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誰が主人公かわからないよ

「アル!村の方に走って!」

「え!?でもそんなことをしたら……」


私の突然の提案に、走りながらアルが戸惑ったように声を上げる。

当たり前だ。魔物に追われている私達が、村に向かえば、多くの人が巻き込まれ、被害は更に甚大になる。

主人公アルが、そんな真似をするはずがない。


「大丈夫!多分冒険者様がいる。冒険者様なら魔物を倒せる!」

「本当か!?」


根拠は全くないけれど、自信満々に叫んだ。

私の確信に満ちた言葉に、アルも半信半疑ながら、他に良い方法がない事は分かっているのだろう。

村の方に進路を変えた。


『ライトソードファンタジー』では、主人公アルの幼なじみ(つまり私)が死に、勇者の力を得たアルは、初バトルで、ファイアグリズリーを倒す。

だが、他の魔物が現れ、疲労困憊のアルは絶体絶命!その時、最初のパーティメンバー、冒険者で格闘家のマテオが登場し、魔物を蹴散らす。


そしてアルは、マテオと共に、生まれ育った村を後にし、魔物討伐の旅に向かうのだった――


ということは、すぐ近くにマテオはいるはずなのだ。


マップを頭の中で展開して考える。

私達が魔物に追われているこの雑草地は、村の南側にある。さらに南には、海が広がっているため、村の人が別の町に行く場合は、北の街道に向かう。

つまり、外部からここに来る人は、村を通過するはず。


もし逆の海側からマテオが来ていたら、ジ・エンドだけど、私は気の良い兄貴分マテオに賭ける!


賭けに負ければ、死あるのみだが、死なばもろとも、村の皆も巻き込んでくれる。グハハハハ。


あれ、もはや私が魔王じゃね?


素晴らしいスピードで走るアルだが、ファイアグリズリーとの距離は少しずつ近づいている。


前方には村を囲む柵が見えつつある。真っすぐ村に向かって走って来る私達3人と、その背後の魔物熊に、見張りが気付いたのだろう。けたたましく鐘を撞く音、そして男達の怒号が響いた。


(頼む!マテオ来い!早く来ないと主人公が死ぬぞ)



私の脅迫めいた願いは、天かどこかに届いた。



「おいおい、大丈夫か?助太刀するぜ」


低いイケボ、ゲーム通りのセリフで、村の入り口から、筋肉質な大男が登場した。


厳つい野性的なルックス、武器がメリケンサックというビジュアル的な地味さ、攻撃力は高いけれど近距離攻撃オンリーという使い勝手の悪さ、そして仲間にできるキャラの中で、唯一の30代後半という年齢設定からか、メンバーで最も人気の無かった不遇の男、マテオ。


(プレイしていた時、真っ先にバトルメンバーからはずしてゴメン)

でも、今、マテオは私の中で一番輝いている。

主人公は、間違いなくマテオに変わった。私の中で。


村に逃げ込む私達と入れ違いで、マテオがファイアグリズリーに向かって、迷いなく飛び出していく。

柵の内側に駆け込んだ私とアルは、マテオの方向を慌てて振り返る。


マテオの動きは、まさに戦い慣れした玄人のものだった。


巨大なファイアグリズリーに走って距離を詰めると、振り下ろされる腕を躱し、素早く死角となる脇に入り込んだ。


「どるぁ!」


響き渡る大声と共に、マテオの拳がファイアグリズリーの胸にめり込む。

マテオより数倍大きい熊が、マテオのアッパーで吹っ飛んだ。


「す、すげえ……」


アルが感嘆の声を上げる。

その後も、マテオはファイアグリズリーの攻撃を難なく躱し、打撃を加えていく。


しかし、なかなかファイアグリズリーの動きは緩まない。

アルや、周りで様子を伺っていた村人達の間にも、不安な空気が漂い始める。


(そうか、ライトソードが無いからだ)


ゲームでは、魔物を祓うといわれる伝説の剣、ライトソードの一撃により、ファイアグリズリーは倒された。

マテオは強い。が、単独攻撃だけでは、ダメージを与えられても、魔物に致命を与えるまでには至らないのだ。


(……万が一、マテオが負けちゃったら……)


再び私の死亡フラグが、むくむくと立ち上がっている気がする。


「ど、どうしよう……」


こぼれ出た私の声に、アルが何かを決意したように私をじっと見つめた。


「……大丈夫。クレアも、村の人達も、俺が守る」

「え?」


驚いてアルの顔を見上げる。

あっちこっちへ跳ねた焦げ茶色の髪、健康的に日焼けした浅黒い肌、くりっとした目は可愛らしさも感じるが、今は強い意志が浮かんでいる。


「アル?」

「みんな!あの冒険者は今、この村を守って戦ってくれている。でも、自分たちの村を、俺たち自身で守らなくてどうする!?」


騒然とした村の中で、アルの声は不思議と通った。

困惑したような沈黙が訪れる。


それはそうだ。アルは単なる漁師。別に村長でも権力者でも、何でもない。


しかし、次の瞬間、野太い男たちの歓声が響き渡った。


「そうだ!アルの言う通りだ!」

「俺たちの村は、俺たちで守るぞ」

「熊なんぞに負けてたまるか!」

「「おお!!」」


アルの檄で、村の男たちが一気に燃え上がる。

暑苦しい勢いに、こんな時だけど、ちょっと引く。


わずか14歳で、荒くれ者の多い村の男たちをまとめあげたアルは、さすがは主人公というべきか。溢れるカリスマ性だ。


「いくぞ!」


先頭を切って走っていくアルは、まさしく主人公だった。


手に持つのは、伝説の剣ではなく、漁に使う銛だったけれども。


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