Part7 シンデレラ
Part7 シンデレラ
駅に着いたのは10時40分だった。
彼女の姿はまだ見えない。
電車の到着時刻は 42分、48分、53分、57分の4本。
きっとこのどれかに乗っているだろう。俺は改札口の正面で待つことにした。
42分すぎ、改札を出る人々の中から彼女を探す。いない・・・次第に人影はまばらになり、やがて、途絶えた。
いない、か。まだちょっと早いし・・・。
けれど、次の電車にも、その次にも彼女の姿はなかった。
次が11時前最後の電車だ、きっとこれに・・・。目をこらして彼女を探した。だけど、見当たらない。
遅刻かな。早く起きていたから、寝坊ってことはない。天気悪いから出かけるのがいやになったとか。あ、でもさっき、メールでどしゃぶりでもハッピーって・・・まさか何か事故でも。
俺がいろいろと思いを巡らせているとき、
「そこのイケメンのお兄さん、あたしとデートしない?」
突然後ろから声をかけられ、俺は慌てて振り向く。
そこにはにっこりと微笑む彼女がいた。
「え、なんで。いつからそこに」
「15分くらい前かな。ちょっとほかに用事があったから、早目に来てたの」
「声かけてくれればよかったのに」
「すぐ後ろにいるんだし、気付くまで黙っていようかな、って。そしたら全然気付かないんだもの。改札の方ばっかり見て、美人でも物色してたの?」
そう言うと彼女はちょっとふくれて、上目使いで俺を睨んだ。
うわ、かわいい。滅茶苦茶かわいい。
「うん・・・」
「ええー、ひっどーい!」
「で、今やっと見つけたとこ」
「ちょ・・・橘くん」
一瞬泣きそうになった彼女の顔がみるみる赤く染まる。
いやもう、何と言うか、殺人的に可愛い。
それに・・・
「今日の服、すごく可愛い」
大学ではわりとカジュアルな服を着ていることが多くて、それはそれで似合ってるんだけど、今日はふわっとした、ピンク系の小花模様のシフォンワンピースでいつもとは雰囲気が全然違う。羽織っているジャケットも桜貝みたいなやさしいピンク色だ。そして足元はくるぶしまでの白いショートブーツ、シューレースもピンクのリボンで、こんな憂鬱な天気なのに、そこだけ春が来たみたいだ。
「そう、よかった。昨日買ったばかりなの」
それは、俺に見せるため?と、都合よく解釈してみる。
「よく似合ってるよ、お姫様みたいだ」
「うわ、褒めすぎだよ。ホメても何もでないからね」
彼女は照れたように微笑んだ。
柔らかそうな栗色の髪が肩先で揺れる。染めているのではなく、生まれつき色素が薄いらしい。目の色も黒ではなく、コニャックみたいな、綺麗な琥珀色だ。
ほんとにお姫様みたいに可愛い。
喩えるなら、両親に愛されて育った幸福なシンデレラ姫、そんな感じ。
ふと、中川碧の漆黒の瞳と赤い唇のイメージが甦ってきて、俺は思わず頭を振った。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない、行こうか」
「うん」
勇気を出して、彼女の右手を取った。絡み合った10本の指、彼女の温かさが伝わってくる。
俺は彼女の手を強く握った。
俺のお姫様は柚木美紅だけだ。
蒼くん、なにも5回も「可愛い」って言わんでもいいと思う。
あ、実際に言ったのは一回か。
中川さんが白雪姫なら、美紅ちゃんはシンデレラ姫かな、と思ったので書いてみました。




