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残虐で救いのない描写が多いです。
ご注意ください。
グオオオオオオー
警告音が鳴り響く。
(馬鹿な)
女性医師マリアはその耳を疑った。
(前回の襲来から半日も経ってないじゃないか)
マリアのその気持ちを逆なでするかのようにスピーカーから苛立った声が続いた。
「警報。促進者五体襲来。XXナンバーズに出動命令」
思わずマリアは怒鳴り返す。
「何がXXナンバーズだ。もう一人しか残ってないじゃないかっ!」
スピーカーの声も怒鳴り声になる。
「繰り返す。XXナンバーズに出動命令。抗命はこれを許さないっ!」
憮然とした顔でただ一人残ったXXナンバーズメンバー、XX-7の啓の病室に向かうマリア。
(駄目だ。今度という今度は駄目だ。啓君一人に促進者五体。勝てる訳がない。啓君が殺されれば、この拠点もおしまいだ。どうせそうなるなら、いっそ啓君だけでも逃がして……)
しかし、病室のドアはマリアが開く前に開き、眼前には包帯にギブスを着けたままの十五歳の少年啓が姿を現した。
「啓君」
思わず声が出るマリア。
「マリア先生。出動命令ですね。行ってきます」
啓はそれだけ言うと、ゆっくりと今いるこの階、五階にある出口に歩を進めた。
「待って」
マリアが声をかける。
「負傷はまるで治癒していない。累積疲労も酷いもの。啓君以外の六人のナンバーズは全員が死んでしまったから一人で戦わなければならない。しかも促進者は五体。これで……」
マリアは声を詰まらせた。
「これで勝てる訳ないじゃないっ!」
「……」
啓はマリアに背を向けたまま小さな声を出した。
「勝てるだなんて思ってないですよ」
「!」
絶句するマリアをよそに啓はやはり背を向けたまま続けた。
「だから、マリア先生は僕が出動する前に拠点から逃げてください。運が良ければ……命が助かるかもしれない。それも一時的かもしれないけど……」
マリアはなおも絶句していたが、啓はゆっくりとした出口への歩みを再開した。
「啓君」
我に返ったマリアがもう一度その言葉を発した時、もう彼女の眼に啓は映っていなかった。
既に出口のそばまで行ってしまったのだろう。
◇◇◇
啓が近づくと五階の出口のシャッターが自動的に上がる。
この拠点の電磁バリアを突き破り、上空から侵入する促進者を迅速に迎撃出来るように高層階から出撃するようになっているのだ。
啓は大きく深呼吸して、ギプスを外し、飛翔のための跳躍の準備に入る。
啓は飛翔のための装備などは何一つ身につけていない。
また、啓は飛翔のための能力を鍛錬で身につけたこともない。
今まで幾度となく繰り広げられた促進者との戦闘の際に飛翔できなかったことはなかった。
それだけが飛翔出来るのではないかという根拠だ。
逆に、その根拠が如何に薄弱であるかは、かつてXXナンバーズのXX-5が、それまで飛翔出来ていたのに、何の前兆もなく、ある日突然ここの出口から墜落死したことが如実に示している。
この「墜落死事件」に拠点の司令は激怒した。
飛翔出来なかったのはXXナンバーズの精神が弛んでいるからだと言うのである。
当の司令は飛翔も促進者との戦闘も一切出来ないのだが、そんなことは彼の怒りには全く関係がなかった。
それでも、危険を考慮し、XXナンバーズの跳躍は地面からすることにいったん改められはした。
しかし、それもXX-2が地面から跳躍し、飛翔に成功したにもかかわらず、上昇過程で失速し、墜落死するという事件が発生。
どうせ墜落死する可能性があるなら、五階から跳躍、飛翔させた方が促進者を迅速に迎撃出来る分、ましだということになり、元に戻された。
◇◇◇
XX-7の啓は跳躍のため、屈みこんだ。
ギプスを外した左腕と左足に激痛が走る。
だが、彼は五階の出口から跳躍した。
そして、飛翔した。
拠点の電磁バリアを突き破り、上空から侵入してきた促進者を迎撃するため、飛翔した。
いつ失速し、墜落死するか誰にも分からない飛翔をした。
かなりキツイ作品ですが、感想もらえますと、次を書く勇気が湧きます。
興味関心を得られた方はお願いします。