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「当たり前だ。啓みたいな引きこもりが汚い手を使わずに、XXナンバーズメンバーになんかなるわけがねえっ!」
「……分かった。そこまで言うなら」
「なっ、なんだっ?」
「僕が使った『汚い手』とやらを丈志にも使わせてやるよ」
啓はそう言うが早いか、丈志を右腕に抱え込んだ。
「てっ、てめえっ、何しやがるっ! 放せっ!」
丈志は暴れたが、今の啓の行動には何の影響ももたらさなかった。
「どうやってXXナンバーズメンバーになったか、これから教えてやるよ」
「まっ、待てっ! おまえ、何する気だっ?」
啓はその質問には答えず、丈志を抱え込んだまま飛翔した。
◇◇◇
「この辺だな」
丈志を抱え、中空に浮かびながら啓は呟いた。
「この辺って、何がだっ!」
丈志は怒鳴るが、やはり啓は動じない。
「病院から飛翔して出撃する時の高さだ。ここから更に上空に飛翔したら、XXナンバーズメンバーに入ることになった」
「ばっ、馬鹿っ! 何言ってやがる。そんなこと出来る訳がねえっ!」
「XXナンバーズメンバーは全員が一度は出来た。丈志の望み通りの『汚い手』だ」
「……何を言ってるんだ。地上に下ろ……」
次の瞬間、啓は丈志を抱え込んでいた手を放した。
丈志は一瞬だけ宙に浮いたが、直ぐに落下した。
何秒後かに地上との激突音がしたが、啓は今更振り返ることはしなかった。
(亜里沙が心配だ。すぐに戻らなくては)
啓の頭の中はもうそのことでいっぱいだった。
◇◇◇
亜里沙の状態は酷いままだった。
着衣は大きくはだけていた。啓は一瞬目を逸らしたが、そんなことを考えている場合ではないと自分に言い聞かせ、もう一度、亜里沙の方を向き直した。
白目を剥き、口を大きく開け、ヒューヒューと呼吸している。
生きてはいるようだが、明らかに意識はない。
首の周りに絞められたような形跡がある。性的に異常な志向を持つ者は相手の首を絞めて、より一層の興奮を求める者もいる。啓も知識としては持っていた。もはや生きてはいないだろう丈志への憎悪は更に募った。
(どうする?)
啓は焦燥した。
進化したとはいえ、医療知識が全くと言っていいほどない啓には何も出来ない。
(……病院に連れて行こう)
病院に連れ帰ってもマリアが回復している見込みは薄い。でも、何か助言が得られる可能性はゼロではない。その僅かな可能性に縋って……
啓は亜里沙をその両腕に大事に抱え、飛翔した。
◇◇◇
XX拠点も酷い状態だった。
丈志は食料品店から略奪する者を「大馬鹿野郎」と呼んだが、もっと酷いことに貴金属店を襲っている者たちもいた。
(今、貴金属を手にして何になると言うのだ)
だが、それはまだいい方だった。
促進者は従来通り「進化への促進」という名の実質「現行人類への殺戮行為」を淡々と遂行している。
ただ、促進者の行為は「測量」を伴うこともあり、速度的にはそう速くもない。
それより遥かに速く行われたのは「事態に絶望した現行人類が同じ現行人類に対して行う殺戮行為」であった。
「近代市民社会」が高度に組織化、効率化するに伴い、定着していった「規範」。
何らかの形で「近代市民社会」が崩壊すれば、「規範」も歪な形で消えてなくなる。
そうなれば「人」は飢えた時に共喰いする、生命の危機を感じた時、強引な性行為に走る獣と変わらなくなる。
「現行人類は君が思っている以上に愚かだ。すぐにそのことを思い知るだろう」
ドクトル・ディートヘルムは別れ際に言った言葉が啓の脳内を何度もこだました。
◇◇◇
絶望的な光景を嫌と言う程見せつけられて、戻って来た病院。
そこではマリアが荒い息をしたまま、横たわっていた。
意識を失ったままらしい。
啓は亜里沙をマリアの横たわる、隣の寝台に寝せると、ボサボサの髪の毛をかきむしった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回で完結します。




