結婚しても大丈夫ですか?
オリヴェイルは、ジュリアンと具体的な話を進める。
「で……君と結婚するって?」
「はい」
「……その方が魔術師協会的にはいいけど。大丈夫なの? 色々あるんでしょ?」
「彼女に見合うだけの身分のことを考えても、ソーンツェの花の事情を考えても、僕が適任です。彼女の事情もわかっているわけですし」
私の事情を広めないようにするには、ジュリアンが適任で……。私の心理的な問題としても、できればジュリアンにしてほしいと思っている。
(他の人じゃ、信用できるかどうか不安だもの。だけど……)
ジュリアンは結婚すると、何か問題が出る人なんだろうか?
見合う身分ということは、貴族で間違いない。けど、結婚に関して親族がうるさいのかも? 一体どの家の人なんだろう。
「たしかに身分的にはジュリアンが一番だろうね」
オリヴェイルもそこは納得していた。そこそこ身分が高いというなら伯爵家? 侯爵家?
「結婚の書類を作ったら、協会長に直接依頼しに行くことにしよう。こっそり受理させるように手回ししておくとして……」
そこで私は、気になっていたことを聞く。
「あの、結婚の際の名義はどうするんでしょう? セリナのままで申請するのでしょうか。それとも平民として結婚したことにするとか?」
答えたのはオリヴェイルだ。
「貴族の、セリナ嬢として結婚してもらいたいですね。嘘を申告したことで、王家がいじわるのために結婚を取り消しにしては困ります。
そもそも我々がこっそり申請するのは、この重大な任務について説明したところで、彼らには理解できないだろう、とわかっているからです。今の王家の人間は実際に問題が起こってから嘆くような、浅はかな人達ですからね」
かなり厳しいことを口にするオリヴェイルに、私はびっくりする。
「でも、王家が嫌っている私との結婚がバレた時に、ジュリアン様達にご迷惑をおかけするのではと心配なのですが……」
婚約破棄したとはいえ、王家は私のことを嫌っているままだ。
今はいじめの対象だった私――自分より下に見ていた相手が、婚約破棄でもう結婚もできない立場になったと喜んでいるはず。
なのに、突然別の貴族と結婚したと知ったら、どうなることか。
気分を害し、もう一度不幸にしてやろうと手を回してきそう。
魔術師協会そのものには何もできなかったとしても、ジュリアンの家族にいやがらせをしたり、冤罪を押し付けたりしないか心配だ。
誰か一人を理由もなく悪者にして楽しんでいた人間は、悪者がいなくなったら自分の悪さが発覚してしまうから、覆い隠すために次のイケニエを探す。
(ジュリアンが魔術師協会の仕事を続けるなら、協会の保護は得るけど逃げられないわ)
ジュリアンが私と結婚するのは、ソーンツェの花を増やすためだから、ここにいなくちゃいけないのだ。
私を保護するために動くのも魔術師協会。
だから魔術師協会とは切っても切れない関係だ。
なのに、ジュリアンは首を横に振る。
「問題ありませんよ。だからこそ私が結婚相手になるのです」
オリヴェイルがうんうんとうなずく。
「地上の権力的に、私では弱すぎますし。年齢的にも離れ過ぎて、説明がつきません。そしてジュリアンなら、陛下を脅すこともできますから」
(脅す?)
私にはよくわからない話が出て来る。
ジュリアンが脅せるとは……国王にとって、彼は重要な人物なのか、それとも相当な秘密を握られているの?
「陛下は王子殿下にも王妃にも甘いでしょうが、ジュリアンが関わるなら、精一杯抗ってくれるでしょう。隠居をしているものの、王太后陛下もあなたには甘い」
何か複雑な事情がありそうだ。
そう思っていたら、ジュリアンが自分から教えてくれた。
「不思議そうにするのも無理はありません。幼少期から魔術師協会にいるので、あまり顔は知られていませんが、一応ローダシオン侯爵の位を持っているのです」
私は驚きのあまり、目を見開いてしまう。
ジュリアンという上の名前だけではわからなかった。そうか、彼は……。
「陛下の姉君の……ご子息でしたか」
「そうです」
ジュリアン・レイ・グレイル・ローダシオン。
彼は王家の血縁者だ。
現在の国王アンドラーシュには姉がいた。
隣の鉱山を持つ小国に嫁いで子供が生まれたものの、国が侵略され、父である王子は惨殺。嫁いだ王姉は子供とともに行方不明。
生死は絶望的と言われていたけど、ジュリアンは発見され、保護された。
母親は逃げる途中に亡くなり、一人放浪していたジュリアンが見つかったのは、本当に幸運だったと聞いている。
王太后と国王アンドラーシュは、戦の直前に幼い彼に会っていたため、顔をよく知っていたので、疑う部分など全くなく、彼を認めた。
会ってから見つけるまでの間、数か月しか経っていなかったのが幸いだったようだ。
父母と国を亡くした彼は、ローダシオン侯爵位と多額の年金を約束され、ひっそり暮らしていると聞いていたけど。
(まさか魔術師になっているとは)
私は、彼との結婚なら国王も王太后も無理やり引き裂けない、とオリヴェイルが判断した理由を察した。
王太后は、王姉の忘れ形見をいつも気にして、年に何度も会いに行っていると耳にしたことがある。王太后なら、ジュリアンを誰よりもひいきするだろう。
姉の子供をすぐ保護できなかった後悔がある国王アンドラーシュも、彼には甘いに違いない。
おおっぴらに私が結婚するのならまだしも、誰にも知られずにひっそりとジュリアンの伴侶になるのなら、騒ぎにはならないからと口を閉ざすことを選ぶ可能性は高い。
「ご納得いただけたようですね?」
ジュリアンが微笑む。
「はい、その……お世話になります」
彼以上の結婚相手はいない。
私が厄介ごとの種を持ち込むことになるので、全く問題が起きないわけもないだろうけど、警戒するべきはオルフェ王子だけ、という状況になるのは間違いない。
オルフェ王子は……人格的にも問題がありすぎて、彼の生まれだけで引いてくれるとは思えないので。
(だけど、国王もすすんで王子に教えたりはしないはず。もし発覚しても、あの王子ならジュリアンがやすやすと対処してくれそう)
その後は、この砦だと私まで住むのには不便すぎるので、私は村に一時的に居住することが決まった。
後日、砦の中に居住場所を作り、ここで暮らせるようにしてくれるらしい。
「では、お疲れでしょうから、家に案内しましょう」
ジュリアンの言葉にうなずき、歩こうとした。
でも考え事をしていたせいか、足がもつれてつまずく。




