勇者、ジョブとキャラを変更する
「はあーすごいねぇ……」
華麗なるアルのストーリーに、感心するやら、呆気に取られるやら。気の抜けた相づちしか出てこない。
「本当に見違えたよ。まさかアルがこんな大出世を遂げるなんて」
「たまたま運が良かっただけだって。まあ実力もあるけどな!」
エリートになっていても、調子の良いところは昔のアルと変わらない。
「でも、聖女様の側にいなくていいの?」
「ああ、他の仲間もいるから大丈夫。プリシラは明日この街に入るから、俺は一足先に来て準備する係にして貰ったんだ。やりたいことがあったし」
(おいおい、普通に聖女様呼び捨てにしてるよ……)
さすがはアル。
この親しげな呼び方から、既に王女殿下と近衛騎士の立場を超えて、ヒロインプリシラとかなり親密になっているのであろう。
「やりたいこと?」
「もちろん、クレアと会うこと。それから……今日ヴィンスは?」
「えっと、あ、クエストに行ってるよ」
「くそ。あいつに用があったのに!」
「用?」
「まあ男同士の話だ」
アルはそのままはぐらかして、用とは何か、教えてくれなかった。
そして、笑顔のままいきなり質問を飛ばしてきた。
「で、ヴィンスとはどうなってんだ?」
「どうって……まあ普通に友達?いつも助けて貰ってるよ」
それ以上答えようもなく、無難な回答を返すが、アルは何か言いたげな表情だ。
笑みは浮かべているが、どう見ても、目が笑っていない。
(ええ!?ヴィンスにはよくあるけど、アルまでこんな裏表のありそうな顔するの!?)
イメージと違うアルに、嫌な汗が出てくる。
アルはそのまま、語り始めた。
「俺、士官学校卒業した後、一度村に帰省したんだ。そしたら、ヴィンスもクレアもいなくなってて……」
村を出た時は色々なことがありすぎて、アルに連絡する暇すらなかった。というか、正直、アルのことは全く思い浮かんでいなかった。
旅の途中で思い出し、シュロアールに着いてから、手紙を出したのだが、その前にアルが村に帰っていたとは。
何の連絡もせず、いつの間にか引っ越しているなんて、我ながら酷すぎる。わざとじゃないけれど、アルが深く傷ついたであろうことは、想像がつく。
「ご、ごめんなさい!ちょっとバタついてて、連絡が遅れちゃって……」
「まあ、しょうがないよ。でも、驚いた。いきなり漁師仲間からは駆け落ちしたって聞かされて……」
「はい!?」
まさかそこでもか!
確かに、村の漁師の皆様は豪快で楽しいが、ノリと妄想で、いい加減なことを言いすぎる人達だった。
「ち、違う!」
「アメリアさんは、『愛の逃避行』とかなんとか」
(アメリアさん!?事情知ってる癖に、何言ってんの!?)
アルをからかって面白がるアメリアさんの顔が、鮮明に脳裏に浮かんだ。
「で、最後にモーガン先生とキャシーさんの所に行ったら、もう俺は国に仕える人間になったのだから、2人のことは探さずそっとしておけ、それがお互いの幸せだ、と言われた」
(ちょっと説明が足りないよ!?)
恐らく、診療所のご夫妻は、騎士となったアルが、魔物の落とし子と疑われるヴィンスと親しくすると、双方面倒なことになると言いたかったのだろうが、説明が不十分すぎて、誤解を招いている気がする。
「本当に違う!私とヴィンスは、そんな関係じゃ……」
「大丈夫。俺ももうガキじゃない。クレアもヴィンスも、大事な幼なじみだ。ただ、ヴィンスにはちゃんと釘を刺しとかないと」
フッと鼻で笑った姿は、私の記憶にある、感情表現がストレートなアルとは全く重ならない。
(急にキャラ変わってない!?)
