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あんどろいd

作者: ぐみ

2123年 4月12日 完成。




地球。


この星は2100年前後。


急激な進化を遂げる。


それは今までの常識を覆し、

新たな常識を作り出した。


その中で図抜けて成長した国。


アメリカ、イギリス、ロシア


そして―――


日本。



それはその日本で誕生した。


ある一人の少年によって。






2122年。


地球の進化の真っ只中。


普通に学生生活を送る。


ただそれだけの日々。


「オイッス。

 なんか元気ねぇナ?

 どうした? タク?」


「あ。 いや。

 何もないよ。」


「そっか。

 ならいいけど。」


そいつは歩みの遅い僕をおいて

さっさといってしまう。


別にどうでもいい奴だ。


それより―――


さっきは元気がないと言われ何もないといった。


しかしそれは間違い。


ウソだ。


恋煩い。

とでも言うのだろうか。


密かに心を寄せているヒトがいる。


特にカワイイとか、

スタイルがいいとかじゃない。


彼女は明るくて活発で。


友達も一杯いて慕われていて。


まさにクラスのムードメーカーに

ピッタリのヒトだった。


彼女は僕が持ってないものを

たくさん持っていた。


それが眩しかった。


だからか否か、

いつの間にか気が付けば目がいっていた。


でも・・・・・。


声はかけられない。


そもそもしゃべった事がないのだ。


なのにいきなりは話せない。


しかも周りにはいつも誰かがいるから

そんなところに僕なんかがいけるわけがない。


だからいつも見つめる。


ただひたすらに見つめる。


そんな日々が続いた。


ある日。


いつもと同じような朝。


いつもと同じ道。


一人で歩く。


はずだった。



ドス



何かにぶつかった。


下を見て歩いていたから気が付かなかった。


顔を上げる。


言葉が出ない。


目の前にいたのは。


彼女。


「きゃっ。

 ちょっと。

 前見て歩いてよね。」


ハツラツとした声が響く。


「あ。

 ごめんなさい。」


頭を下げる。


これには詫びるのと

恥ずかしさから目をそらすという

二つの意味があった。


「あっ。

 そんなに深々と。

 そこまでしてくれなくていいのに。

 あたしも止まってたの悪いんだし。」


頭を下げたままの僕の顔を覗き込んでくる。


「えぇと・・・。

 タク君・・・だよね?」


これには驚いた。


知っていたのか。


それとも名札?


「う・・・うん。

 そうだけど。」


顔を上げた。


赤くなるのを必死でこらえる。


「しゃべった事なかったよね?

 もうそろそろ3年間一緒にいる事に

 なるのにね。」


笑顔で話しかけてくる。


「でもタク君って結構成績優秀だよね?

 テストもいっつも5位以内には入ってるし。

 この前なんか1位だったじゃん。」


「う・・・うん。」


しゃべりたい。


けど声が出ない。

何を言えばいいのか思いつかない。


「フフ。

 なんか面白い。」


「え?

 な、何が?」


なにを言ってるんだ?


なにが?


面白い?


「なんかわかんないけどタク君面白い。」


「そ、そうかな?」


「うん。

 そうだよ。

 これから仲良くしようね。」


そういうと駆けていってしまった。


「なんだったんだろう。」


良く分からない。


が、


これがきっかけで仲良くなれるなら

願ったり叶ったりだ。


とりあえず学校へ行こう。


そうして歩き出す。




次の日からは幸せだった。


彼女は何もしなくても話しかけてくれる。


彼女と仲良くなると、

それに伴い周りのヒトも話しかけてくれる。


学校がこんなに楽しく感じたのは生まれて初めてだ。


それから数日。


僕はすっかり明るくなった。


前の面影などほとんど感じさせない。


それどころか前の姿を知らないヒトは

普通の明るい子だと思うことだろう。


周りの人たちが慕ってくれる。


そんなことが日常化してきた。


そうなると喜びも減る。


だか楽しいのには変わりはない。


いつもどおり学校へ行く。


前までは少し遠回りしても

人気の少ない道を選んでいたが

今はそんな事は気にしない。


最短距離を進むために大通りを通る。


十字路の交差点で信号に引っかかる。


ふと反対車線を見る。


彼女がいた。


呼ぼうか迷う。


そうしていると彼女が気付いた。


手を振ってくる。


振りかえす。


僕のほうへ向かう信号は青。


横断歩道を彼女がわたってくる。


半ばまで来る。


そこで気が付いた。


が、もう手遅れだった。


彼女に気をとられ全然気が付かなかった。


彼女も同じ。


大型トラックが信号を無視して突っ込んでくる。


一瞬時が止まったかのようだった。


全てが遅く感じ、

そして一瞬だった。


トラックが通り過ぎる。


彼女が目の前からいなくなる。


トラックは止まらない。


ひき逃げ・・・?


