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その後も残ったXXナンバーズメンバー三人は促進者と果敢に戦い続けた。
しかし、促進者を根絶し、以前のように生徒たちと普通に過ごしたいというXX-4の願いは空しかった。
促進者の襲来は増えることはあれど、減ることは全くなかったのである。
遂にはXXナンバーズメンバーの医療を担当する女性医師マリアは言った。
「もうあなたたち三人の累積疲労は限界をとうに超えています。次回はたとえ司令から出撃命令が出ても、医師の誇りにかけて、私が出撃を許しません」
その言葉にXX-4は大きく反応した。
「マリア先生。それは駄目です」
マリアは冷徹に繰り返した。
「もう一度言います。私が出撃を許しません。こんな状況で出撃したら、あなたたちも死にます」
「マリア先生。出撃しなくても死ぬんですよ。僕は」
「!」
マリアは沈黙した。XX-4はかまわず続けた。
「促進者は僕たちが応戦しなければ、かまわず限度なく住民の殺戮を続けるだけだ。決して引き上げることはない。結局、みんな死ぬ。僕を含めてね」
「……」
マリアは沈黙を続けるしかなかった。XX-4の言うことが正しいことは分かっていたからだ。
「でも、マリア先生の配慮はありがたいです。XX-6とXX-7は休ませてください。僕は何とか出撃……」
「何言ってんのっ!」
語気を荒げたのはXX-6だった。
「XX-4の負傷が一番重いじゃないのっ! 休まなくてどうするのっ!」
XX-4は真っ直ぐにXX-6の目を見つめる。
「それでも僕は行きたい。かつての教え子たちを少しでも守りたいから」
XX-6も視線を外さずに返す。
「なっ、なら、あたしも行く。XX-4が行くなら、あたしも行くっ!」
「XX-6。いや、博海」
マリアも話に加わる。
「この三人。全員を私は出撃させたくない。そして、博海。あなたは一緒にこの病院に就職した。私は医師。あなたは看護師。でも、親友。死なせたくないんだよ」
「ありがとう。マリア先生。いや、マリア」
XX-6はマリアの方を向き直した。
「でもね。XX-4が言う通り、このままでは出撃してもしなくても、みんな死んでしまう。なら……」
XX-6はまたXX-4の方を向いた。
「せめて、XX-4と一緒にいたいんだ」
マリアは大きく溜息を吐いた。
「私は大事な親友を中学校の先生に取られたわけか……」
そして、マリアは無理に笑おうとした。でも、笑えなかった。
◇◇◇
「分かった。一緒に行こう。XX-6。いや、博海。でも……」
XX-4は今度はXX-7の方を向いた。
「君は休んで、マリア先生の指示に従うんだ。XX-7」
「いっ、いえ」
XX-7、啓は蚊の鳴くような小さい声で返した。
「ぼっ、僕も出撃します」
「駄目だっ!」
その時のXX-4の語気は今までになく強かった。
「君はまだ十五だろう。私の教え子たちと変わらない齢だ。何かの犠牲になって死んでいい齢じゃあないっ!」
XX-7は下を向き、沈黙した。だが、すぐに声を絞り出した。
「それでも僕は出撃したい」
さすがにXX-4の声のトーンも下がる。
「何故だ?」
「僕も守りたいものがある。それに……」
XX-7のその後は言葉にならなかった。
だが、XX-4は何かを察した。彼は元中学校の元教員なのだ。それも誠実に生きて来た……
(XX-7は心に何か傷を抱えている。それも思春期の通過儀礼で負うようなレベルではない。もっと深く、大きな傷を)
平和な世の中であれば、じっくり腰を構えて、XX-7の様子を見て、よりよい方法は何か、考えて向き合う案件だ。しかし、今の状況はとてもそれを許してはいない。ならば……
XX-4はゆっくりと口を開いた。
「XX-7。一緒に行こう。共に戦おう」
XX-7は黙ったまま頷く。
分からないけど、これが一番ましなのではないか。
XX-4は何となくそう思った。