しいわね?いつ以来かしら?」
「中二以来だよ…」
誰だって秘密はあると思う…けどお母さんの夕飯の秘密と私の秘密じゃ…重さが違うと思った。
私は…
まだ親友である春香にすらその事が言えないでいる…。
続く。