Welcome to My Theater
虹色マカロン Part13 Welcome to My Theater
「きれいにしてるね。あたし、男の人の部屋って、もっと散らかってるのかと思った」
部屋に入るなり、彼女が言った。
男の部屋か・・・“比べる対象ってどのくらいあるのかな”とか、ちょっと思ってしまった。
俺と出会う以前、“もう、しょうがないなあ・・・”なんて言いながら、散らかった彼の部屋を掃除してたりしたんだろうか。ささいな一言に、つい、嫉妬心が頭をもたげる。
いや、よそう。過去はどうでもいい、ってさっき決めたばかりなのに。
「散らかすほどモノ持ってないからさ・・・」
頭の中に浮かんだ光景を振り払い、俺は彼女に答えた。
彼女はああ言ってくれるけど、きれい、というよりは「殺風景」といったほうがふさわしいだろう。
東京のアパートの部屋は、狭い。
決して財政的に豊かとはいえないから、家具も家電も必要最低限のものしか置いていない。
あるものといえば、机と本棚、食事をするための小さな折り畳みテーブル。シングルサイズのベッド、あとはTVとDVDのプレイヤー、ノートパソコンくらいだ。
服はクローゼットにしまえるぶんだけ。それ以上は増やさないことにしている。
件のDVDプレイヤーも自分で買ったものではなく、終電逃すたびに俺の部屋に泊まりにくる先輩が「宿代がわりだ」と言ってタダで譲ってくれたものだ。本当の理由は「ブルーレイのレコーダー買ったからいらなくなった」というものだったけど。
しかし、ブルーレイとは、自宅組は豊かでいいよなあ・・・。
まあ、そんなことはどうでもいい。
それより、彼女をどこに座らせよう。
普段、友達が来たときはベッドをソファがわりにしている。ちょうどベッドの正面にTVを置いているからだ。
だけど・・・。
女の子をベッドに座らせるってのは、どうも・・・。
明らかに下心満載に見えるだろうし、正直、俺も自分の理性に自信が持てない。
結局、テーブルを少しずらし、その前にひとつしかないクッションを置いた。狭いからすぐ後ろがベッドになってしまうけど、背もたれ代わりだと思ってもらおう。
「どうぞ、狭いけど・・・」
「ありがとう」
彼女を座らせ、隣に腰を下ろす。
息遣いが感じられるほどの近距離、ほんとに二人きりなんだな、と思うと、緊張からか興奮からか、また心臓の鼓動が速くなってきた。
「ねえ、何見る?」
彼女の言葉に我に返る。
そうでした、目的はそれだ。雨が降りそうだから映画館じゃなくて自宅で映画を見ること。決してキスするためじゃない、とか、もうしておいて遅いけど。
「任せるよ、どれでも好きなように」
「うーん、じゃあ、これ」
「OK」
ディスクを受け取って、プレイボタンを押す。
「俺のホームシアターへようこそ、って。狭いアパートのブラウン管TVだけどさ」
「あはは・・・」
彼女が快活に笑う。今日はなんとなく沈みがちだったから、笑い声にほっとした。彼女の屈託の原因はわからないけど、くだらない冗談でも笑顔を見せてくれれば、それでいい。
と、
ふわっと甘い香りがした。
彼女が俺の左肩に頭を乗せる。やばっ、また心拍数上がってきた。
「3Dの最新映画よりこっちのほうがいいよ。橘くんとふたりでいられるもの」
え・・・。
これって、かなりいいムードなんじゃ・・・
そう思ったとき
「あ、映画始まったよ」
「あ、うん、うわっ!」
画面に映し出されたものに思わず腰が引けてしまった。
「な、なんでいきなりホラー映画?」
「だって、暗くなってからじゃ見るの怖いんだもん・・・」
・・・。
ついよからぬことを考えてしまった報いなんだろうか、これは。
俺は画面の中の青白い顔の亡霊にむかって毒づいた。
・・・ったく、恨めしいのはこっちだよ。




