Part5 君の名を呼びたい
Part5 君の名を呼びたい
その時、ポケットの携帯が鳴った、彼女からだ。
携帯を開く一瞬さえもがもどかしい。
「もしもし!」
“どうしたの、そんなに勢い込んで”
彼女の明るい声に心から救われた気がする。
「あ、いや。今すごく会いたいな、って思ってたところだったから、以心伝心かな、とか」
“うーん、そうかも。あたしもね、今メールするつもりで携帯出したんだけど、なんだか急に橘くんの声が直接聞きたくなったの”
冷えた体に温かい飲み物が染み渡っていくみたいだ。
“今日はごめんね、せっかく誘ってくれたのに”
「いや、いいよ。こっちこそ今まで忙しくて会えなくてごめん。今日は楽しんでおいで」
“うん、ありがとう。あとで写メ送るね。あさっては11時に駅でいい?”
「いいよ、改札で待ってるから」
“じゃあ、また明日”
「うん、じゃあ」
そう言って電話を切る。
ほんとは最後に「愛してる」とか言いたかったけど、どうにも恥ずかしさから勇気が出なかった。
だけど・・・
よかった、声が聞けて。
着信履歴には「美紅」という文字が残る。
彼女のフルネームは、柚木美紅。
サークルの顔合わせの時、連絡用に、という名目でメアド交換した。赤外線受信した名前を見て、「なんて読むの?」って聞いたのが、初めて交わした言葉だった。
「ゆうき みく、です。文学部1年、どうぞよろしく」
にこっと笑った彼女の笑顔の眩しさが今でも忘れられない。
「ええと、たちばな・・そうすけさん、かな?」
「そう。でも俺の名前も読みにくいだろ」
「確かに。あたしなんか、一回もまともに読んでもらえたことないの。自分の名前はきらいじゃないけど、もう少しわかりやすいといいなあって思う。あれ?」
「なに?」
「あたしたちの名前、ちょっと似てない?どっちもファーストネームに色が入ってるし、苗字は柑橘系の果樹」
「柚木美紅、橘蒼祐、ほんとだ。すごい偶然」
これがきっかけになって、俺達は急速に親しくなった。
やたらと読み間違えられることが多くて、いつも自己紹介のときは自分の名前の読みづらさに親を恨んだりもしていたけど、このときばかりは両親に感謝した。
それからしばらくして、フルネームで入っていた彼女の名前をこっそり「美紅」に変えた。
いつか「柚木さん」じゃなくて、「美紅」って呼んでみたい、そう思って。
あれから、もうすぐ1年。
柚木美紅は俺の「知り合い」から「友達」になって、「彼女」になったけど、未だに彼女をファーストネームで呼べてない。
そして、彼女のほうもまだ俺のことを「橘くん」と呼んでいる。
そろそろこの状態をなんとかしたい。
たけど、こういうことって何かきっかけがないと、変えるって難しいんだよなあ。
俺は小さくため息をついた。
名前、呼びたいな・・・。
美紅・・・。
やっと彼女の名前が・・・。
美紅ちゃん、「あか」ですね。蒼くんが「あお」で、中川さんが「みどり」
そう、光の3原色です。
虹は光ですので、この話を構成する3人を3色に当てはめてみました。
もちろん、三角関係という含みもあります。蒼くん気付いてないけど・・・。
美紅ちゃんと中川さんは対比の関係でもありますが、それはまたのちほど・・・。




