一
言葉が当たり前の世界で、音楽がなくなったらどうなるだろう。
きっと人々から勇気がなくなる。
自信がなくなる。
そして、希望がなくなる。
音楽はそれほどまでに大事だと、私は思う。
「おはよう。」
当たり前の挨拶。これが言える相手がいるのはどんなに幸せなことか。
私は理解している。
「おはよう。朝ごはんできてるよ。」
優しい母がいることがどれだけ幸せか、私は理解している。
「今日発表なんだって?頑張れよ。」
「うん。ほどほどにね。」
冗談が言える父がいることがどれだけ幸せか、私は理解している。
「行ってきます。」
これは「ただいま。」とセットだということを、私は理解している。
「ただいま、もう、どこへも行かないよ♪私はここにいるよ♪だからね、あのね、泣かないでね…うーん、違うなぁ…。」
歌うことが好きな私は,いつも独自の歌詞を作っては、自分でメロディをつけて歌ってみる。でも、いつも違うな、と思う。
「み〜なせっ。何してんの?」
彼は幼馴染の久藤 浚。
可愛い声をしておいてこいつは男だ。
ただの腐れ縁。
「別に。あんたには関係ないでしょ。」
いつものように冷たく返してみる。彼はいつも決まって悲しそうな顔をする。その顔が面白くて、揶揄いたくなってしまうのだ。
「いっつも教えてくれないのなー。」
頬を膨らませて怒る姿はお子ちゃまである。何年経っても弟のような存在だ。実はこいつの方が年上だと気づいたのは、ごくごく最近のこと。
「……あ、俺今日体育なのに体操着忘れたわ。水瀬、貸してくんね?」
登校中に言うことだろうか。私は呆れながら「はいはい。」と返す。良かったな、男女で違う体操着ではなくて。男が青、女が赤という時代もあったらしいが、今はどちらとも青である。
「私の体育2時間目だから、それ終わったらね。」
そう言って違う教室へ向かう。
こんな様子も、もうすぐ一年経とうとしている。
「音遠おはよ!」
彼女は友達の早川 真紀。私の趣味も理解してくれるいい子だ。
「おはよう、真紀。」
私は趣味が趣味なので、友達が少ない。真紀以外にほとんど友達はいない。
趣味、歌詞を書く。
特技、声の演技。
そんなもんだから、私はただの変人のように扱われる。
家に帰ったらまず真っ先に、歌詞を書く。今日思ったことや、出来事を文字に起こすことで、今日の私も救われる気がするのだ。
その言葉を歌詞にするには、音楽にするしかない。私は歌うことが好きだ。だから、それにメロディをつけて歌ってみる。そうすると、その言葉達は生きている気がするのだ。




