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半月巡り

作者: 輝一




「あたし、あと半年で死ぬんだー。」



村上咲の何故か元気よく解き放つその言葉が耳に刺さった。



夏のジメジメした蒸し暑い夜に

俺はひとりでコンビニへ出かけた。


22歳の俺は高卒からフリーターとして働き、実家を出て、毎日をただ繰り返していた。


ミーンミーンと街灯があるせいか夜なのに蝉がうるさい。


飲み物とアイスを買った。


帰路に着く途中にあるバス停の前のベンチで

同い年くらいの女の子が座っていた。


ふと視線が重なってしまった。

実は夜コンビニに行く途中で何度かこの子をみかけていた。


そして月日が経ち、


半年ほどそのバス停のベンチでみかけていたが、

突然パタリと姿が見えなくなった。





ちょっとくらい話してみたかった。




ある日寒さで夜に目が覚めた。


次の日はバイトが早出なのでもう少し寝たいが寝られない。


ふとカレンダーをみると2月2日。


暖房のリモコンを探そうと立つと急に立ちくらみ、倒れた。


机に頭をぶつけそのまま気を失った。


目を開けると蛍光灯がまぶしい。

どうやら気絶してしまったのか、と自覚して不安になり深夜病院に行こうと決めた。


外はジメジメと蒸し暑い。


暗闇をぽてぽて歩いて近くの大きい総合病院の救急窓口へ向かう。


そこで俺はやっと気がついた。


「ん?蒸し暑い?」

「なんで俺はそれなのに厚着なんだ?」と。


病院の前で立ち止まっていると女の子とすれ違い向かい側のバス停のベンチに座った。


あたりに人がいない。


スマホを探すが、どうやら忘れてしまったらしい。


そして視線が重なる。


向かいのベンチの女の子と。


「あっ」と声が出てしまった。


俺はもしかしたら、生まれてはじめて勇気を出したかも知れない。


「すみません、今日って何月何日ですかね?」


俺はベンチに歩み寄り女の子に声をかけていた。


ナンパではない。決して。ナンパではないのだ。


そう思いながらも


「8月2日ですけど...?」と女の子の声。


ちょっと待て、俺がカレンダーみた時は2月2日だったぞ?


暑さと戸惑いで汗が止まらない。


「どうしたんですか?」女の子に問われる。


「いえ、スマホを家に忘れてしまって日付が確認できなくて.... 急にすみません。」


と答え、


女の子を見ると何か返事をくれたのだが、

この子ともっと喋りたいという気持ちに押され、


「よくここにこの時間座ってますよね?」

と言ってしまった。


「え、はい。よくと言ってもまだ数回ですが... 」と女の子。


しまったと。

ストーカー的なことを言ってしまったと後悔した。


すかさず、

「この先のコンビニによく行くので帰りがけによくみかけていました。」


と。


口が災いの元とはよく言うくらい口が滑っていく。


「そうですか、あたし、目の前の病院で入院しているのでよく夜に抜け出してここに来るんです。」と女の子。


「どこか具合悪いんですか?」ときいてみた。

デリカシーのなさがよく出ているぞ俺。




「私、癌なんです。」



女の子が少しニコッと笑った。


何かが来た。

いや、俺の中で死と直面したことがないからか、何か心臓に来た。


「そ、そうなんですね...

変なこときいてすみません...」


はじめてデリカシーの無さを呪った。


「いえ、あたしこそ、初対面なのにごめんなさいね?」

「話し相手が欲しかったのでついつい要らないことまで喋ってしまいました。」

「なので、こちらこそ、ごめんなさい。」


と女の子。


「俺、相坂直哉。」何故か自己紹介してしまった。


「あたしは、村上咲。これからみかけたら話かけてね?」



それから俺たちはよくここのバス停のベンチで見かける度に視線を合わせ会話を沢山した。


同い年という事。

ホラーが好きという事。

青色が好きという事。

大きい音が苦手という事。


色々村上咲を知った。



のだが、その前にもう1つわかったことがある。




俺は半年前にタイムスリップしていたのだ。


理由はわからないが、


家で気絶し、半月戻ったのだ。


覚えのある日々を過ごした。


が、変わったのは村上咲との思い出だけプラスされていく日常だ。


それからよく村上咲に会いに行った。

バス停のベンチへ。


直接行くと恥ずかしいのでコンビニ袋をぶら下げてあくまでもさりげなく会いに行った。


夜20時頃から3時間は毎日喋っていた。


気付けば俺は村上咲という女の子に心を鷲掴みにされていた。


そして、振られた。

10月の事だ。

出会って2ヶ月で告白ってのも変な話だが、毎日3時間喋っていれば中々濃ゆいとも思う。


もちろん、振られた理由はあれだ。


「あたしには時間がないから駄目。ちゃんとした子とお付き合いしなよ?」


って村上咲は言うんだ。


でもな、不思議なもんで人間って釘付けになったら駄目だよな。


「わかった、友達でもいいから仲良くいてよ。」


と俺。


それからまた月日が経つ。





村上咲は2月に亡くなった。




本当に半月ポッキリで。


ある日から突然姿がみえなくなり、病院できいて知った。


1人でベンチに座っていると涙がとまらない。


すると急に声をかけられた。


「あなたが、相坂くん?」


村上咲の母親だった。


「いつも咲と仲良くしてくれてありがとうね。あの子毎日あなたの話ばかりしていたの。」


「夜病院を抜け出してたのをある日見つけてしまったんだけど、あの子がどうしても許して欲しい、見逃して欲しいってお願いしてきたの。」


「相坂くんとお話がしたい。」


「泣きながら訴えてきたのよ。

人生で最後の片思いだって。」


俺は頭が真っ白になった。


母親の立ち去る姿をみながら、

村上咲を思い出していた。


家に帰り冷えた身体を温めようと暖房をつけ眠りにつく。


そして目が覚め、


立ちくらみで倒れ気絶した。






また半年前に戻ったのだ。



そこからは冷静に理解できた。


同じことを繰り返す日々。


村上咲ともわざと同じように出会い、


同じように別れた。



そしてまた半月戻る。


繰り返して行く度に気づく。



俺は、


歳を重ねていた。



戻りはするが、身体は老けていた。



繰り返す度、村上咲との歳の差が離れていく。


現実とのギャップも生まれてきた。


半年ずっと家族とは会っていなかったので誤魔化せたが、


おじさんになってきた頃には流石にバイトは22歳の相坂直哉では出来なくなったので、なんとか貯蓄で質素に生活した。


村上咲とも段々接し方は変わっていった。


40歳あたりからは、

はじめて村上咲に話しかける第一声には慎重に考えた。


恋愛対象としてはみられなくなったとしても構わなかった。


それでも俺は村上咲に会いたかったのだ。


繰り返し、繰り返し、


気付けば俺は80歳のおじいさんになっていた。


村上咲もおじいさんの俺とよく話をしてくれていた。




そうして、


俺が村上咲より先に老衰で死ぬ時が来た。




最初は、


神様はなんて残酷で、有り難い能力を俺に授けたんだろう。って思っていた。



村上咲をはじめて知った時は、


ちょっとくらい話してみたかった。という願いから


半年を繰り返し出会う度、


死ぬまでそばにいたい。


という願いに変わり、叶った。




なので、


言わせてもらうよ、神様。





「いい人生でした。」





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