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テンションダダ下がり抽選会

 ふと気がつくと、水平型エスカレーターの上だった。正直意味不明だったので周囲を見渡してみる。


 まず、天井は無く快晴の空が広がっていて、エスカレーターの下には雲海が見える。如何にもあの世への道っぽいなと個人的には感じた。

 そして私が乗っているエスカレーターの他にも右手と左手に全く同じエスカレーターがあり、死者達を運んでいる。 

 しかし、運ばれている死者達の様子はそれぞれのエレベーターで全く違っていた。


 右手のエスカレーターに乗っている死者達の顔は晴れやかで、皆穏やかに談笑したり、のんびりとエスカレーターの流れに身を任せている。

 左手のエスカレーターの死者達は、この世の終わりの様な顔をして項垂れていたり、必死に逆走しようとして他の死者達を巻き込んで倒れこんだり、どうにか他のエスカレーターに乗り込もうとして下に落ちたり、口汚く罵り合ったり殴り合ったりしている様だった。


 うーん、これは右手が天国行き、左手が地獄行きのエスカレーターですね間違い無い。

 治安の差がダンチですわ。


 そして私が乗っているエスカレーターの死者達は他二つに比べれば人数が少なく、呆然としていたり、興奮して飛び跳ねていたり、何やら矢継ぎ早に質問しあったりしている様だった。

 個人のやる気度の違いを感じる。

 呆然としている死者は、多分私と同じく騙し討ちでこのエスカレーターに乗せられた死者だろうな。

 気を強く持って欲しい。私も頑張るから。


 暫く流されるままにエスカレーターに身を任せていると、左右のエスカレーターに動きがあった。

 右手のエスカレーターは上に登っていき、左手のエスカレーターは途中で途切れて次々と死者達が底の見えない雲海の切れ目に落とされていく。


 いくら地獄行きの死者だからと言って何でもやって良い訳じゃ無いと思うんだが。ギリ地獄行きの人とかが可哀想だ。正直見ていられない。


 そっと目を逸らして右手側の天国行きの死者達に目をやると、地獄行きの死者達の阿鼻叫喚には全く気付いていない様子で、皆晴れやかに天へと昇って行く。

 向こう側の事見えてないのかな。見えててあの感じだと天国行きになるのは無理だろうから、多分見えて無い筈だ。そうだと思いたい。


 そして私が乗っている真ん中のエスカレーターは水平移動のまま、空港にある金属探知機みたいなゲートに向かう。

 そこから先は白く光って見えないのでまた場所が変わるんだろう。

 自分の意思でこのエスカレーターに乗った訳では無いのでどうにも釈然としないが、ここで無駄に抵抗しても意味が無いのでそのままゲートを通過する。


 そして、いつの間にやら何処か講義室の様な場所の一席に腰掛けていた。

 自分で座った記憶は全く無いので、ゲートを通った後自動で此処に座った状態で転送されたのかもしれない。

 何でもアリだな。



「何処だ、此処?」


「ガッコー?えー…死んでまでベンキョーとかしたくないんですけど」


「勇者になる為の勉強とかすんのかな?」


「マジ?だっっっる…」


「これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ…」



 どよどよと騒めく室内に、切り裂く様な鋭い声が響く。



「静粛に!」



 視線を周囲の死者達から前方の教壇の方へ移すと、スラリと背の高いスーツ姿の女性がそこに立っていた。

 如何にもキャリアウーマンでございといった風貌で、吊り目も相まって非常にキツそうに見える。

 正直苦手なタイプだ。



「人事部の永田です。死者の皆様、本日は誠にお悔やみ申し上げます。早速ですが人事発表をさせて頂きます。公平な抽せ…ん゛んっ、審査により、あの世の職員となられた方を今からお呼び致します」



 今、抽選って言わなかった??

 抽選で人事決めてるの??嘘でしょ??



