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雨音のなかで

虹色マカロン Part12 雨音のなかで



レンタル店を出たところで、ぽつりと雨が落ちてきた。

ここからアパートまで10分、俺はともかく、彼女を濡らすわけにはいかない。


「走るよ、いい?」

「うん」


俺は彼女の手を掴んで走り出した。そういえば、大学に入って以来、走ることなんてなかったな。なんだか、懐かしいような感覚だ。そんなことを思いながら、3つめのコーナーを曲がる。

ようやくアパートが見えてきた。外階段を駆け上る、なんとか間に合いそうだ。


ドアを開けて、転がるように中に駆け込むと、まるでそれが合図のように激しい雨音が聞こえてきた。どうにかセーフかな。少しだけ濡れてしまったけど、なんとかずぶ濡れになる事態だけは避けられた。

彼女の方を見ると、ドアにもたれ、肩で息をしていた。全力疾走したわけではないけど、女の子にはきつかったかもしれない。もう少し考えてあげればよかった。


「ごめん、無理させて。大丈夫?」

「はあ・・・うん。ちょっと休めば。疲れたけど、おかげで濡れずにすんだよ、ありがと・・・。それにしても橘くん、足、速いんだね。こんなに走ったのに全然息乱れてないし・・・」

「ああ、小学校からずっとサッカーやってたから、走ることには慣れてるかな。100メートルは12秒台だから、まあわりと速いほうだとは思う」

「わりと、って。すごいよ、それ」

「そうかな」

「うん」


彼女から尊敬の眼差しで見つめられると照れてしまう。

俺の出た学校はサッカーに関してはかなりの強豪校で12秒台なんかザラだったし、11秒台も結構いたから、さして自分が速いって自覚はなかった。

それにしても、こんなことがポイント高いなんて思ってもみなかったな。


「橘くん、モテたでしょ、中高生のときとか」


は?何でそんな話に?


「運動神経いいし、頭もいいし、かっこいいし・・・」


う、うわ。ものすごく買い被られてる。相当補正が入ってるとしか。


「すごく可愛い彼女がいたんじゃないかな、とか。あ、やだ、あたし何言ってるんだろう」


俯いてしまった彼女の肩にそっと手をかける。何でこんなこと言い出したのかはわからないけど、不安そうな彼女を何とかしたあげたくて。


「あの、ご期待に添えなくて悪いけど、今まで彼女はいなかった」

「うそ・・・」

「いやマジで。俺、中高一貫の男子校出身だし、放課後もずっとボール蹴ってたから女の子と知り合う機会とか皆無」

「そう、だったの・・・」


彼女はほおっとため息をついた。そんなこと気にかけてるなんて予想外だった。

俺にしてみたら彼女のほうがよほどモテそうで、気にしだしたらきりがないんだけど。

先輩と同じ高校ってことは確実に共学だったわけだし。

でも・・・


「変なこと訊いてごめんね」


なんて言われたら、過去がどうのこうのなんて、もうどうでもよくなった。


サークル勧誘の日にビラ配りをしていた彼女に一瞬で目を奪われた去年の春。TVの画面でもグラビア雑誌のページでもない、生身の女の子に見惚れてしまったのは、あれが初めてだった。

それから、長い片思いの時期を経て、今、俺の傍に彼女がいてくれる。それがどれだけ素晴らしいことか。


俺は彼女を抱き寄せた。

俯いている彼女の顔を上げて、そっと唇を重ねる。

レンタル店からここまで走っても、少しも変化しなかった心拍数が一気に上がった。

次第に激しさを増す雨音を聞きながら、甘い唇を味わう。

離したくない・・・。


好きだ・・・。






蒼くんの経歴と、美紅ちゃんの嫉妬・・・。

今まで蒼→美紅ばかりだったので、美紅ちゃんがどれだけ蒼くんのことが好きか、ちょっとでも伝わればいいかな、と思って書きました。

ずぶ濡れでキスってのもロマンチックですが、そのあとの展開がR指定になりかねないので自重しました。

ああ、やっぱり書いてる人間が穢れてるわ・・・。

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