モブと主人公とテンプレと
「ヴィー帰ってこねえなあ」
ヴィンスが出掛けてから早3日。
ヴィンスの命令を忠実に守り、四六時中私を見張るノア。
今も、近所の商店街で買い物をするだけだと言っているのに、しっかり横を歩いている。
「まだ3日だからね。そんな直ぐ解決しないでしょ」
「ふーん。てかヴィーはどこに行ったんだ?」
「……自分探し?」
さすがにノアにも、ヴィンスの正体や目的は話せない。
なんじゃそりゃ、と言いつつ、そもそも大して興味がなかったらしく、ノアはそれ以上聞いてくることはなかった。
実は、「まだ3日」とは、ノアでは無く、自分自身に言い聞かせている。
言うまでもなく、相当なチート能力の持ち主であるヴィンスに、心配は無用だ。盗賊だろうが魔物だろうが、天変地異だろうが、生き残る力は持っているだろう。なにせラスボスだし。
だが、言い知れぬ不安は尽きない。
未だ、魔物の群れは消えず、刻一刻と近付いているし、聖女様御一行も、数日でシュロアールに到着予定だという。
(あー!もう、どうなってるのよ!?)
何も出来ない自分がもどかしい。
思わず天を仰いだ時、何かが、私の右手辺りに触れた。
「あ、ごめんなさい」
すれ違った際に、少し掠めたらしい。
全く何の衝撃も無かったけれども、反射的に謝った……が、相手の顔を見て、直ぐに後悔した。
「ああ!?何すんだ!」
(もう、見た目からヤバい人だよ……)
チンピラとしか言い様の無い見た目の、大柄の男2人に絡まれてしまった。
その姿は見覚えが無く、どうやらこの街の人間ではない気がする。
勿論、大きな街だし、ここに来てまだ日が浅い私では、面識のない人の方が多いが、この2人のような、目がチカチカする髪色、モヒカンのような髪型、見事なヒゲの男がいたら、確実に覚えている。
魔物の大群の襲撃に備え、避難する住民が増える中、逆に火事場泥棒のようなことを企み、やってくる者も増えているという。もしかしたら、そういったならず者なのかもしれない。
「おい、聞いてんのか!?」
「詫び入れて貰おうか。ちょっと来い」
台本でもあるのかと思うほど、テンプレな台詞を吐く男達。
ぶつかった、というような衝撃はなく、間違いなく怪我などないだろうに、というか、すれ違いざまのことで、どちらかが一方的に悪いわけでもないのに、なぜこれほど凄んで来ることができるのか、甚だ疑問である。
さて、どうしたものか。
以前なら、恐怖でパニックになっていただろうが、今は違う。
まず、隣にはノアがいる。
今のところニヤニヤと状況を窺っているノアだが、元々の身体能力の高さに加え、最近ヴィンスに鍛えられているおかげで、並みの大人なら倒せるくらいのパワーは持っている。
助けてと言えば、助けてくれるだろう。お小遣い次第ではあるが。
そして、ヴィンス曰く、私に危害が加わりそうになったら、ヴィンスがいなくても、何とかなるようにしてくれてあるそうだ。
詳しくは教えてくれなかったが、どうやら、私がピンチになると、近場の魔物が総出で助けに入ってくれるとか。何してくれてんの。
というわけで、最悪、自分の身は大丈夫そうだが、街中で目立つことは避けたい。
私の穏やかな暮らしの方が、脅かされてしまう。
「おい、どうする?やっちまおうか?」
「出来れば穏便に……」
過激な言葉を放つノアと、コソコソと相談しているうちに、男達は随分苛立っていた。
「ガキが、無視してるんじゃねぇぞ!」
1人が手を振り上げ、ノアが身構える。
私は反射的に2、3歩後退ろうとした、その時だった。
「何をしている!?」
よく通る若い男の声と共に、手を振り上げていたチンピラは地面に叩きつけられ、もう1人は、後ろ手に捻り上げられていた。
たった1人で2人のチンピラを、いとも簡単に制圧した鮮やかな手際に、私もノアも息を飲む。
「ちくしょう!誰だてめえ!?……って騎士!?」
「しかも近衛じゃねえか!?何でこんなところにいるんだよ!?」
地方のチンピラでも、田舎育ちの私でも知っている、王家の剣の紋章。黒地に金刺繍が品良く入った、この国の子供達がみんな憧れる近衛騎士の制服。
それに身を包む、爽やかな笑顔の眩しい好青年。
「ようクレア!久しぶり」
「……アル!?」
テンプレヒーロー登場イベントそのままに現れたのは、この世界の主人公にして、我が幼馴染み、アルバートだった。
◇◇◇◇◇◇
アルがチンピラ達を街の警備隊に引き渡し、状況説明している様子を、私はどこか現実味なく見守っていた。
アルなのは間違いないが、身長は伸び、体つきもたくましく、顔も精悍な大人の顔立ちになっている。
どことなく中性的なヴィンスとは違う方向性だが、間違いなくイケメンに育っている。
(いつも威張っている警備隊の隊員たちが、ペコペコしている相手が、あのアルなんて……)
アルと最後に会ってから、間もなく3年。10代の3年間の大きさを改めて感じる。
「ごめん。お待たせ!」
引き継ぎが終わったのか、ニカッと笑った表情は、私の記憶にある顔と同じで、少しホッとした。
アルと一緒に、近くのカフェに場所を移す。
ちなみにノアは、警備隊が来る前にしれっと消えている。
「えっと、で、アルはなんでここに……しかも近衛騎士って、いつの間に?一体どうやって?」
国王直属の近衛騎士は、普通の騎士とは違う。
ずば抜けた力、頭脳、人柄が求められ、そして家柄も必要なことは、暗黙の了解となっている。
人柄と力は良いとしても、頭脳は平凡、更に平民出のアルが、1年やそこらで抜擢されるなんてあり得ない。
「えっと、どっから話そうか……」
アルは機嫌良く、これまでのことを話し始めた。
アルは士官学校を卒業後、ごく一般的な配属である、魔物討伐を担当する部隊に入隊したそうだ。
下っ端騎士として、前線で奮闘していたある日、アルは、逃げ遅れた子供と、その子供を助けようとする若い娘を見つけた。
既にその地は魔物に囲まれており、他の騎士が、子供達を見捨てて逃げる中、アルは1人、子供と娘を守り、なんやかんやで生還したという。さすが主人公。
その後、王宮に呼び出されたアルの前に、豪華なドレスを着た娘が現れる。そう、アルが助けた娘は、この国の第一王女にして聖女プリシラだったのだ!
(いや、突っ込みどころ多すぎ!さすが主人公だな!)
こうしてアルは、近衛騎士に抜擢され、王女殿下の護衛として、聖女の旅に付き従うことになり、シュロアールに来たのだという。
……なんというサクセスストーリー。
もう、さすが主人公としか言い様がないよ。




