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不吉な予感、束の間の平和

「……あんた、クリアしたんでしょ?なんでまたやってんの?」

「ケチ臭いこと言うな、ねーちゃん」


今日も1日、代わり映えの無いデスクワークを終え、帰宅した私の目の前には、ダラダラとゲームに興じる愚弟の姿があった。


「いや、このゲーム、やり混み要素もないし、2週目はいいかなって思ったんだけど、このイベントだけストレス解消になるんだよ」

「ああ、なるほど」


テレビ画面には、数え切れない程の魔物が溢れており、弟が操る主人公が、バッサバッサと剣で斬り倒していく。


敵の量は凄まじいが、全てザコのため、ひたすら無心で攻撃し続ければ良いだけ、ストレス解消にもってこいのイベント、通称『魔物千匹斬り』だ。

爽快感は半端ない。


「……てか、コントローラー連打しすぎ!力込めすぎ!壊れたらどうする!?」

「ちょっと邪魔すんなよ!」

「そもそもそれ私のだからね!?」



◇◇◇◇◇◇



「……うーん、朝かぁ……」


遮光性の欠片もない薄いカーテンから、朝日が燦々と差し込んでくる。


前世の夢を見たのは久しぶりだ。


あれは確か、中盤から終盤にかけての重要イベント、正式名称は確か『魔の行進』。


魔界から現れた魔物の大群が、突如侵攻を開始。通り過ぎた地は、命が喪われた荒れ地と化していく。


迫り来る魔物の行進を食い止めるべく、主人公アル達勇者パーティは、その前に立ち塞がり、手当たり次第薙ぎ払う。


『魔物千匹斬り』の通称通り、敵を千体倒すと、ムービーに移り、ここから、ストーリーが大きく終わりに向けて動き出す。そんなイベントだった。


(なんか、不吉な夢だったな……)


寝ぼけた頭で、ストーリーを思い返す。


千匹斬りクリア後のムービーで、勇者パーティは、奮戦むなしく、魔物の群れに呑まれる。


『謎の声』を聴きながら、一度は闇に沈んだアル達だが、気が付くと魔物の群れは既に無く、元の荒野に無傷で倒れていた。


何が起きたかわからず、呆然とするアル達の中で、ただ1人、ヴィンスだけが無表情で立っていた……。

ここから、魔物とヴィンスの繋がりが、どんどん匂わされていく。


そう、これは、ヴィンス(イコール)ラスボス魔王フラグが立つ、初めてのイベントなのだ。


(まあ、もうあのストーリーとは全くかけ離れた状況になっているし、大丈夫でしょ)


頭をよぎる、嫌な感覚を振り払い、ダイニングスペースへ向かう。


すると、いつも私より早起きで、出勤時間も早いヴィンスが、今日はのんびり朝食の準備をしていた。


「おはようヴィンス。今日はどうしたの?」

「おはよう。今日のクエストは、夕方しか採れない植物だから。ギルド行く前に、クレアと一緒に出掛けようかと思って……。どう?」

「行く!」


突然の誘いに、脊髄反射で返事をしてしまう。

そういえば、シュロアールに来てから、お互い忙しく、遊ぶ暇なんてほとんどなかった。


予想外の提案に、一気にテンションが上がり切った私は、先程まで見ていた夢の事なんて、あっという間に頭の片隅に追いやっていた。



◇◇◇◇◇◇



ヴィンスと共に、シュロアールの中心街に繰り出す。

ごく普通の服に身を包んだヴィンスを見て、思わず頬が緩む。


(いやあ、やっぱり爽やか系も似合うじゃん。さすが私のセンス)


「……どうした?何かおかしいか?」

「ううん、全然!すごく似合ってるなって思って」


今日ヴィンスが着ている服は、私が作った特注のシャツだ。


ゲームでのヴィンスは、黒髪赤目のルックスと、魔王の設定に相応しく、黒系のコスチュームに統一されていた。


でも、今日のヴィンスは、水色をベースに、爽やかなスポーツ男子風の服装に身を包んでいる。


まさか、二次元の推しを、自分のセンスにコーディネイトできるなんて、仕立屋になった甲斐があったよ。

ま、前世でゲームをプレイしていた時は、特にヴィンスを推してた記憶は無いけれど、細かいことは気にしない。


「今日はクレアに、いつものお礼をしようと思って。何か欲しいものあるか?」

「ええ?そんな突然。お礼なんていらないよ!」


私がしていることなんて、服を作っているだけだ。


稼ぎはヴィンスの足元にも及ばないし、家事能力もヴィンスの方が高い。料理からおやつまでヴィンスが作ってくれている。


……これ、むしろ私がお礼すべきじゃない?


奥ゆかしい私は、当然遠慮してみたが、今日のヴィンスは頑なに譲らない。


しかし、急に言われても、欲しい物なんて思い浮かばない。

洋服は自分で作るし、宝石を貰ってもどうしようもない。かといって、雑貨類もすぐに思いつかない。


唯一出てきたのは『現金』だったが、それを口にしてはいけない位の判断力は、恋愛偏差値の低い私でも、ギリギリ持っていた。


男性から引かれない、高すぎない、図々しいと思われない物という難題に追い詰められた私は、視界の端に移った店を、思わず指さした。


「じ、じゃあ、あそこの串焼き!」


さて、この回答が正解だったのか。この場に突っ込んでくれる人は誰もいない。

ヴィンスは何とも言えない顔をしていたが、とりあえず、牛肉の串焼きはとても美味しかった。



こうして、微妙な雰囲気で仕事に向かった私達は、騒然としたギルドで恐るべき話を聞く。


――辺境の孤島が、数え切れない程の魔物の大群に襲われ、壊滅した、と。

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[気になる点] ヴィンスと共に、シュロアールの中心街に繰り出す。 ごく普通の服に身を包んだヴィンスを見て、思わず顔がにやける。 若気る【にやける】 男性が女性のようになよなよして色っぽい様子 鎌…
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