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行き当たりばったりも悪くない

(来た……!)


いい加減早く来いよと、イライラし始めた頃、舗装されていない夜道をザッザッと歩く靴音が聞こえてきた。

暗闇でシルエットしか判別できないが、体格や歩き方からすぐにヴィンスだと分かった。


久々に見るヴィンスの姿に、思わず茂みから飛び出し、ヴィンスの前に仁王立ちになると、頭の中で組み立てていたシミュレーションが、全て吹き飛んだ。


「ちょっと!幼なじみに挨拶もなく引っ越そうなんて、酷いじゃない!?」


何言ってるの私!?

まだちゃんと言えていない、助けてもらった時のお礼とか、私の気持ちとか、これからの相談を、冷静に話そうと思っていたのに、どうしてこうダメなんだ、私の口!


ヴィンスの顔は、月明かりでも見える距離だ。


その表情は……呆気にとられている、というに相応しい。


これまで、あれだけ上手く、私を躱し続けてきたヴィンスだ。

もしかしたら、今、ここに私が潜んでいたことも、気付いていたかもしれない。


だから、このビックリ顔は、私が待ち伏せしていたことに対するものじゃない気がする


そう、「何言ってんだコイツ」的な。


「……えっと……ごめん?」


何とか気を取り直したらしいヴィンスが、とりあえず謝罪を口にした。

謝って欲しかった訳でもないのに、訳の分からないことを言って、戸惑わせて、私は一体何をしたいんだか。


「……なんで、黙って行こうとするの?」


やっとまともな質問ができた。

暗い中でも、ヴィンスの顔が辛そうに歪んだのが分かった。


「キャシーさんに聞いたんだろ?僕のこと」

「うん」

「だから、僕には関わらない方がいい」

「そこの論理展開、意味分からない」

「え?」


怯んだような声を漏らすヴィンスを、キッと見据える。


「何だかよく分からない疑惑かけられてるみたいだけど、そんな迷信で勝手にいじけないで」

「でも、クレアも見ただろ。僕は、普通の人間じゃない。いずれ、厄介者になることは、自分でも分かっていた」


なるほど、あの洞窟で魔物に指示を出したり、即死ワザを使ったりしたことを気にしていたのか。

ヴィンスのチート能力は、ゲームで見慣れていたから、私は全く意識してなかったけれど、一般人なら、怖がるか引くか、ネガティブな反応になってもおかしくないかも。

少なくとも、ヴィンスはそう思ったから、私を避けていたってことか。


「そもそも、一般人の私に、普通か普通じゃないかなんて分かりません!で、百歩譲ってヴィンスが普通じゃないとして、世界を滅ぼすとか、何か悪だくみしてるわけ?」

「そんなわけない」

「じゃあ問題ないじゃない」

「だから、そこじゃなくて……」


これは、グダグダがいつまで経っても続いてしまうパターンだ。

多分、まともに説得を試みても、延々と話は進まないだろう。

何より、頭の出来が私とヴィンスでは大分違う。理詰めで勝てる相手では無い以上、力づくで押し切ろう。


「変わった力を持っていて、魔物と会話できる善良な市民ってことでしょ?オーケーオーケー」

「いや、だから……」

「はい、じゃあこれ持って」

「人の話を聞け。……って、何この荷物」


茂みにあった荷物の1つを、ヴィンスに押し付けた。


「何って、その袋は、出来立てのヴィンスの服と、私の裁縫道具が入ってるわ。ちなみに、こっちのバッグには、私の身の回り品が入ってる」

「は?」

「引っ越しとなると、やっぱり荷物がそこそこ嵩張るわ」


よっこいせと、身の回り品を詰めたバッグを背負う。

極限まで荷物を減らしたおかげで、背負ってしまえば、なんてことはない。鍛えられた田舎娘の脚なら、十分旅はできる。


「おい、どういうつもりだ?」

「見たまま。私もこの村を出て、旅に出ることにしたから」

「はあ!?」


かつてないほど驚愕の顔をしているヴィンスを、サラッと無視する。


「駄目だ!クレアを巻き込む気は無い!」

「誰も巻き込まれようとは思ってない。私も、外の世界を見たくなったから、ちょうど旅立つヴィンスを巻き込もうとしただけ。ヴィンスが一緒に行ってくれないなら、私1人で行くわ」


アメリアさんと涙のお別れをしてきたばかりだ。「貴女の家はここだから、いつでも帰ってきて良いからね」と言って貰ったけれど、さすがにその日の内に帰ったら恥ずかしすぎる。意地でも旅立ってやるさ。


「1人なんて、危険すぎる!」

「じゃあ一緒に行ってよ。どこか行く先決まってるの?」

「いや、特には。でも、王都には……」

「王都には行かない。アメリアさんの師匠にはお断り済みだもん」


王都なんて行ったら、ヴィンスの正体がバレる確率が上がってしまう。

それに、私は他にも行って見たい場所がいくつかある。ゲームでの知識だけど。


「でも……」

「さ、行こ!」


道もよく分かっていないけれど、とりあえず進みだす。

「ヴィンセントはああ見えて押しに弱いから、押して押して押しまくりなさい。既成事実を作ればこちらのものよ」とは、アメリアさんではなく、まさかのキャシーさんからのアドバイスだ。

品の良い婦人風の見た目で、何を言い出すんだ、全く。


歩き出すと、後ろから付いてくる足音が聞こえる。

威勢よく言ったものの、ヴィンスなしで夜道を歩くのは、この世界では自殺行為だ。


(良かった!ヴィンスさえいれば、魔物に襲われることは無いし、大概の危険は何とかしてくれるだろうし!……なんか私、魔王を護衛替わりに利用しようとしている、とんでもない女じゃない?)


無意識にブツブツ呟いていると、後ろから、弱々しい声で問いかけられた。


「クレアは、何を考えているんだ……?」


独り言が聞こえたかと一瞬焦るが、どうやら、ヴィンスの疑問はそこではなさそうだ。

ならば、私の答えは一つだけ。


「私は、ヴィンスと一緒に居たいだけ!」


振り返り、満面の笑みを向ける。月明りの中で、ヴィンスの顔が歪み、俯いた。

しばらくして、顔を上げたヴィンスは、いつもの柔和な表情に戻っていた。


「……村に帰りたくなったらすぐに言えよ」

「わかったわかった」


ヴィンスは私の横に並び、歩き出す。


「で、どこに向かっているんだ?」

「え?決めてないけど」

「……マジか」

「ま、いいじゃん。行き当たりばったりも悪くないよ、多分」


私の楽観主義、ここに極まれり。


まあ、生きてりゃ何とかなるだろう。自分の選んだ道で、大切な人と一緒なら。



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