その言葉が浮かんだが

頭が真っ白でナンバーは覚えていない。


不意に悲鳴が聞こえる。


ヒトが集まる。


誰かが叫んでいる。


『救急車を呼べ!』


ヒトが集まる場所へ目を向ける。


彼女がいた。


だがさっき見たときとは別人だ。


体のいたるところが

ヘンな方向へ曲がっているし。


極め付けが頭がつぶれている。


これを一般人がみれば

相当な精神的ショックだろう。


だが今のタクはまだ良く分からない。


呼べばまたあの笑顔で名前を呼んでくれるような気がした。


歩き出す。


人ごみを掻き分ける。


少し開けた場所にでる。


いた。


さらに近寄る。


膝をついて肩をゆする。


「ねぇ。

 何してんの。

 学校遅れるよ。

 ねぇってば。」


「お、おい君。

 何をして・・・ッ!?」


少年を見た男性は言葉を失った。


まるでレコードのように

同じ言葉を繰り返している。


そして・・・・・・


目が虚ろだ。


その目には他の人たちにあるような

驚愕の色はなく。


普通のヒトを見るような

目をしている。


それでいて何を考えているのか。

どこを見ているのか良く分からない。


そういう目をしていた。


それからしばらくして救急車が到着した。


そのときすでに少年は気絶していて、

少女と共に病院へ搬送された。


そしてこの事件のことは

瞬く間に地域中に広まった。


学校とて例外ではなく、

その日の夕方、

クラスの数人がタクの見舞いに来た。


タクはもう目を覚ましていて

呆然と壁を見つめていた。


友人が部屋に入ると顔を向けた。


友人が近寄って声をかける。


彼女が息を引き取った事。


ひき逃げをしたトラックの運転手がつかまった事。


それが居眠り運転だったこと。


全て話した。


しかしそれにタクは虚ろな返事を返すばかりで

しっかり聞いているのかすらわからない。


友人は仕方なく持ってきた果物だけ置いて帰る事にした。


次の日。


タクの身体に異常はなく。


すぐに退院する事ができた。


そしてその数日後に彼女の葬式が行われた。


タクも出席はした。


が、お焼香もあげる事無く、

ただ淡々と過ぎていく葬式の席に座り続けただけであった。


それから数日は学校にも行かず

リビングのソファで何もしない毎日が続いていた。


食事もろくにとらないので

どんどんやせ細る。


しかしそんなある日。


突然立ち上がると自分の部屋へ駆け込み

鍵を閉め、

誰にも入られない状態にした後

何かを作り始めた。


食事は前よりとらない。


睡眠も必要最低限のみだ。


それからまた半年ほどがたった。


2123年 4月12日

それは完成した。


ロボット。


この時代。


過激な進化を遂げたこの地球には

人工知能を搭載したロボットくらいは家庭で作れる。


しかし外見はロボット然としたものになってしまう。


それをヒトに限りなく近付けるとしたら

材料は手に入るがとんでもない技術が必要となる。


そして。


今タクの前にあるロボット。


その姿はあの少女そのものだった。


しかし彼女とは明らかに違うものがある。


あの明るさが欠けているのだ。


これでは彼女の魅力がまったくない。


そこへさすがに心配した友人が様子を見に来た。


ドアを叩く。


返事はない。


ドアノブを回してみた。


ガチャ


あいた。


そっと中を覗き込む。


目の前の光景に絶句した。


彼女だ。


あの時死んだはずの彼女がそこにいた。


だが・・・。


何か違和感がある。


そしてそれと共に。


タクがいた。


彼女に抱きついて何かぶつぶついっている。


近寄る。


そして気がついた。


これはロボットだ。


それもとても精巧な。


これをタクが作ったのか?


しかしそれどころではない。


「おいタク!

 なにしてんだよ。」


反応はない。


ひたすらロボットに向かって何かを呟いている。


「おい!

 タク!」


ロボットから無理やり引き離す。


「とりあえずお前は外にいろ!」


そういって部屋の外へ出す。


このロボットが・・・。


タクをおかしく・・・。


この手のロボットは、

人間でいう鳩尾みぞおちの部分に核体がある。


よってその部分を叩き潰せば機能を停止する。


ガスッ

ガスッ

ガスッ


近くにあったペンチで何度も殴る。


数回殴った後ドアをあける。


一瞬タクがいなくなっているのではないか、

という心配もあったがまだそこにいた。


「ふぅ。良かった。

 それよりタク。

 おまえだいじょ―――ッ!?」


後ろから何かに殴られた。


誰が・・・?


殴る事が出来るのはあのロボットだけ。


なぜ?


核は破壊したはず・・・。


そこで意識が途切れた。



それから数日。


近所のヒトから

最近見ないということで通報があり、

警察が訪れるとある部屋の前に

頭を殴打され

死亡した少年の遺体が発見された。


そして部屋の中からは

一体のロボットと

それに抱きつくようにして死んだ少年の遺体が発見された。


死因は餓死。


よく調べてみると

そのロボットは半年ほど前に交通事故で亡くなった少女と

同じ容姿をしていることがわかった。


そして少年は

そのとき一緒に搬送されていた事もわかった。


このことは翌日ほぼ全ての新聞のトップ記事となった。


ニュースでも何回も取り上げられた。


が、これも所詮他人事。


数週間もすると

その話題はまったく触れられる事はなくなった。


そしてこのことは

一部の人のみの記憶に残るだけとなった 。



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