「ちょ、待てよ!あの世の職員だァ!?俺は異世界チート転生勇者になってハーレム作って暮らすんだよ!!」


「イケメンに囲まれてチヤホヤして貰えるって聞いたからあの紙選んだのに何それ!聞いて無いんですケド!!」


「これは夢だこれは夢だこれは夢だ…」



 永田さんの一言で一斉に死者達が文句を垂れ出す。

 窓口で詐欺られた死者多過ぎだろ。

 というか動機がめちゃくちゃ不純だ。

 そんなもんを堂々と叫ぶな。

 あと最後の死者はいい加減現実を受け入れて欲しい。エスカレーターで呆けてた人でしょアンタ。



「静粛に!!審査の結果は覆りません!!」



 永田さんが教壇をバンバンと叩いてやっと死者達が静まる。



「では発表致します」



 そして始まる人事発表。

 永田さんが名前を呼ぶ度に一人また一人と死者が消えていく。職場に直接飛ばされてんのかな。

 ちなみに講義室を出て逃げようとした人や、永田さんに殴り掛かろうとした人も消えていった。

 

 …どっかに飛ばされただけだよね?ガチの消失じゃ無いよね?

 分からないが、有無を言わさぬストロングスタイルだ。そこに痺れないし憧れないし何ならちょっと…いやだいぶ引いている。

 逃げたり殴り掛かる方も悪いけど、そもそも騙したり無理矢理連れて来た方も悪いんだよなぁ…。

 もう死んでるから法律とか関係無い理論かな?

 あの世ってヤバい。


 そして残りの死者が最初の2割くらいになって名前の発表が終わる。私は呼ばれなかった。



「…以上があの世の職員となります。続きまして、異世界行きとなりました皆様に抽選を引いて頂こうと思います」


 

 ついに人事を抽選でやってる事を隠しもしなくなったな。良いのかそれで。

 というか異世界行きは嘘じゃ無かったのか。

 嘘じゃ無かったなら騙されて無かったんだ、良かったとはならんけど。

 それに異世界行きだからって全然嬉しく無いし、むしろ不安だ。

 こんな感じに異世界に行くのって本当に大丈夫なんだろうか?あの世で社畜するか、異世界で社畜するかの違いなだけの気がする。

 普通に天国に行って家族が来るのを待っていたかった。

 

 

「…質問をしても?」


「はい、どうぞ」



 現実逃避していた死者…どう見ても限界社畜リーマン(過労死の姿)な男性が手を挙げて永田さんに話し掛ける。

 あの人正気に戻ったのか。



「抽選で決めるんですか…?希望を聞いたり、適性を見たりしなくても大丈夫なんでしょうか…」


「良い質問ですね」



 永田さんは全くそう思っていなさそうな冷ややかな目をして答える。



「希望を聞く事も、適性を見る事も。全くの無駄なのだと、ここ数百年でやっと上層部が理解してくれたのです。もう二度と面接や試験などと無意味な事は行われません」


「アッ、ソウデスカ…」



 正直1ミリも疑問が解決出来ていない回答だと思うし、限界社畜系死者の彼もそう思っているだろうが、永田さんの眼光に耐えられなかったのかそっと手を下ろしてしまった。


 誰だってそうする。私だってそうする。

 面接や試験が無意味な仕事って何だ。

 正直気になるが、永田さんの眼光に晒されたく無いので自分が手を挙げようなんて気にはならない。

 蛇に睨まれた蛙の気分を進んで味わいたい死者はこの場に居ないらしく、誰も彼に続いて手を挙げようとする者は居なかった。多分そういう強心臓の死者はとっくにこの場を退場してしまったんだろう。


 質問者が他にいない事を確認した永田さんがパチンと指を鳴らすと、教壇の上にガラガラが現れた。

 スーパーやデパートの抽選会で良く見るアレである。



「では始めさせて頂きます。右手前に座っている死者の方から一名ずつ此方へ」



 永田さんの一言で死者達がのろのろと前に進み出て行く。

 騙し討ちで連れて来られた私は元より、今まで見た様子から自分から進んで来たらしき死者も目が死んでいる。

 思っていたのと違うと流石に気が付いたんだろう。


 一人目の死者がガラガラを回す。

 何が出たのかはわからないが、カタン、と球が落ちる音と同時に死者が消えた。早速職場に飛ばされたのかもしれない。


 一人、また一人と死者が消え…私の番になった。

 正直気が進まないが、拒んでもさっきの死者達みたいに消えるだけだと分かっている。

 なら消えて行き着く先が職場であると思われるこちらの方がマシだ。なので、大人しくガラガラを回す事にする。

 カタン、と落ちた玉を確認する前に視界が切り替わった。

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