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わずかに三人だけ残ったXXナンバーズメンバーの意思は「守りたいものがあるから戦う。そのためには無理もする」で統一された。
それによりメンバー間及び担当女性医師のマリアとの間の祖語はなくなったが、そんなことは促進者の襲来には全く関係がなかった。
襲来する数こそはその都度増減したが、襲来と襲来の間の時間は確実に短くなっていった。
三人のXXナンバーズメンバーの累積疲労は全く解消されず、毎回、負傷は治りきらないままの出撃だった。
マリアは三人の出撃中止を諦めたわけではなく、何回も出撃中止を説いた。遂には「この拠点が潰れてもいいから出撃するな」とまで言った。
だが、三人はそれでも「行ってきます」と言うばかりだった。
そして、ついにその日は来た。
◇◇◇
促進者の攻撃に対するXX-4の回避行動は日に日に緩慢になっていったが、その日は際立ってひどかった。
まるで避けるつもりがないかのように。
そして、一体の促進者が右腕を鋭利な刃物に変えて、XX-4の首筋を狙った時もXX-4は動こうとはしなかった。
ついにXX-4の首がその胴から切り離されんとした……その時……
落ちたのはXX-4の首ではなかった。
身を挺してXX-4を庇ったXX-6の左腕だったのである。
!
その光景は覚悟をしていたにしてもXX-7の心に強い衝撃を与えた。
すぐさま、その時の戦いで有効であった左足での蹴り上げを、激痛に耐え、狂ったように残った促進者に食らわし、その全てを倒した。
そして、大慌てで空中に浮かんだままのXX-4とXX-6のもとに駆け付け、言った。
「あっ、あっ、あのっ、大丈夫ですか?」
もともと無口で会話を苦手とするXX-7がやっと絞り出したような小さな声にXX-6は笑顔で答えた。
「うん。大丈夫だよ」
「おっ、お二人とも重傷だと思うんで。ぼっ、僕が病院まで運びましょうか?」
「ありがとう。XX-7。いえ、啓君」
XX-6は左腕を失いながらも、なおも笑顔だった。XX-4は目を閉じたまま無言だった。
「でもね。XX-4はあたしが運びたいんだ。啓君は誘導をしてくれるかな?」
XX-7、啓は黙ったまま頷いた。そして、ゆっくりと誘導の降下を開始した。
XX-6は笑顔のまま残った右腕でXX-4を抱え、ゆっくりとマリアの待つ病院に向けて、降下を始めた。
その降下は本当にゆっくりだった。
XX-7は何度も何度も後ろを振りかえり、ついて来ているかどうか確認し、そして、空中で停止し、XX-6がついてくるのを待たなければならなかった。
通常の何倍もの時間をかけ、XX-4を抱えたXX-6は病院に到着した。
それを出迎えたマリアの表情はいつもに増して険しかった。
「私は二人の命を助けることに全力を尽くす。でも、XX-7、啓君。ごめん。覚悟をしておいて……」
それからマリアは一人手術室に籠り、全力を尽くした。もう助けてくれる看護師など一人もいない。みんな何らかの理由で死んでしまったか、もしくは司令の命令で発現する見込みのない飛翔能力の検査に従事させられているから……
マリアの奮闘は空しかった。
手術室の前で待つXX-7、啓の前に現れたマリアは一言だけ発した。
「ごめん。XX-7、啓君。とうとう君一人になっちゃったよ」
XX-7、啓はただ頷いた。それ以外のことは何も出来なかったから……
「そして、もう一つごめん。しばらく一人にしてくれるかな……」
XX-7、啓はまたもただ頷いた。今度もそれ以外のことは何も出来なかったから……
それから、XX-7、啓は静かにその場を立ち去り、自身の病室に向かった。彼もまた累積疲労を抱えた負傷者なのだ。
手術室ではマリアの泣き叫ぶ声がいつまでも響いていた。
「ちくしょうっ! 何が医者だ。親友とその恋人を危険な目に遭わせて、結局死なせちまって。ちくしょうっ!」