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ドアを開けた先に広がっていた光景はあまりにも衝撃的だった。
着衣を乱され、床に倒されているマリア。
しかも頭部から血が流れている。
それに馬乗りになっている司令。
十五歳でしかないXX-7、啓にも何が起こっていたか、すぐに分かった。
「性的暴行」である。
脇に放り出されている布。それにクロロホルムを染み込ませ、性的暴行をしようとした。
ところが途中でマリアが目を覚まし、抵抗したため、銃でマリアの頭部を撃った。
そこまですぐに分かってしまったのだ。
◇◇◇
司令は啓を見ると、一瞬、ひどく驚いた顔をしたが、すぐに怒鳴りだした。
「マリアッ! どういうことだっ! これはっ! おまえの話だとXX-7は昏睡状態で促進者対応に出動出来ないはずではないかっ! 見たところピンピンしてるぞっ!」
「……啓くん。元気になったんだ……よかった……」
マリアは司令に馬乗りにされたまま、啓の方を向くと、弱々しく言った。
啓はその言葉を聞くとゆっくりと二人の方に歩き出した。
顔色はいつもに増して悪く、眼光は鋭く、ボサボサの髪は逆立っていた。
◇◇◇
「貴様っ! 何をしているかっ? 怪我が治ったというのなら、とっとと促進者を殺しに行けっ! これは命令だっ!」
ゆっくりと近づいてくる啓に司令は焦燥した。
だが、啓は歩みを止めず、やがて、静かに口を開いた。
「司令。あなたは何をしていたのです?」
「ふっ、ふんっ!」
司令は啓から目を逸らすと言った。
「お前らが悪いんだ。XX-7が出動出来ないというのなら、XX拠点はおしまいだ。全員が死ぬ。そうなる前にわしの言うことに逆らう生意気なマリアを犯っておこうとしたまでだ」
「……」
啓はなおも歩みを止めない。
「僕が昏睡していたのは事実です。そして、怪我が一気に治癒したのは『進化』したから……」
「!」
その言葉に司令は立ち上がり、マリアから離れる。
「XX-7。おまえっ、『進化』したのかっ? どうやったら『進化』したんだ? 教えろっ! これは命令だっ!」
「……促進者に促進されて、『適者生存』に該当すれば『進化』します」
「……何を言っているのか分からん。実際にやって、わしを『進化』させろっ!」
「御命令に従いましょう」
啓はつかつかと司令に歩み寄ると右腕一本で抱え込んだ。
「! 貴様っ! 何をするかっ!」
「司令の御命令に従い、司令が促進者に促進されるようにするのですよ」
啓は司令を右腕に抱え込んだまま、その部屋の窓から外に向かって飛翔した。
◇◇◇
「貴様っ! 何をするっ! さっさとわしを地上に戻さぬかっ」
「御命令に従いましょう」
啓は司令とともに地上に降り立った。何体もの促進者が現行人類に対して促進している、現行人類からすると殺戮が行われている現場に。
「なっ、待てっ! 貴様っ! ここは一体?」
「御命令とおり、促進者が促進する現場にお連れしました」
「何を言ってるんだっ! 貴様っ!」
たちどころに司令を取り囲む三体の促進者。
一方で啓には見向きもしない。既に「進化」していて、促進する必要のない者には全く関心がないのだろう。
「何をしているっ! XX-7。促進者を倒さんかっ!」
「僕が促進者を倒してしまえば、司令は『進化』出来なくなります。従って、その命令には従えません。では、僕はこれで」
啓はそのまま飛翔し、何処かへと去って行った。
唖然とする司令を三体の促進者はしばらく「測量」していたが、やがて、一体が斬りかかり、司令の右肘から下を落とした。
「え? 何だ? わしの右手がない……」
今度は反対側から別の一体の促進者が後方から斬りつけ、司令の左膝の下を落とした。
「え? うぐおっ!」
たまらず転倒する司令。最後の一体の促進者は動かずに「測量」を続けている。
マリアを残して来た病院へ急いで戻りながら啓は思った。
(ドクトル・ディートヘルムは司令を旧人だと言った。「適者生存」には該当しないのだろう。いや、そんなことはどうでもいい。マリア先生が心配だ)




