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「なに……をやって……いるん……だ。に……げろ……」
XX-1は妻と幼い娘に向かって、声を絞り出した。
だが、二人は呆然として夫を、父を見つめるのみだ。
無理もない。二人とも戦闘発生に伴う避難訓練など受けていない。平和な国でサラリーマンの妻と娘として生きて来ただけなのだ。
更に、実の夫が、父が惨殺されようとしてしている。その場を迅速に立ち去るなどということが出来るわけがない。
促進者はひとしきり「測量」すると、今度はXX-1の右腕を肩から斬り落とした。
またも母子の悲痛な叫び声が上がる。
促進者は再度「測量」に移行する。
本来、促進者の「測量」時は、XXナンバーズメンバーにとって、最大の攻撃の好機だ。
だが、両腕を喪失している今のXX-1は攻撃の術を持ち得なかった。
最後の気力を振り絞り、両方の足を蹴り上げたり、頭突きをしたり、息を吹きかけたりしているが、今回は無情にも全く促進者にダメージを与え得ていない。
再度の「測量」を終えた促進者は今度はXX-1の右足を切断。
XX-1は「うぐっ」という言葉と共に転倒した。
「うわああああっ」
呆然としていたXX-1の妻が手持ちのバッグを振りかざし、促進者に向かって突進した。
「ば……か……や……めろ……ししつが……ないものが……いっ……てもむだ……」
XX-1の言葉通り、妻のバッグは促進者の身体をすり抜けた。
促進者はしばらくの間、その場に立つ妻を「測量」していたが、やがて妻の右足を切断した。
悲鳴が上がった。そして、信じがたいことにXX-1は左足一本で立ち上がり、促進者に向かって、頭突きを行った。
やはり、その頭突きは無効だった。促進者は加害する相手をXX-1からその妻に切り替え、「測量」を繰り返した。
四肢を順に切断された妻は激痛と憤怒と哀しみの中で死んで行った。
その様子を見せつけられたXX-1は更に「測量」された上、やはり死んで行った。
残された幼い娘は無表情のまま座り込んでいた。両親が惨殺されるところをこれ以上ないほど見せつけられた彼女は自らの意思で己が「心」を殺してしまったのである。
それを見た促進者は最初に「測量」を終えるとすぐに彼女の首を斬り落とした。
「測量」に時間をかけても、より一層のデータは得られない……そう判断したのかもしれない。
◇◇◇
他の促進者の掃討を終え、XX-1とその家族の殺害に直接関与した二体の促進者のところに、残るXXナンバーズメンバーがたどり着いたのはこの後だった。
残るXXナンバーズメンバーと言っても、もうこの時点でXX-4、XX-6、そして、XX-7こと啓の三人しかいなかった。
三人はXX-1とその家族の遺体を見て、何が起こったのか、即座に理解した。
三人は頷き合うでもなく、淡々と二体の促進者の「処理」を開始した。
既に今回の促進者への有効な攻撃方法を見つけていた三人は負傷しながらも、ほどなく「処理」を終えた。
◇◇◇
司令は己が妻子のために促進者との戦闘を中断して降下し、死亡したXX-1のことを口汚く罵った。
栄誉あるXXナンバーズメンバーに選抜された以上、このXX拠点全体を守る義務がある。
それを自分の妻子がいたからと言って、放棄するなど言語道断であり、自覚が足りなかったと言うのだ。
そして、残った三人のXXナンバーズメンバーに厳命した。
「地上において住民が促進者の攻撃を受けていても、そちらには向かわず、対峙している促進者の排除に集中せよ。どうせ防御など出来ないのだから」
三人のXXナンバーズメンバーはその命を受諾した。
考え方としては極めて合理的である。防御が出来ないというのはまごうことない事実である。
だが、XX-1の遺した言葉は三人の心に留め置かれた。
すなわち……
「守りたいものがあるんだっ! 他の何よりもなっ!」
三人が過度に危険な目に遭いながらも促進者との戦闘を止めなかった理由はこれだったのだ。