言わなければならないこと
虹色マカロン Part17 言わなければならないこと
「あの・・・」
「なに?」
「この映画、今日どうしても見たい?」
「どうしても、ってことはないけど。なんでそんなこと訊くの?」
彼女は不思議そうな顔をして尋ねた。
ああ、やっぱり気付いてなかったんだ。
「これを観ていたら2時間以上かかる、もう10時近いから、終電に間に合わない」
言ってしまった・・・。
でも、多分これで良かったんだろう。
策を弄して彼女を引き止めたりしたら、後で自己嫌悪に陥るに決まっている。
彼女は振り返って時計を見、ついで俺の顔をじっと見つめた。なんだか悲しそうな顔だ。
どうして・・・
俺何かまずいこと言ったんだろうか。
「そっか、そうだよね」
彼女はいきなり立ち上がった。そして・・・
「もう帰るね、明日返すから傘貸して」
言うなり踵を返して玄関に向かった。突然の出来事に驚く、なんでそんな急に。
「あまり長居しちゃ迷惑だよね。ごめん、いきなり押しかけて居座っちゃって」
彼女の言葉に衝撃を受けた。
まさか、そんな風にとられるなんて思ってもみなかった。
違う、そうじゃない、そうじゃないんだ。
「ちょっと待って、迷惑なんかじゃない!」
「一人で帰れるから送らなくて大丈夫、またね・・・」
聞く耳は持たない、というように、後ろをむいたまま彼女が言う。
頭の中で警鐘が鳴り響く。
今彼女を帰しちゃいけない。
今、ここで彼女を引き止められなかったら、二度と彼女の心を取り戻せない、そんな気がする。
待ってくれ、まだ・・・
そうだ、俺はまだ何も言ってない。
言わなきゃいけないのは、本当は終電の時間なんかじゃない、言いたかったのは、言わなきゃならないのは・・・。
俺の、本当の気持ち・・・。
「さよなら・・・」
そう言って、玄関で靴を履きかけた彼女の背中に向かって、俺は叫んだ。
「美紅!!」




