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まどろみの午後二時に・小さな島で・ひびの入ったビー玉を・とりあえず叩きました。

「離島なんてつまらないよ」

 そう呟くと、目の前の席の長い爪を器用に使ってポテトを食べている同級生が非難の声を上げた。

 「まーた天の邪鬼が出たよ。あんたねえ、離島なんて憧れじゃん? もっと夢持ちなっての!」

 そう言ってポテトを口に運ぶ。邪魔にならないなんて器用なものだなと私は感心しながら、でも離島についてはもの申したい気持ちでジュースのストローから口を離した。 「だって、行ったことあるけどさ」

 「うそ、マジ!」

 「あるよ。家族旅行で。まあ10年くらい前だけど」

 「いーなー、ロッコそういう所あるわー。しれーっと行ってしれーっと帰ってんの。マジうらやまなんですけど」

 「家族旅行ならあるでしょ? みーなだって」

 「ないない! うち貧乏だし。えー。ゆっかとすがっぺは? あるの?」

 「離島とかはないわーうちも貧乏だし」

 「うちも同じ。TDLがさいきょー」

 「いーないーな、うちTDLも無いもん」

 みーなは長い爪の女だ。睫もレインボーに彩って、よく学年主任から呼び出されるが己を曲げない。ゆっかは自分と同じで化粧っけは無いが、顔立ちの可愛い子である。よく上級生に呼び出されて告白を受けている。本人に恋愛する気がないようだが。すがっぺは、みーなと同じようなギャルである。そして私、ロッコは化粧っけもなければ顔も可愛くはない女だ。皆同じ高校の同級生だ。一年生の時、たまたま班がこの四人だったというだけの繋がりだが、なんだかんだと仲良くやっている。

 「ロッコはさーなんか離島の思い出ないの」

 「無いね」

 「なんかあれしー」

 「だって10年前だとマジのド田舎だったもん。キッズケータイが繋がんなくてさーそんで虫は出るし、星が綺麗だぞ!と親に言われたけど、まじそれだけだったわ」

 「うえ、それマジ? 虫はギリなんとかなるけどさ、ネットはきちぃわ・・・インスタも見れないって死ぬわ」

 「でしょ? だからあんまいいもんじゃないって。まあ、今は繋がってるかもね」

 「あたし、虫は無理だ~」

 ゆっかが口を挟む。

 「フナムシっていうの? 海の上のロッジだったから結構出た。めっちゃきもいの」

 「うわー想像したくねーやめてー」

 ゆっかがブンブン首を横に振る。だがみーなは、他の単語に食いついた。

 「海の上のロッジ!? マジ、めっちゃいいじゃん!」

 「だから虫が出るよって。あと、ネットは繋がらないって。だからもーほんと、親に文句言いたくないけどさ。うちの父さん今キャンプとかハマってて、庭でBBQとかやり出すんだけど・・・まじめに勘弁なんだよね。自然大好きっていうの? 星が綺麗だぞーとか、海が綺麗だぞーとか言われたけどさ」

 「綺麗だったん?」

 すがっぺが尋ねてくる。

 「綺麗は綺麗だったわ。でもそんだけ。貝殻拾いなさいとか母親に言われたけど、いらねーって感じ。砂浜は沈む感じで気持ち悪いし、素足でなんか踏むかもしんないのに弟もおやじも歩き回っててさ、マジに理解が出来ない」

 「ロッコ、インドア派だもんな~え~うちなら楽しみまくるのに」

 「みーなに変わってもらいたいわ。そん時だけ。そんでネットなしだけど」

 「あーそれはお断りだわー」

 「でしょ? まあ今はネットぐらい繋がるでしょ。知らないけどさ。もう行かん」

 「今は旅行行かないの?」

 「行かん、断固拒否してる。まじやることなくて、二時ぐらいの日差し強いのにロッジにもいたくないし、海も飽きたしで、四つ離れた弟のおもちゃで遊んでたもん」

 「ウケる、精神にダメージ来てるじゃん」

 「だから向き不向きがあるんだって。あーでもみーな彼氏いるっしょ? 二人っきりでイチャイチャ出来るしいいんじゃね?」

 「それ採用! マジいいじゃん。あとはネットだな」

 「たぶんもう大丈夫だとは思うって」


 そんな会話が聞こえてきて、私は思わずスマホを開くとメモをした。「女子高生向け ネット充実」とだけ打ち込む。ツーリストの私は、休憩中のファストフード店で思わぬ会話を耳にして、はあはあなるほどと声には出さずに感心していた。女子高生向けのツアーは、主に卒業旅行か、有名どころの東京ディズニーランドかユニバーサルスタジオジャパンになる。彼女らの会話は卒業旅行の際に、広告に使えるなと思ったのだ。「Wi-Fi繋がってます!」これを全面に打ち出せば、彼女らの不安は解消されるに違いない。多少デザインが崩れるからと上司に怒られる可能性はあるが、たまにはリサーチ出来たことをそのまま反映してみてもいいだろう。とっくの昔に繋がらない離島は少ないものの、それでも彼女らが一歩違う世界に踏み出す手伝いをするのだ、大人から見たら些細な不安を取り除いてあげるのは悪いことではない。それに、あわよくばお金を落としてもらいたい。そんな期待を胸に秘め、私は何事もなかったかのように手を静かに合わせると、トレーを持って返却口へと急いだのだった。

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