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攻略サイトを頼ったっていいじゃない

「この奥の、財宝だと?何をいきなり出まかせを言ってんだ?」


私に剣を向けていた盗賊は、馬鹿にしたように鼻で笑い、躊躇なく振り下ろそうとした。


(やっぱり無理か!神様仏様!)


身を縮ませ目を瞑った時、「止めろ!」と大きな声がした。

声の主は、盗賊団のお頭だ。


「お頭、どうしたんですかい?」という手下達の問いかけを無視して、頭は私の近くにノシノシと歩いてきた。


「おい小娘、何でこのアジトの地下を知っている?」

「え、それは、その」


どうやら下っ端は知らなかったようだが、お頭とやらは、アジトにしている、この洞窟の秘密に気付いていたらしく、私の話に食いついてきた。

だが、上手く答えて興味を引かなければ、あっという間にあの世行きだ。


「わ、私は、近くの村の長老の娘で、外に知られていない言い伝えや古文書を覚えております。このど、洞窟の地下にある迷宮の構造も、最深部の財宝も、知ってます!」


よくもまあこの状況下で、ペラペラと作り話が出るものだと、自分に感心する。

普段回転の悪い頭だが、追い込まれると口から出まかせがポンポン飛び出すのは、前世からの特技だ。


「……地下の迷宮ってなんすか?」


お頭の後ろにいた若い下っ端が、隣の中年――恐らく古株――に問いかけている。


「お前は知らんだろうが、アジトの中に、地下に繋がる道がある。宝があるとかで、今まで何人も入ろうとしたんだが、迷うわ魔物はでるわで、誰も奥まで進めてないんだ」


やはり、実際のアジトも、ゲームの設定と同じようだ。

お頭は半信半疑の表情だが、あと一押しという手応えを感じた。


「一番危険が少ないルートを教えます!だから助けて下さい!」

「……いいだろう。お前の言うことが本当ならな」

「お頭!?いいんすか」

「こいつが言っていることが嘘っぱちだったなら、殺しゃあいいだけだ。別に俺達に損はねえ」


……首の皮一枚で繋がった。

まだ助かる道は見つかっていないけれど。


私を斬ろうとしていた男は剣を下ろし、ほっと息をついた私に、盗賊の1人が、おっかなびっくり布を押し付けてきた。


ポカンとして思わず盗賊を見て、視線から意図を察した。

盗賊が見ていたのは、私の胸元だ。その視線からは、決して欲情や下心といったものを感じない。


どうやら、私の肌は、見るに耐えないおぞましさらしい。

薄汚れた布を、ストールのように肩から巻きつけると、一応はだけた胸元と傷痕は隠すことができた。


「じゃあ案内しろ。騙そうとしたり逃げようとしたら、その場で殺すからな」

「はい……」


とにかく今は、この連中を、洞窟の奥まで連れていくしかない。

時間を稼ぎ、何とか逃げ出す隙を見つけ出すのだ。


力の入らない足を、必死に奮い立たせ、立ち上がった。



『盗賊団アジトの地下迷宮』は、盗賊団討伐完了後、攻略することになるダンジョンだ。

その構造は極めて単純。道は、必ず3本に分かれており、右・中・左の何れかを選び、次の部屋に進み、再び3択に挑む……を何度も繰り返すだけだ。


ただ、洞窟ということもあり、進めど進めど背景は常に同じという、制作側がグラフィックに手を抜いているとしか思えない、単調さ。

選択肢を間違えると元の場所に戻るが、結局風景が変わらないので、戻っているのか進んでるのか、正解なのかも分からないという、地味にストレスの溜まる仕様。

ちょいちょい出てくるザコ魔物がウザい。


などなど、プレイヤーからとにかく不評だった。


かくいう私も、最初は自力で挑んだものの、1時間、ひたすら代わり映えのしない洞窟のビジョンを見続け、気持ちが折れた。


一刻も早く次に進むべく、攻略サイトで最短ルートを検索し、最奥部の財宝(その時点では最高の防具)を手に入れてからは、ストーリー上の必要に迫られない限り、足を踏み入れなかったこのダンジョン、まさかまた攻略する羽目になるとは……しかも、文字通り命懸けで。


「いいか、妙な真似したら、わかってるな?」


念を押されなくても分かってますとも。


奇跡的に私の記憶に引っ掛かっていた、攻略ルートの覚え方『ちうささうちさ』……中右左左右中左。この順番で進めば、最深部までは最も危険なく行けるはず。


そう、()()()()()()、だが。



◇◇◇◇◇◇



「さあ、先に進め」


盗賊団を後ろに従えた状態で、意を決して狭く暗い洞窟に入る。

中央の道、右の道……と、盗賊団の掲げる松明だけを頼りに、攻略情報通りに進む。


魔物がいることがわかっている空間、数メートル先も見えない暗闇に、流石の荒くれ者達も、ビクビクしている雰囲気がひしひしと感じられる。


先頭を進まされる私だって、物凄く怖い。でも、後ろの盗賊団のことも怖い以上、進むしかない。


私の無駄な記憶力は正しかったらしく、拍子抜けするほど、何も出てこない。

初めは恐る恐るといった体で、静かに付いてきた盗賊達も、次第に余裕が出てきたらしく、後ろが賑やかになっている。


時間感覚も、方向感覚も無くなってきた頃、遂に最深部に到着した。


小学校の体育館くらいの広々とした空間。

中心には、金貨の山、その上に宝箱が堂々と鎮座している。

盗賊団の連中は歓声を上げ、我先にと突撃していく。


「あ!ちょっと待って……」


どう見ても、古今東西あらゆるゲーム、漫画、アニメ等々で登場する、あからさま過ぎる罠でしょー!?


と心の中で叫び、止めようとしたところで、私の言葉を聞く者なんていない。

盗賊団が金貨の山に足を踏み入れた瞬間、このダンジョンのボス、ローリングヒヒが現れた。


凄まじい音量の咆哮で、宝に群がっていた盗賊達が吹き飛ばされ、洞窟の天井や壁に叩きつけられる。


更に、天井の岩が崩れ落ち、押し潰される盗賊の悲鳴が、洞窟の中に反響する。


私の真上の巨大な岩が崩れ落ちてくる。

走っても間に合わない。

ぺしゃんこになると分かっていても、反射的に両手で頭を覆い、(うずくま)るしかなかった。


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