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進んでしまうストーリー

私たちが住むこの国は、大陸の中央部から東部まで、広大な面積を有している大国だ。


魔物と人類の戦いに焦点が置かれていたゲーム内では、この国と、北の海の果てに広がる『魔界』だけが舞台となっていたため、一切触れられることはなかったが、この世界には、他にも大小多くの国が存在する。


魔物に襲われた孤島は、北の海に浮かぶ島国の一部だ。

海を挟んで魔界に隣接し、頻繁に魔物が現れる立地から、魔導技術が発達し、小国ながらかなりの軍事力を持っていたという。


その国が、一夜にして消滅するほどの、魔物の大群。

シュロアールのギルドだけではなく、恐らく国中、いや世界中が騒然としているだろう。


「北はどうなっちゃったの!?」

「魔物っていったい何匹いたんだ?」

「で、群れは今どこに行った!?」


ギルドの受付に群がり、口々に質問をぶつけてくる人たちを、リリーがバッサリと捌いていた。


「静かに!これ以上の情報はまだありません!ガタガタ言わず、おとなしく待ちな」


(おお、さすが荒くれ者を相手にするギルド受付嬢。可愛い顔に似合わずドスが効いてる)


「とにかく、まだ情報が足りねえ。国も動くだろうし、指示があるまで準備して待っていろ」


ギルド長の言葉で、冒険者たちは一旦落ち着いたようだった。

いつも通りクエストの受注を行う者、ひとまずギルドから出ていく者、各々動き出す。


群衆が散ったところで、私達はリリーに話しかけた。


「リリー、大変そうね」

「まだこっちだって全然分かんないのに、本当、うるさい連中だわ」


口振りはあっけらかんとしているが、いつも天真爛漫な笑顔を浮かべるその顔は、どことなくひきつっている。


恐らくこの世界のほとんどの人が、魔物により友人や親類などを亡くした経験がある。

そのくらい魔物は、この世界で最も身近な恐怖なのだ。


私も、ここ最近はヴィンスのおかげで、魔物の脅威から遠ざかっているが、今でもバーサークマウスに襲われた時の光景は目に焼き付いている。


あの時の恐怖が蘇り、思わず身震いすると、突然優しく手を握られた。


驚いて見下ろすと、私の手を包むのは、見覚えのある手だった。


冒険者として、野山を駆け回っているはずなのに、羨ましい程色白で、細くしなやかな指。

だけど、掌はゴツゴツと固く、確かに男性の手なのだと、はっきり伝わってくる。


「え、ヴッ、ヴィ、ヴィンス!?」

「大丈夫。クレアのことは、絶対に僕が守る」


旅の途中、山を登る時や、足場の悪い所で手を引いてもらったことはあったが、何でもない場面であえて手を握られるなんて、意識するなと言うほうが無理だ。


若干体温が低いらしく、ひんやりとしたヴィンスの手に対し、私の体温は急上昇した。


硬直する私を気にせず、ヴィンスはじっと私の目を覗き込んだ。


「もう二度と、クレアが傷つかないようにする。魔物は近寄らせないようにするから、安心して」

「あ、え、う、うん」


真剣な表情も、見惚れるくらい格好良いヴィンスに対し、私の喉からは、嫌になるくらい間抜けな声しか出てこない。


多くの人が死んでいるだろうに、自分勝手な私は、誰よりも大好きな相手から、ただ1人守ってもらえることに、どうしようもなく喜びを感じてしまう。


ヴィンスの赤い瞳に映る、口をポカンと開けた自分のアホ顔を見つめること数秒。

何か言わなきゃ、と息をのんだ時だった。


「……おーい、お二人さん。一応公共の場だからね」

「わっ!別に何もしてないよ!」

「はいはい」


リリーの言葉で、現実に引き戻された。

いつの間にか、ノアも傍らでニヤニヤしている。


「リリー姉ちゃん、邪魔しちゃだめじゃん」

「だって、このままほっといたら、お子様にはまだ早いシーンが始まりそうだったし」

「始まりません!」


焦る私とは対照的に、ヴィンスは変わらず冷静なままだった。


「じゃあ、今日のクエストを片付けてくる」

「あ、はい」


(切り替え速いな!)


「あ、ちょっと待てよ!」


サッと出口に向かうヴィンスの後を、ノアが慌てて追いかけていく。


振り向いた時に一瞬見えたその横顔が、若干赤かったのは、私の願望かもしれない。


「……ご馳走様。私も早く彼氏欲しいわ」

「違う!」


(どうか、私の取り越し苦労で、何も起こらないように)


だけど、この世界は、神様とやらは、大抵、私の希望を聞いてはくれないのだった。



◇◇◇◇◇◇



「もう国境を越えたんだって……国境軍は全滅したらしい」

「援軍の魔導騎士団が敗走したとか」

「金持ち連中は次々に南へ逃げているぞ」


街中でも、最早話題は魔物一色だった。


活気が明らかに減った商店街を歩きながら、曇りがちな空を見上げる。


魔物の大群発生から数日。

奴らは、私達の住むこの大陸に上陸し、南へ突き進んでいる。


入ってくる情報は、悲観的なものばかり。


(やっぱり、『魔物千匹斬り』イベントなのか……)


魔物の目的はまだ分かっていない。

『王都に向かうのでは』『いや、大聖地が危ないのでは』などと、様々な噂が飛び交っているが、私の中では、既に確信に近い答えが出ている。


魔物の大群は、シュロアール(ここ)に向かっている。


正確には、彼らの主、ヴィンスのいるここに。


数千年振りに転生した魔王を迎えに来る。それが魔の行進の目的なのだから。


元のストーリーなんて、既にかけ離れているというのに、ゲームの強制力というべき力は、何としてでも、ヴィンスを魔王にしようとしていた。


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