表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/29

まずは婚約破棄、させましょう

「その前に、婚約破棄しなくては」


 私は、実行を迷っていた最大の問題を解決できている。

 行くべき場所を見つけたのだ。


 そうとなれば婚約破棄だ。

 婚約したままだと「王子の婚約者が失踪するなんて、王子の体面が傷つく!」と面子のためだけに探されてしまうので、必須。


 ただ、きちんと王子の方から、他の人々にわかるように婚約破棄をさせたい。

 そうすれば、婚約破棄をされた私はプライドが傷つき、失踪した……という誰もが納得する理由ができるし、王子達は私を探せなくなる。

 私を探したら、王子が私に執着しているという間違った噂が広まってしまうから。

 

 伯父は私を探さないだろう。

 王子との婚約がなくなったら、利用価値が激減する。しかも不名誉な婚約破棄となれば、他の家と縁付けることができなくなるのだ。

 そうなったら、私を領地の館に押し込めたうえで、どこからか養女を迎えるのかもしれない。


「できるだけ手っ取り早い方法はないかしら」


 考えた末に、翌週、私は直近で行われる王宮のパーティーへ出席した。


 宴もたけなわの頃……私は標的を見つける。

 会場で給仕の一人として、ワインを運んでいた王子の恋人のメイドだ。


 貴族の何人もが、先日は王子の隣にいたのにと、彼女のことをちらちらと見ている。

 笑みを浮かべないよう気をつけつつ、ワインを欲しがっているふりをして彼女を招き寄せ、持ち上げたグラスからワインを彼女の頭にかけてみた。


「何をしている!」


 ちらちらとメイドを見ていた王子は、すぐさま駆けつけた。

 カナード王家の人間に多い黒髪のオルフェ王子は、ご令嬢達に評判のいい顔立ちを怒りでゆがめる。

 私は優雅に口に手をあてて笑った。


「あら。私に傷をつけておきながら、他の娘と浮気をしようとしたあなたが悪いのでは? 私はそれを止めようとしているだけです。身の程知らずの娘に、引くように諭すことで」


 私の言葉に、オルフェ王子は歯を食いしばる。

 さあ、早く婚約破棄したいと言って。

 そして私は、メイドと堂々と逢引きをして私を足蹴にするこの王子との関係に始末をつけるのよ。


 王子の後ろにいるメイドは、私をにらんでいた。

 王子が愛しているのだから、貴族令嬢である私よりもメイドの自分の方が立場が上だと思っているからだろう。


「……女狐め」


 王子がようやく絞り出した言葉に、私は高笑いしたくなる。


「あら。女狐だなんて言われるようなことをしたかしら? 人に怪我をさせておいて他家に嫁げなくしておきながら、メイドに手を出したくせに」


 これぐらい煽れば、王子は爆発するはず。


「お前との婚約など破棄してくれる! 王家への侮辱、許すわけにはいかない!」


 はい、予定どおりに婚約破棄宣言をいただきました。

 もちろんパーティーには国王陛下もおりまして。

 騒ぎに気づいて近づいて来ていた国王陛下が、渋い表情で王子の宣言を追認してくれました。


 王族が間違ったことを高らかに宣言したなんて、認めるわけにはいかないものね。

 思った以上にうまくいったことで、私はほくそ笑んでいた。


(こんなに簡単だったのに、どうして私は踏み出せなかったのかしら)


 そう思った私だったが、すぐに気づく。

 そして悪評のある自分でも、優しく対応してくれる人がいると知った。

 だから、勇気を持てたのだ。


 あとはうまく逃げるだけだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