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第7話 流転

 身を砕くほどの痛みが嘘のように消えている。

 先程まで体も心も引き裂くような痛みや悲しみも、ゲームのようにリセットされている。


 そりゃ、依存するよね。


 ゲームに落ちた意識が覚醒すれば、もう現実の辛さと向き合わなくていい。

 いつものようにいせいしゃを起動すれば、後は没頭するだけだ。

 それでも、さすがに、雅人とのやり取りが、頭から離れない。

 序盤は意識をしなくても体が勝手に動く。

 そのせいで余計に雅人のことを考えてしまう。

 僕が死ねば、彼は傷つく。

 彼の気持ちを知っていながら、その気持ちに答えることもないくせに、死んだあとのことまで任せる。

 自分はなんという酷いことをするのだろう……

 それでも、彼は、それをしたいと言ってくれた。

 僕なんかのために、何でもしてくれると言ってくれた。

 そして、最後の時まで、いや、最後を迎えた後も彼は僕との約束を守ってくれるだろう。


 幸せになって欲しい。


 それは、心から、心の底からの本心だ。


 それと同時に、こうも思う。


 彼のそばで、一緒に幸せになりたかった。

 でも、僕にそう願う資格はない。

 彼のことは愛している。

 その気持に嘘はない。

 それでも、僕の心の一番深い場所には、師匠がいる。

 それは、決して偽ることが出来ない僕の本心でも有り、僕の全てでも有る。


「死者には決して勝てない。

 それでも、別の人のことを愛していてもいい!

 それでも、その君でも俺は、好きになったんだ……

 愛しているんだ!」


 彼の言葉は、すっかり変わってしまった僕の身体、なくしてしまった熱い心を支えてくれた。

 応えることは出来なかったけど、本当に、僕なんかには過ぎた、素敵な言葉だった。

 幾度も悩んだけど、もし、僕が応えてしまえば、貴方は一生縛られて生きることになってしまう。僕が死んだ後も……

 僕と、同じことを、貴方にはして欲しくなかった。


 どうか、わがままな僕を許して欲しい。

 そして、貴方にこれから先の人生、幸せを与えてくれる人と出会って欲しいと心から願う。


 まるで走馬灯のように、色々な考えが頭をめぐる。

 感覚が無いはずの身体が、熱を帯びていくような気がする。

 不思議とゲームは絶好調。

 次々とミッションをクリアしていく。

 

「なんだろ……これ……」


 あの子を救ったときのように、まるで世界がスローモーションになったような、そんな感覚。

 症例を診て、あたりをつけて、検査をして、確認したら迷うこと無く処置をする。


 ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリアミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリアミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリアミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリアミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリアミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリアミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリアミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリアミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア……


 私的な思考が薄れて、目の前の症例に集中していく。

 診断思考は精度を高めていく。

 検査前診断の精度がドンドンと上がっていく、症状からの鑑別診断が頭の中で高速で明滅し、正解にたどり着く。

 根拠に基づく医療の理想が、この状態の自分の中で羽を広げている。

 未知の生物であろうが、蓄積された知識、経験から正しい診断を掴み取る。


ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリアミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリアミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリアミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリアミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリアミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリアミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリアミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリアミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア、ネクストミッション、ミッションクリア……


 気がつけば、巨大な存在を前にしていた。


 ラストミッション 世界を癒せ


 死霊、精霊、魂魄の病気、というのもおかしな話だが、そう有るべき姿からずれてしまった異常、それはその存在を危ぶませる。そういったものを修正し治す事によって、存在を取り戻させるような治療も行ってきたが、とうとう世界を癒せときたもんだ。

 そんなことより……


「ラストミッション」


 目が輝く、ついにたどり着いた。

 思ったより心は動かないが、身体は熱を帯びている。

 目の前にきっとある存在に対して、魔力を用いてまずは診察をしていく。

 視診、聴診、触診、すべての感覚を総動員して、そのナニカの状態を知っていく。

 本来あるであろう状態を想像する。

 膨大な存在を知覚し、理解するためには、その存在全体に自分の触覚を広げなければいけない。

 膨大な魔力を使用していく。

 めちゃくちゃだと思う。

 世界に自分の存在を広げるほどの魔力。

 そんな物を持つとすれば、それは世界を造る神にも等しいのではないか?

 ゲームでレベルという概念をもたせているが、ふと気がつけば、レベルもカンストしている。

 恐ろしい桁数のパラメーターの化け物になっている。

 無限とも言える素材も保有している。

 あとは、この世界の概念を理解し、異常を把握し、正常に戻すための完成や知性、そして技術をプレイヤーが保有しているかが、このラストミッションの成否に関係するのだろう。

 そして、僕は今、その資格を有しているんだろう。


「わかる」


 その歪み、そして、治療への手立てが、わかることがその資格なのだろう。

 

 なるほど世界は歪んでいる。

 このままではこの世界は崩れて無くなってしまう。

 世界を作り出す様々な場所が歪んでいる。

 この歪みを各所で治すしかない。

 世界という膨大な範囲に存在する無数の病巣を治療することが、この世界を救う唯一の方法だ。

 そのために、どうすればいいのか、僕は理解している。

 世界に僕が広がっていく。

 過去、現代、未来、世界のあちこちに生まれる病巣を、治す。

 それが、僕の役割だ。


 光が広がっていく。

 世界に、病巣に、僕が広がっていく……

  

毎週金曜日の午後18時に投稿していきます。

よろしくお願いいたします。


もし、次が来るまでお暇でしたら、他の作品もお楽しみいただけると幸いです。

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