表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
XX-7(ダブルエクスセブン)  作者: 水渕成分


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/18

18(完結)

 (ひらく)はいろいろと試みた。


 マリアと亜里沙(ありさ)に手をかざしてみたり、息を吹きかけてみたり、その手を強く握ったり、最後には意を決して、二人の口に自らの口を付け、唾液を流し込むことまでしてみた。


 だが、全く効果はなかった。唾液の代わりに、己が指に針を刺すことで出血させ、滲み出た血液を口に含まさせることもやった。


 効果はなかった。(ひらく)は自分が「進化(エヴォリューション)」したからと言って、その活性化した細胞の力を他者に分け与えることは出来ない、その冷厳な事実を嫌と言う程、思い知らされた。


 ◇◇◇


 「進化(エヴォリューション)」して、全身の細胞が活性化した以上、脳細胞も活性化しているはずだ。


 そう考えた(ひらく)は自分の記憶のどこかに「医療知識」が眠っているのではとそれを思い出さんとした。


 思い出すことはなかった。いかに脳細胞が活性化しても知識として導入されていないことは思い出すことは出来ない。


 ◇◇◇


 それならばとマリアの部屋に行き、医療関係の書籍を読み始めた。


 確かに脳細胞は活性化したようだ。乾燥したスポンジが水を吸い込むようように脳に知識が流れ込むことが分かる。


 しかし、それでも医療分野は広い。通常は学生は六年間かけて勉強し、その上で実体験を多く積む。すぐに瀕死の者を救える知識や技術が身に付く訳がなかった。


 ◇◇◇


 (仕方がない。出来たら使いたくなかった手だけど……)

 (ひらく)は大きく息を吸い込むと、声を張り上げた。


 「ドクトル・ディートヘルムッ! 聞こえるかっ?」


 間を置かず答えは返ってきた。

 「聞こえているよ。XX-7(ダブルエクスセブン)


 「お望み通りOHEP(オーヘップ)に入ることにした」


 「ふむ。決心を固めたか。OHEP(わが組織)は君を歓迎する」


 「但し、入るに当たって一つ条件がある」


 「後から条件を付けるとは、好ましくない交渉の仕方だが、他ならぬ君のことだ。聞こう」


 「マリア先生と亜里沙(ありさ)。この二人の命を助けてほしい」


 「……」

 ドクトル・ディートヘルムから答えは返ってこなかった。


 「どうした。出来ないのかっ? ドクトル・ディートヘルム。おまえは生化学の博士なんだろう」

 語気を荒げる(ひらく)。だが、ドクトル・ディートヘルムは淡々としたままである。


 「……出来ない。OHEP(我々)は人類の『進化(エヴォリューション)』に対応する以外の技術は持ち合わせていない」


 「出来ないと言うなら、僕がOHEP(オーヘップ)に入るという話は無しだ」


 「……XX-7(ダブルエクスセブン)


 「何だっ?」


 「君は『進化(エヴォリューション)』した者の中でも考え方が非常に特異な存在だ。OHEP(組織)が多様性を持つために貴重な存在なのは事実だ。しかし……」


 「しかし……何だ?」


 「見くびらないでもらいたい。確かに最も多い時期に七十億人を数えた現行人類の中で『進化(エヴォリューション)』した人間はいくらもいない。しかし、僕と君だけというわけではないのだよ」


 「!」


 「従って君の無理難題に応えることは出来ない。さらばだ。XX-7(ダブルエクスセブン)


 「分かったっ! それなら僕の力だけでマリア先生と亜里沙(ありさ)を助ける」


 「好きにしたまえ。だが、最後に一つだけ忠告しておく。XX(ダブルエクス)拠点はそう遠くないうちに完全に崩壊する」


 「それがどうしたっ?」


 「インフラもなくなるということだよ。その建物にもそもそも電気が通わなくなる。水道も使えない」


 「!」


 「『進化(エヴォリューション)』した君なら生き延びられるだろう。だが、旧人でしかないその二人が生き延びられるとでも思うのか?」


 「……」


 「言うことはそれだけだ。さらばだ。XX-7(ダブルエクスセブン)


 「XX-7(ダブルエクスセブン)じゃないっ! (ひらく)だっ!」


 最後の言葉がドクトル・ディートヘルムに届いたかどうかは分からない。


 ◇◇◇

 

 やがて、ドクトル・ディートヘルムの言葉通り、病院の電灯は全て消えた。水をくみ上げるモーターも作動しないから、蛇口をひねっても最早水は出ないだろう。


 静かな中にマリアと亜里沙(ありさ)の呼吸音だけが聞こえて来た。


 「進化(エヴォリューション)」により夜目が利く(ひらく)はマリアの額に触れてみた。


 火傷をするのではないかと思うくらい熱かった。


 しかし、今の(自分)には何も出来ない。


 「くっそうっ!」

 (ひらく)のその叫びは真っ暗な病院中にただただ響き渡った。




 




 

 


最後までお読みいただきありがとうございました。


挿絵(By みてみん)

イラストレーション 砂臥環様


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

バナー 砂礫零様



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 味方となる女性陣の芯の強さ 絶望感の中にも、主人公を含めて最後まで現行人類としての良心や尊厳を大切にしたところが良かったです。
[良い点] 読破しました! いや~、好みのお話でしたよ。 私、重いとかキツイ話大好きなんで^^ 最後は読者に委ねるということですが、個人的には絶望と憎悪から新人類を一人で根絶やしにして自らも命を絶つ…
[一言] 完走おつかれさまでした。面白かったです。 またこういうのを書いてください。待っています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