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残ったXXナンバーズメンバーは三人だけとなった。
XX-4とXX-6はともに二十代。XX-4は男性。元は中学校の教員。XX-6は女性。元は看護師で女性医師のマリアの下で勤務していた。
司令は死んで行ったXXナンバーズメンバーたちを罵ったが、それは強い焦燥感の裏返しでもあった。
そして、司令はXXナンバーズの補充をすべく、XX拠点内の各機関に飛翔能力が発現した者を迅速に供出するよう強く命令を下した。
だが……
司令の焦燥と現実は全く関係がなかった。
新たな飛翔能力の発現者は全く報告されなかったのである。
司令は激怒した。
「調査が足りないのだ」
「もっと徹底的に調査しろ」
「戦闘の現場に動員されることを嫌い、発現した飛翔能力を隠している者が多くいるのではないか」
「飛翔能力を隠していた者は処刑を含む厳罰に処する。隠匿に関与した者も同罪だ。こちらは全員処刑する」
「隠匿情報を提供した者には手厚い褒賞を約束する」
「非常事態だ。勉強などしている場合ではない。学校は飛翔能力発現者の調査を毎日行え。実績が上がらない学校には罰を加える。企業については生活必需品と医療品を扱う活動はこれを許可する。だが、娯楽を扱ってきた企業は学校と同じ位置づけだ。活動を停止し、飛翔能力発現者の調査を毎日行え。実績が上がらない企業は学校同様処罰する」
XX拠点は地獄と化した。
司令の焦燥と現実は全く関係がない。
そのことが変わらない以上、住民への締め付けを厳格化しても成果が出る訳がない。
新たな飛翔能力の発現者は全く現れない。
しかし、XX拠点の内情は激変した。
現れない飛翔能力の発現者。司令は学校や企業の長を罵り、脅した。
学校や企業の長はその多くが部下を罵り、脅すようになった。
そして、学校ではヒラ教師が生徒を罵った。
元中学校の教員。XX-4はその日も自分のスマホのメール受信欄を開いた。
「先生。XXナンバーズメンバーになってしまって、もう学校に帰って来ないのですか?」
「先生。先生がいなくなってから、学校は地獄になりました。もう勉強なんか全然やってません。毎日毎日、『まだ飛翔能力が出てこないのかっ!』と怒鳴られながら、跳躍ばかりやらされています」
「先生。促進者との戦いはいつ終わるのですか? いつ学校に帰ってくるんですか? いつになったら元の学校に戻るんですか?」
「先生。つらいです。もう学校になんか行きたくありません。でも行かないと他の先生が無理やり連行しに来ます。それでも行くのが嫌で鍵のかかるトイレに隠れていたら、お母さんが他の先生たちに数人がかりで殴られました。仕方なくトイレから出たら自分も気絶するまで殴られました」
「先生。学校に戻ってきてください。助けて下さい。こんなつらく苦しいのはもう嫌です」
XX-4は大きく溜息を吐くとスマホのメール受信欄を閉じ、そして、呟いた。
「ごめん。みんなごめん。僕が促進者を倒し切れないばかりに……」
XX-4はもう一度スマホのメール受信欄を開いた。最後に送られてきたメールの日付はもう一か月も前になってしまった。
教え子たちはどうしてしまったのだろう。素質のない者にはどうしたって「飛翔能力」は発現しないと分かって解放されたのだろうか。スマホを取り上げられ、メールも送れなくなってしまったのだろうか。メールも送れないほど追い詰められてしまったのだろうか。まさか、殺されてしまったのか。促進者に。いや、かつての自分の同僚たちに。
「くっそうっ!」
XX-4は叫び声を上げた。
「僕が、僕がもっと強ければ、この子たちをこんな目にあわせずに済んだのにっ!」
XX-6は静かにXX-4の右肩に手を置き、言った。
「『僕がもっと強ければ』だけじゃないよ。私だってもっと強ければこんなことにはならなかった」
その時、もとより口数の少なかったXX-7、啓は無言のまま、その光景を見つめていた。




