オープニングから絶体絶命
(ぎゃあああああ!!)
本当の恐怖に遭遇したとき、意外に声が出せないって本当なんですね。
そんな現実逃避をしたくなるほど、私は今、追い詰められている。
背後から猛然と迫ってくるのは、3メートルはある熊型の魔物、ファイアグリズリーだ。
鋭い牙を剥き出しにし、口周りは血で真っ赤に染まっている。
ファイアグリズリーの前に立ち塞がっていたはずの剣士は、ついさっき悲鳴が聞こえたきり、姿が見えなくなった。
魔物の牙にぶら下がった肉片や鎧の残骸が、誰のものかなんて、想像もしたくない。
がむしゃらに走る私の目の前に、腰を抜かしている老人と、必死に担ぎ上げようとしている幼なじみ、アルの姿が見えた。
このまま走っていけば、間違いなく2人も襲われてしまう。
(ダメ!くい止めなきゃ)
非力な村娘に過ぎない私は、無謀にも魔物に向き合い……。
『オープニングムービーでヒロイン死ぬってどういうこと?ウケる』
どこかから声が聞こえた気がした。
すごく聞き覚えのあるようで、それでいて一度も聞いたことのないような、女性の声。
その瞬間、突然頭の中の霧が晴れたかのように、記憶が鮮やかに甦ってきた。
ここが、前世プレイしていたRPG、「ライトソードファンタジー」の世界だと。
そして私は、オープニングムービーで主人公を庇って死ぬ、幼なじみの村娘になっているということを。