都会の荒波に揉まれて、少し擦れてしまったのか、或いは幼なじみに忘れられていたことに傷ついているのか。後者だとしたら本当に申し訳ない。
単純テンプレRPGの主人公が、妙な影を背負う勇者となってしまった。
それから、何度も誤解を解こうとしたが、どうもアルはあまり信用してくれない。
これから仕事だというアルが自宅前まで送ってくれたところで、私は説明を諦めた。
(まあいいや。ヴィンスに何とかして貰おう)
「ごめんな。今日はあんまり時間がなくて。今度はもっとゆっくり話そうぜ」
「勿論。じゃあねアル。また!」
アルはこの後、領主様に会い、聖女滞在の打ち合わせを行うらしい。
すっかり立派な近衛騎士だ。
でも、手を振って去っていくアルは、昔のままの屈託ない笑顔に戻っていた。
◇◇◇◇◇◇
翌日、街のほとんどの人が沿道に群がり、大歓声が轟く中、聖女様御一行はシュロアールに到着した。
生で見る聖女プリシラは……ゲームグラフィックの数十倍美しかった。
優しい微笑みを口元に浮かべ、集まった人々に優雅に手を振る姿は、女神を描いた一枚絵のようで、私もポカンと口を開け、間抜けな顔で凝視してしまった。
(なにこれ。本当に同じ人間?)
あまりの差に、もはや悔しいとか、嫉妬とか、そんな感情は出てこない。
もはや、立っている土俵が違う。
「滅茶苦茶美人だな。どんまいクレア」
「うるさい。てかいつからいたのよ」
いつの間にか横に現れたノアにイラっとしつつ、その横に立つアルに視線を移す。
護衛任務中にも関わらず、いつもと同じ陽気な雰囲気を漂わすアルに、時々、プリシラは何かを耳打ちしては、楽しそうに笑っている。
(こうやって見ると、意外にお似合いかも……)
私には、どうしても子供の頃のアルの印象が残っているが、客観的に見ると、アルのビジュアルは悪くない。
決して大柄という訳ではないが、程よく鍛え上げられた精悍な近衛騎士姿のアルと、絶世の美女プリシラは、並んでいても不思議としっくりしていた。
明るく笑い合う2人を見ていると、青春物を読んでいる時のような、爽やかな気持ちになる。
幼なじみの成長が、誇らしいような、少し寂しいような、自分でも何と言って良いか分からない、複雑な思いを1人消化していると、ふと、ヴィンスの顔が頭をよぎった。
アルとは違い、毎日顔を合わせているからか、大きな変化を感じることはなかったが、客観的に考えると、ヴィンスもかなりの美青年になっている。
(見た目は、圧倒的に正統派イケメンだし、プリシラと並んでも全く見劣りしないわね)
頭の中で、プリシラと並ぶヴィンスを想像したとき、アルの時にはなかった、強烈な不快感に襲われた。
誰もが納得する美男美女、聖女様と魔王という禁断の関係、妄想を掻き立てられる素材だが、なぜかイライラする。
自分で考えといて、何をやっているんだか。慌てて頭を振って想像を追い出す。
気分を変えようと、聖女の後ろに目を向けると、筋骨隆々な大男が目に飛び込んできた。
見覚えのあるその姿に、思わず声が飛び出した。
「ま、マテオ!?」
慌てて手を口に当てるが、歓声のおかげで、私の声は、ノアにも周りの人にも聞こえなかったようだ。
間違いなく、その男は格闘家マテオ。オープニング早々、私の命を救ってくれた勇者パーティの1人だ。
(なんで、マテオが聖女様御一行に?)
更に、他のメンバーもよく見ると、どこかで見覚えのある顔ばかり。
(あれは、くのいちイブキ?それから弓使いルースもいる……)
そう、この世界で私は全く会ったことはないが、ゲーム内では、主人公の仲間になるキャラ達が、プリシラを囲み歩いている。
ノアとヴィンスを除けば、ゲーム通りの勇者パーティが、目の前に完成していた。
……正しくは聖女パーティだけど。




