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着陸したXX-7に対し、残された二体の促進者は住民の「殺傷」と「測量」を中止し、「攻撃」と「測量」を開始した。
XX-7は前方からの促進者の攻撃に回避行動を取った。
回避に成功した。XX-7はそう思ったが、次の瞬間、右脇腹に激痛が走った。
死亡直前のXX-4のようにダメージの蓄積で回避能力が落ちているのかもしれない。
だが、悩んでいる時間はなかった。こちらも激痛に耐え、左腕を前に押し出す。
促進者の左肩が砕け散る。
にもかかわらず、痛そうなそぶりも見せず、再度、攻撃して来る促進者。
(全くもって「理不尽」。そして、これが現実)。
そう自分に言い聞かせ、XX-7は激痛を堪え、左腕を押し出す。
促進者にはダメージを与えたようだが、それをXX-7は確認できない。
何故なら激痛に伴い、少し気を失ったからだ。
皮肉なことに促進者がXX-7の左足を斬った痛みで気を取り戻した。
右足に加え、左足にも大きなダメージを受けた。
当然、フラフラだ。よく立っていられるな。自分でもそう思う。
だが、目の前の促進者はXX-7の攻撃で左半身を完全に喪失し、右足も辛うじて胴体に繋がっている状態だがそれでも攻撃してくる。
(本当に「理不尽」だ。そして、この戦いに何の意味があるというのだ?)
浮かんでくる疑問を抑え込み、XX-7はまたも激痛に伴い気を失いながらも、四体目の促進者を砕き切る。
そして、五体目、最後の促進者の攻撃で目を覚まし……
その後、四発目の左腕の押し出しで、XX-7は完全に気を失った。
最後の促進者を倒し切れたのかどうかも分からないままに……
今回の戦闘で負傷した右脇腹の激痛で、XX-7は目を覚ました。
どうやら右脇腹を思い切り蹴られたらしい。
「呑気に寝てんじゃねえぞっ! 啓っ! この引きこもり野郎がっ!」
かつて何度も聞かされ、心に深い傷を負わせた罵声が響く。この声の主は……
思い出す間もなく、更に背中に連続で蹴りが入る。
「引きこもりのくせにっ! 陰キャのくせにっ! XXナンバーズメンバーだあっ?
かっこつけてんじゃねえっ! 守れないくせにっ! 何も出来ないくせにっ!」
(そう…… そうだ。こいつは丈志…… かつて啓を引きこもりに追い込んだ男)
(逃げ…… 逃げなければ…… このままでは促進者ではなく、人間の丈志に殺されてしまう……)
だが、XX-7、啓の体はその意思に反して、動こうとしなかった。
その原因は、促進者から受けたダメージの蓄積か、過去の経験から来る丈志に対する恐怖心か、それとも、その双方か……
ともかくXX-7、啓はただの「人間」である丈志に蹴られるがままだった。
「止めなよっ! 丈志っ!」
その声が響くまでは……
◇◇◇
「亜里沙っ!」
丈志が振り向いた先には、幼き頃から啓と丈志を知る亜里沙が立っていた。
三人とも十五歳だ。
「何で止めなきゃなんねえ。啓はクズだ。蹴ってならねえ理由がねえ」
「何言ってんのっ! 啓はXXナンバーズメンバーだよっ! 住民を守って、戦っているのにっ!」
「ああっ?」
丈志が啓を蹴る力がより一層強くなった。
「啓がいつ住民を守ったよ? 俺の親父もお袋も弟も、みんな促進者に殺されちまったっ! 亜里沙っ! てめえの家族もそうだろうがっ!」
「そっ、それは……」
それは事実だった。XXナンバーズメンバーが住民を殺傷する促進者のところに駆けつけられる時には常に既に多くの人が殺された後だったのである。
「でっ、でもっ! XXナンバーズメンバーは促進者を倒すし、第一、啓は好きでXXナンバーズメンバーになったわけじゃないっ!」
それも事実だった。中学入学時から丈志たちの執拗な暴力と暴言により、不登校から引きこもりになった啓が好き好んで、戦闘要員であるXXナンバーズメンバーになりたがる訳がなかった。
自室の柱にしがみついて抵抗したが、空しかった。
それは司令の命令で無理矢理連行されたということもあったが、むしろ啓の家族が積極的に協力したことが大きい。
引きこもりの啓は家族にとっての「恥」であり、むしろ出て行ってもらいたい存在だったのである。
「甘ったれた根性を叩き直してもらえ」
それが実の父の最後の言葉だった。
啓を連行する者たちに啓の家族は誰一人抗議せず、むしろ労いの言葉をかけた。
ただ一人、啓を連行する者たちに抗議したのは隣家の亜里沙だけだった。
しかし、何の力のない少女の抗議は、それもまた空しかったのである。