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エピローグ

本当の最終話です。

気がつくと、俺は寂れたシャッター街にいた。スマートフォンを耳につけている状態で。

戻ってきた。あの時に。神と電話していた時に。


つまり⋯⋯。電話がかかってきた。病院からだった。


「もしもし」

『お兄さんですね。今すぐに病院に来れますでしょうか』

「はい、今行きます」


スマートフォンをポケットに入れて走った。



◇◇◇◇◇◇



病院の中に入った。受付を無視して、松葉杖をついている患者の横をスレスレで通り抜ける。リコのいる病室に入った。


「リコ!」


そこにはベッドに横たわるリコと、沈痛な面持ちをしている医師と看護師がいた。その二人には目もくれず、リコに駆け寄る。リコは寝ていた。


「おい、リコ。起きろよ。兄ちゃん、来たぞ!」


そう言いながら、肩を揺らす。が、なかなか起きない。


「お兄さん⋯⋯⋯⋯」

「なんですか?」

「妹さんは⋯⋯⋯⋯亡くなりました」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯は?」


いやいや、何を言ってるんだ。俺は神に生き返らせてくださいって頼んだのだ。きっと今にも起き上がるはずだ。


「いや、それは嘘でしょう。きっと今にも起きますよ。ほら」


そう言って、リコの両肩を揺さぶった。


「ほら、リコ。起きろって!」

「お兄さん!!」


急に医師が怒鳴った。それに驚き、揺さぶる手が止まる。


「妹さんは、亡くなったんです」

「⋯⋯はは、いや、そんなわけないでしょう。だって、俺は。神に頼んだんですよ?」

「落ち着いてください」

「いや、神に頼んだんだって。そうじゃなきゃ、俺はなんのために?」

「落ち着いてください!」

「なんでだよ! 俺の願いを叶えるんじゃなかったのかよ! 一体俺はなんのために苦労したんだ! おい、神! 説明しろよ!」

「警備員の人!」


駆けつけた警備員が俺を取り押さえた。


「放せ! 俺とリコを引き離すんじゃねえよ!」


もがくも、屈強な警備員にはなす術もない。


俺は意識を失った。



◇◇◇◇◇◇



目が覚めた。俺はベッドに寝かされていた。


「起きましたか」


そう言ったのは、リコの担当をしていた看護師だった。


「俺、どうなってましたか?」

「あの後、泣き叫んで、意識を失ったんですよ」

「その⋯⋯⋯⋯すいません」

「いえいえ、ご家族を失って冷静でいる方が難しいですから」


俺は「もう大丈夫です」と言って病院を後にした。


葬式はしなかった。母親と義父が眠っている墓に、リコの骨を入れた。そこで、二週間ほど毎日訪れたが、父親は来なかった。



◇◇◇◇◇◇



今日の晩飯何にしようかな⋯⋯⋯⋯。


リコが死んでから二ヶ月経った。俺はいつも通りに高校に通い、独りの生活を送っている。大通りに出る曲がり角を曲がる。


そこで、少女とぶつかった。


「いたっ!」

「ご、ごめん」


俺とは体格差があったため、少女が尻餅をつく結果となった。引き起こし、状態を確かめるために顔を覗き込んだ。そこには、見慣れた顔があった。


「ミカ⋯⋯?」

「どうして私の名前を知ってるの?」

「だって⋯⋯」


そこまで言いかけたとき、神に言われたことを思い出した。


『生き返らせた人間が、ゲームに関する記憶を持っていた時、それを消去する』と。


それに則って、ミカの記憶は消去されのだ。

でも、どうしてミカが生き返ったんだ。ミカは確かに死んだはず。双子だったとか?

だったら、俺が名前を呼んだ時、自分の名前だと反応しないはず。



少し遅れて、大人がやってきた。ミカの父親だった。


「すいません。うちの子供が⋯⋯」

「いえいえ、だい⋯⋯じょう⋯⋯⋯⋯ぶ」


俺の言葉は途中で途切れた。俺は、父親の顔を凝視していた。父親もまた、俺の顔を見つめていた。


「リト⋯⋯」

「⋯⋯親父」


ミカの父親は、俺の父親だった。


「どうしたの、お父さん?」

「あ、いや、なんでもないよ、ミカ」


俺の父親は不倫をして姿をくらました。ミカは不倫相手の子供だったのか。コイツはのうのうと子供を作っていたのか。


完全に理解した。俺は願いを言う時に、名前を言わず、いもうと、と言ったのだ。血が繋がっていないリコより、半分血が繋がっているミカを優先したのだ。


「すみません!」


そこに女性が来た。どうやら、ミカの母親らしい。とても穏やかな雰囲気だ。おそらく、旦那が不倫をしていたなんて知っていないのだろう。血管がはち切れそうだ。俺らのことなんか綺麗に忘れて心機一転、心を入れ替えて新しい人生を送っていたのだろう。


「大丈夫ですか?」

「⋯⋯はい」


母親の心配の声に生返事をする。今ここで、「何してたんだよ親父! 不倫して姿眩ましやがって!」と叫ぶのは簡単だ。ただ、この家庭があるから、今母親にくっついているミカの年相応のあどけない笑顔があるのだ。あんな笑顔、デスゲームでは一切見せなかった。


それに、俺はもう誰も傷つけたくなかった。この家庭が俺によって壊されることで、ミカの笑顔が消えてしまうのが心底恐ろしい。


もし俺が壊しても、ミカにはゲームに関する記憶が消去されているため、俺のことなんか忘れている。自分には兄がいるということさえ、忘れているのだ。


それに、俺は生き返らせろと言った後、()()()()()()()()と叫んだ。


つまり、これが、この家庭の姿が、ミカにとっての幸せなのだ。そこに俺は居ない。


そもそも、兄ってのは妹の幸せを守るためにあるんだ。それが兄ってもんだろ?


だから、俺は。


「あの旦那とは面識があるんですか?」

「⋯⋯いえ。少し、知り合いに似ていたもので」

「はあ⋯⋯それより、怪我はないですか?」

「自分は大丈夫です。それより、お子さんを心配してあげてください。自分は用事があるので、これで」


青い顔をして黙りこくる父親と、訝しがる母親と、純粋な目で見上げてくる妹の横を、会釈して通り過ぎた。


誰もいない家に帰るために。

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