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ネタバレ状態で、どうしろと?

――太古の昔、この世界は、魔王に支配されていた。

魔王は、動物から魔物を造り、人類を駆逐していく。

次第に追い詰められた人類を哀れんだ神は、魔を祓う力を持つ者を、『勇者』として下界に遣わした。

勇者は、人類と力を合わせ、魔王を消滅させた。

しかし、魔王の断末魔の足掻きに、勇者は道連れにされてしまう。

勇者の犠牲の上に、世界は平和を取り戻した――


これが、ゲーム『ライトソードファンタジー』の前日譚である。

ゲーム内では、数千年前の出来事として、半ば神話のように語り継がれている、という設定だった。


そして、それは、今私が生きているこの世界でも同様だ。

どんな幼い子供でも、世界を救った勇者のお話は、そらんじることができるほど、常識となっている。


ゲーム内のムービーによると、数千年の時を経て、何の因果か、勇者と魔王は同じ村に、同じ年に転生した。

それが主人公である漁師のアルバートと、親友で医者見習いのヴィンセント、通称ヴィンスだ。


ただし、ゲームスタート時は、勇者としての記憶がなかったアルに対し、ヴィンスは魔王としての記憶を最初から持っていた。


前世の敗北を繰り返すまいと、ゲーム内のヴィンスは淡々と力を溜め、転生した勇者を先に始末するため、魔物を召喚し、襲わせたのだ。


だが、幼なじみの少女が庇ったことにより、アルの殺害に失敗した挙げ句、逆に勇者の力を覚醒させてしまう。


その後、勇者となったアルの命を狙い、何食わぬ顔で旅に同行するが、アルの真っすぐな姿に、次第に魔王としての生き方が揺らぐ。また、幼なじみの少女を殺した罪悪感に、いつまでも苛まれ続け……。


というのが、ラストバトル直前に明かされる、ライトソードファンタジーのラスボス・ヴィンス視点の物語だ。



……可哀想すぎるでしょう、私。完全に巻き込まれただけじゃん。

アルだけではなく、ヴィンスのほうも、その幼なじみの少女――要は私――を想っていたような描写が、ゲーム後半で出てきたけれど、死んでからモテても、何も嬉しくない。


さて、この世界が、どこまでゲームと一緒かは分からないが、それにしても、ありとあらゆるネタバレを食らった状態で、これからどんな顔で暮らせばいいのでしょうか?



私を起こしてくれたヴィンスは、少し呆れた笑顔で、私を見下ろしている。


そう、ヴィンスは顔も頭も性格も良い、本当に憧れの幼なじみなのだったのだ。ついさっきまでは。

いつも通りのその顔も、もう今の私には、殺人鬼のものにしか見えない。


「クレア、どうした?どこか調子でも悪いのか?」


眉をひそめて私の顔を覗き込んでくるヴィンスは、心から心配そうな顔をしている。


「大丈夫、ちょっと疲れただけ」

「そうか、じゃあ帰って休んだ方がいい。送ってく」


さりげなく差し出された手を、反射的に掴むと、ヴィンスは優しく立ち上がらせてくれた。


「アル!クレアを送ってくから!」

「おう!頼んだ!」


豊漁踊りを披露していたアルに一声かけたヴィンスと共に、村の広場を離れる。


親もなく、孤児院で育った私達は、手に職をつけるべく、今は別々に暮らしている。

アルは、村一番の漁師さんの所で、住み込み。

ヴィンスは診療所で、医者見習い。

そして私は、村の仕立屋さん『テーラーアメリア』で、修行中の身だ。


仕立屋さんの屋根裏部屋が、今の私の城である。

当然、この時間では店は閉まっており、人の気配は全くない。

店主のアメリアさんも、広場の宴会に出ているのだろう。確か、酒瓶をラッパ飲みしている姿を見かけた気がする。


店の前で、送ってくれたヴィンスにお礼を言う。


「ヴィンス、ありがとう」

「どういたしまして。……クレア、本当に無事で良かった。何かあったらいつでも言えよ」


真剣な表情のヴィンスは、私やアルを殺そうとした黒幕には、とても見えない。

やっぱり、この世界は、ゲームと似ているが、違う世界なのかもしれない。


「おやすみ、クレア」

「おやすみなさい」


踵を返すヴィンスに軽く手を振ると、爽やかに笑って手を振り返してくれた。


……もし、本当にゲームの設定通りだとしたら、ヴィンス、あんたは立派なサイコパスだよ。



◇◇◇◇◇◇



翌日、冒険者マテオは、二日酔いで痛む頭を押さえながら、1人、次の町へ旅立っていった。

ゲームでは、一緒に旅立ったはずのアルの姿は、そこにはない。


それはそうだ。勇者の力も、伝説の剣もないアルが、魔物討伐の旅に出る理由はない。

アルは早朝から張り切って海に出ていった。


ゲームのシナリオから、大きく外れた今。これからどうなるのかは、全くわからない。

人類の危機は続いているし、魔物を倒すはずの勇者は漁師のままだし、ラスボス魔王はなぜか他人の命を救う仕事に従事している。


願わくば、私だけでも、このまま平和に過ごせますようにと、祈るばかりだ。


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