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完全無欠な聖女様と、モブ娘の邂逅

街中心部の広場に到着した聖女様御一行を、小太りの中年領主が恭しく出迎えている。


聖女様一行をパレードのように見ていた私達一般人も、ぞろぞろと広場に集まり、ちょっとした式典のようになった。

これまで街中に漂っていた暗い雰囲気が嘘のように、人々の間には、お祭りのような高揚感が漂い、もう既に危機は去ったかのようだ。


「我らが聖女、プリシラ王女殿下、このような地までお運びいただき、民を代表致しまして、心より御礼申し上げます。我が館で宴を催しますので、是非旅のお疲れを……」

「ヘイリュー卿、出迎え感謝します。しかし、今は危機の最中。すぐに魔物討伐の準備をしますので、これ以上のお気遣いは無用です」


芝居のように大仰な台詞と、下心丸出しな笑みを浮かべる領主に対し、プリシラは美しい微笑みを浮かべたまま、凛とした美声を響かせた。


「は、はいい!」


あからさまに媚を売っていた小太りの領主が、自分より小さく華奢な女性に圧倒され、縮こまっている。


さすが未来の女王陛下。

穏やかな口調なのに、有無を言わせぬ圧力は、既に王の覇気のようなものを感じる。

全く関係のないこちらまで思わず跪きたくなってしまう。


この一瞬で、集まる人々はすっかりプリシラの崇拝者となったようだ。

老若男女うっとりとプリシラを見つめる中、私の傍らのノアが突然小さく声を上げた。


「あっ!」

「なによ?」


驚きと緊張の入り混じった声につられ、ノアの視線を辿ると、広場の反対側に、10歳に満たないであろう少女と、更に幼い子供数名が立っていた。

遠目にも薄汚れた身なりは見て取れ、どうやら孤児らしいということは分かった。


お祭り騒ぎを見に来たのか、聖女一行をキラキラした目で見ている。


「あの子達、ノアの仲間?」


ノアを含めた孤児達が、盗みをしながら暮らしていたことは、この街では有名だ。

最近は主にヴィンスが仕事を与えているため、ノアは犯罪行為はせず、年下の子供達を養っているようだが、仲間が何人いるのか、どこに暮らしているのかは、未だに教えてもらえない。


ノアの人間不信は、そう簡単に払拭されるものではないのだろうと、私もヴィンスも深く追及することなかったので、仲間を見るのはこれが初めてだった。


「出てきちゃ駄目だって言ったのに」


ただでさえ、ノア達孤児は疎まれている。その上、今は王女で聖女という最高の賓客プリシラを迎えている場だ。見つかれば間違いなく捕まるだろう。


聖女様御一行の背中側に立つ子供達は、プリシラ達の視界には入っていないが、領主やその取り巻きには、いつ見つかってもおかしくない。


苛立ったように舌打ちしたノアは、そのまま人混みをかき分けるように、少女達の所へ向かった。

だが、ノアが辿り着くより先に、領主の警備兵も、孤児たちに気付いた。


警備兵はプリシラに気付かれないように静かに、しかし素早く、子供達を捕えた。

子供の泣き声と、ノアの怒鳴り声が、広場の歓声に紛れる。


「やめろ!そいつらを放せ!」


突進したノアは、兵士達の攻撃を素早く躱す。

丸腰のまま野生の獣のように暴れ、自分より遥かに大きい男達を吹っ飛ばしていく。


しかし、いくら身体能力に優れるとはいえ、貴人がいるこの場には、大量の武装した兵がいる。

乗りきれるとは思えないし、1人吹っ飛ばすごとに罪がどんどん重くなってしまう。


(マズい!何とかしなきゃ!)


「ノア!」


私の呼び声と、プリシラの隣にいたアルが騒ぎに気が付き、動き出したのは、ほぼ同時だった。

アルは目にも止まらない速さで、あっさりとノアを地面に拘束していた。


勇者(仮)の実力は伊達ではない。


「待って、アル!手荒なことはしないで。ノアもこれ以上暴れないで!」

「……クレア?」


慌てて声をかけた私に、アルは驚いたように目を見開いた。

止めてみたものの、その先のプランを持ち合わせていなかった私と、ノアを拘束したままのアルは、そのまま無言で見つめあった。


気まずすぎる状況を打破してくれたのは、プリシラだった。


「アルバート、何事?その子は……?」

「殿下、」

「王女殿下、お騒がせをして申し訳ございません。いや、こやつらは子供ですが、罪人でして。領内の不行き届き、お恥ずかしい限り。手を焼いておりましたが、こうあっさり捕えてくださるとは、いやはや、流石は王女殿下の近衛騎士ですな。ハハハハ」


アルの話を遮り、領主は焦ったように説明を始めた。

猛烈な早口で、額に汗が浮かんでいる


警備兵に捕まっている複数の孤児、アルに捕えられてなお周りを睨み付けているノア、なんとか誤魔化そうという魂胆が滲み出ている領主。


聡明なる聖女は、概ね状況を理解したようだった。

プリシラは微笑みを浮かべ、話し始めた。


「ヘイリュー卿、生まれた時からの罪人はおりませんわ」

「へっ?」

「真に罪があるのは、罪を犯さねば生きていくことすらできない社会を作った、わたくし達なのでしょう」

「お、お、王女殿下、その、私は」


思わず間抜けな声を出した領主に、プリシラは穏やかな口調で続けた。


「貴殿を責めているわけではありませんよ。この荒れた世界で、これほど栄えたシュロアールの街を築き、守り続けている。領主としての貴殿の素晴らしい働き、わたくしも、そして国王陛下(ちち)も分かっておりますわ」

「で、殿下……」


王族からのこの上ない賛辞に、領主は今度は涙ぐむ。

感情の振り幅が激しいな。


プリシラが警備兵に捕まったままの少女に近づくと、兵士は咄嗟に手を離し、プリシラの前に膝をつく。


プリシラは、ゆっくりと少女を抱き寄せた。


「わたくし達の力が及ばないために、これまで苦しい思いをさせてしまってごめんなさい。貴女達が真っ当に暮らせるよう、力を尽くします」


汚れた少女を、厭うことなく抱き締める、身も心も美しい聖女。


まさに女神か、天使か。神々しい光景に、街の人々も、領主も、兵士も、皆見惚れている。

涙を流す者も少なくない。


(そうだ、このシーンもあった……)


そう、ゲーム内でノアを助けたのは、アル達勇者パーティ。

幼い少女を抱き締めるプリシラは、まさにそのシーンそのものだった。


この後、プリシラが国に掛け合い、魔物の落とし子と呼ばれる子も含めた孤児が、安心して暮らすことのできる孤児院を造るのだ。


何の権力も金も無い、今やモブキャラの私がしてきた、根本的な解決にならない、中途半端な偽善とは違う。


完全無欠な聖女様による救済が、やっとノア達に訪れたのだ。


(良かったんだよね……ノア)


他の子供達と一緒に、丁重に連れていかれるノアの背を黙って見送る。

まだ反抗しているようだが、王女の言葉は重い。領主側が危害を加えたり、罰したりすることは出来ないだろう。


ノアを引き渡したアルは、(またあとで)と小さな声で言うと、プリシラの元へ駆け戻っていった。


アルを見送っていると、その先に立つプリシラと目が合った、気がした。


背中に寒気が走り、反射的に目を逸らして下を向くが、なぜか冷や汗が出てくる。


子供に向けていた優しい瞳とは全く違う、冷たく細められた目。


敵意すら感じられる表情は、まさか私に向けられたもの!?なんで!?

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