8
わずか一人になってしまったXXナンバーズメンバー。
XX-7、啓の戦いはまだ続いている。
自らを囲む三体の促進者。うち一体にはかなりのダメージを与え得たが、まだ倒し切れてはいない。
そうしているうちにまたも別の促進者が後方から斬りかかってくる。
回避せんとするXX-7だが、避けきれず、右の二の腕から鮮血が吹き出す。
「ぐううう」
思わず苦痛の声が出る。
それを「測量」したらしいダメージを与えた促進者も襲撃してくる。
相当のダメージを与え、身体の七割くらいが砕け散っているのにお構いなしだ。促進者には痛覚も恐怖心もないのだろう。
意を決し、XX-7は負傷がまるで治癒していない左腕を突き出す。
激痛が走り、何かの音がした。
左腕の筋肉の繊維が何本か断裂したか、更に骨が砕けたか、もしくはその双方だろう。
ダメージを受けていた促進者は大きくのけぞり、三割弱残っていた漆黒の身体は身体は四散した。
XX-7は左腕をだらりと下げる。この左腕が完全に動かせなくなれば「詰み」だが、どうやらまだ動きはするようだ。
先程XX-7の右の二の腕を斬った促進者は今度は真正面から斬りかかってくる。
XX-7は激痛に耐えつつ、左腕を前に押し出す。
衝撃を受けた促進者の左肩が砕け、バランスを崩す。
その間にそれまで「測量」に専念していた三体目の促進者が後方からXX-7に襲い掛かる。
回避し切れない。今度は右足から鮮血が吹き出す。
だがそのことは考えないように努め、XX-7は左腕を前に押し出す。
前方の促進者の右足が今度は砕け散る。
(自分の左腕が潰れるのが先か。五体の促進者を倒し切るのが先か)。
XX-7は少しだけ考えたが、考えても仕方がなかった。
激痛が走る左腕を前に押し出し続けるしかない。それが出来なくなったら、ここの拠点の住民全員が惨殺されるということなのだ。
◇◇◇
XX-7は最初の賭けには勝った。
空中に浮かぶ三体の促進者を倒し切った時、まだ XX-7の左腕は動いた。
但し、まだ勝ったのは「最初の賭け」だけである。
今回襲来した促進者は五体。残る二体は既に着陸し、住民の惨殺を始めている。
XX-7はゆっくりと降下を開始した。
急いで降下すべきなのは分かっていた。だが、ここで急降下するとXX-7自身の身体がバラバラになってしまいそうだった。
危険を避け、ゆっくり降下するしかないのである。
◇◇◇
XX-7が着陸した時には既に二体の促進者による住民の惨殺は行われていた。
一時、促進者に対する戦闘能力のない一般住民は「安全地帯」に退避させるべきではないかという議論が惹起されたことがあったが、すぐに立ち消えになった。
理由は促進者の襲撃から見た「安全地帯」なるものが、存在しえないからである。
施錠された古い木製のドアだろうが、最新式の鋼鉄製のドアだろうが促進者はあっさりとそれをすり抜けた。
地上二十階に立てこもっていようが、地下三階で息を潜めていようが、一直線にそこに向かい、淡々と「殺傷」と「測量」に従事した。
XXナンバーズメンバー以外の人間が促進者を拳銃で撃とうが、鉄パイプで殴打しようが、鍛え上げた手刀で叩こうが、全てすり抜けてしまう。
それでいて、促進者の攻撃は確実に「人間」を「殺傷」出来るのである。
これ以上にない「理不尽」であった。
結局伝達された対策は「各住民は一か所に固まるな。出来るだけ分散して隠れているように」だった。
後は促進者が自分たち以外の人間を「殺傷」しているうちに、XXナンバーズメンバーが促進者を退治できることを祈るしかない。
だが、XXナンバーズメンバーが現れるのはいつも遅かった。多くの住民が惨殺されてから、「やっと」現れた。
住民の怒りは促進者という絶対的強者に対してではなく、XXナンバーズメンバーという身近な存在を「努力不足」という言葉で糾弾する方向にも向いて来た。
担当医師のマリアはXXナンバーズメンバーを糾弾する動向について対策を取るように何度も司令に申し入れをした。
だが、司令はその状況を放置した。
司令にとって、この絶望的状況に対して有効な対策が取れていないことに対する批判が自分以外のところに向かうのはむしろ好都合だったのである。