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圧迫面接と私の決断

診察室の椅子に座り、真剣な雰囲気のモーガン先生と向き合う。

キャシーさんは何か言いたげな顔をしていたが、お茶を出すと待合室の方へ行ってしまった。


「クレア、ヴィンセントのことを、どう思っておる?」

「どうって……?」


唐突な質問に、どういう意味なのか図りかねて、とりあえず首を傾げる。


(どうって、幼なじみとしては頼りがいがあって最高だし、異性としては……)


と考えて、思わず頬が赤らむ。


(あ、でも避けられてるんだった)


顔の熱が一気に冷め、テンションがガタ落ちになる。

無言で感情のアップダウンを繰り広げている私に、モーガン先生も苦笑いしている。


「聞き方が悪かったの。魔導士としてじゃ」

「魔導士としてと言われましても、すごく優秀だとしか」


やっぱりモーガン先生の聞きたいことが分からない。

ど素人の私に、魔導のことが分かるはずもないし、そんなことは、ヴィンスの師匠であるモーガン先生が一番分かるだろう。


「難しく考えることはない。そう、そなたを助けに行った時、ヴィンセントは何か変わった力を使わなかったか?」


まさか魔王の力のことか?と思い至って、血の気が失せる。

モーガン先生は昔、王宮に仕えた高名な魔導士だ。ヴィンスの秘密に気づいてしまってもおかしくない。

モーガン先生は決して悪い人ではないが、魔王となれば話は別。

魔王が人類の敵ということは、この世界では常識、本能に深く刻まれていると言っても過言ではない。


「いえ、特には……」

「そうか。ヴィンセントにはこれまで、医療系の魔導しか教えてこなかった。索敵系や攻撃系の魔導はほとんど使えない筈なのに、どうしてそなたを見つけ、助け出せたのかのう?」


モーガン先生、いやらしくじわじわと追い詰めてくる。

でも、私はどんなに問い詰められても、絶対に話しませんとも。ヴィンスは私の命の恩人で、誰よりも大切な人なのだから。


「あいつらを倒したのは、偶然遭遇した魔物です。ヴィンスは助け出してくれただけです」


困り顔で何も知らない小娘を演じる。

追い詰められると急激に回転が速くなるな、私の口と頭。


モーガン先生にじっと見つめられ、背中は冷や汗が流れているが、全力で見つめ返す。

途中で、(逆に怪しくない?)と気付いたが、今さら目を逸らすこともできず、微妙な笑みを浮かべたまま、地獄のような時間を耐え抜いた。


「ヴィンセントは、本当に良い友を得ている」

「え?」


それは、私のことでしょうか?と聞く前に、モーガン先生がゆっくり話し始めた。


「これは独り言じゃ。……引退した魔導士の中には、王家の命令で、国内あちこちの村で隠居生活を送る者もおる。わしもその1人だ」


話の行方はまだ見えなかったが、口を挟むべきではないと、私でもわかる。

黙ってモーガン先生の言葉に耳を傾けた。


「任務の中に、強い魔力を持って生まれた子を早期に発見するというものがある。国の役に立つ魔導士に育てるか、しかるべき教育機関に推薦するためと表向き理由付けられているが、他にもう1つある」

「もう1つ……?」

「『魔物の落とし子』を、見つけるためじゃ」


『魔物の落とし子』という言葉には、聞き覚えがあった。


ゲームや漫画には、人間と違う見た目や、身体能力を持つ種族がしばしば登場する。獣人とか、エルフとか、作品によって様々だ。


テンプレゲームとも揶揄される、『ライトソードファンタジー』にも、例によってそういったキャラクターが登場した。

『魔物の落とし子』と呼ばれる人々は、人間と違う見た目や、人智を超える力を持っているが、ゲーム内では差別され、迫害を受けているという設定だった。


ゲームを進めていくと、アル達主人公パーティが、『魔物の落とし子』と言われていた少年を救い、仲間に加えるストーリーがあった。あの少年は、ピュアで可愛かった……。


いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。

要は、モーガン先生は、盗賊団から私を助け出してきたヴィンスが、隠していた力を使ったのではないかと疑っている。


さすがに魔王という発想は無かったようだが、『魔物の落とし子』と疑われてしまうのも、大変よろしくない。

残念ながら、人権?何それ?みたいな世界だ。ヴィンスがまともな人生を送れなくなってしまう。


「ヴィンセントは、そなたを助けた日以来、魔導の質が変わった。人を避け、魔力を安定させようとしているようだが、単なる魔導士というには、違和感がある」

「ヴィンスは、優秀なだけです!普通に助けてくれました」


恐らく青ざめた顔で、必死にまくしたてた私に、モーガン先生は冷静に言い放った。


「『魔物の落とし子』かどうかはさておき、疑いのある者を見つけた以上、わしも仕事として、ヴィンセントのことを国に報告しなければならん。近く、王都に送ることになるだろう」

「そんな!ヴィンスは、凄く優しくて、他人を助ける立派な人間です。何も悪いことはしていません!」

「そのようなことは知っておるが、決まりだからの」


カッとなって食ってかかった私の事なんて、気にも留めず、モーガン先生は冷たく診察室から追い払ってきた。

頭に血が昇ったまま、しばらく診察室の扉の前で呆然とした。


(くそジジイ!どうしよう、ヴィンスが……)


私が盗賊になんて捕まらなければ、ヴィンスは平和に過ごせていたのに。

後悔が次から次へと押し寄せる。


何とかする方法はないかと、前世の記憶を辿るが、役に立ちそうなことは、何一つ思い浮かばない。

泣きそうになる私の後ろに、いつの間にかキャシーさんが近寄ってきていた。


「クレアちゃん、ちょっとこっちに来て」


囁くような声で、キャシーさんに呼ばれる。


キャシーさんの話を聞き、色々考え、そして、私は(現時点で)人生最大の決断をすることになった。

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