第53話 偽装
「手前の谷に落ちたりしないよね?」
「わざとらしく丘状にしておりますから……流石にプロの斥候なら問題はないかと」
「むしろ魔物が外に出ないようにするのが大変だったブー」
「魔石による聖属性結界を展開した上でそれを隠匿魔法で隠すなんて無茶をする羽目になったニャー」
「全く、うちに魔力おばけがいなかったらどうなっていたか……」
「僕のことひどい名前で呼んだよね?」
「主のおかげであの一体は死の森を再現できておりますから」
「なんか、褒められた気がしない字面だなぁ……」
「ダミー村からも連絡はないブー」
「そろそろなはずなんだけどね……」
僕のつぶやきと同時くらいに伝令が室内に入ってきた。
王国の使いが外に作った村へやってきたそうだ。
そして、伝聞とあまりにかけ離れたただの辺境の村で大層お怒りだそうだ。
一応ダミー用として美味しい果実と川魚を油を多く含む木の実から出た油で揚げるという珍しい調理を見せて、この美味しさで吹聴したってストーリーに嵌め込んだ。
販売路に乗せるほどの数は確保できないために、ここでのみ体験できるということになっている。
そして、ここから先の谷を超えると非常に危険な魔物が闊歩する森が広がっているから近くのものは近づかないという、まるで古くから伝わってきた伝承のように話してくれているはずだ。
「辺境を見捨ててロクに調査もしないくせに、少しでも利益になりそうだとハイエナのようにちかづいてくるんだから、本当に王都の権力者たちは本当にどうしようもありません……」
ガーレウスさんがため息をついている。
その後、村人の制止も聞かずに仮設死の森に入った調査隊は全滅寸前に脱出し、王都へと逃げ帰っていった。
「実際には全滅されるとめんどくさいんで手助けしたんだけどニャー」
「でもこれでしばらくはちょっかい出されなくて済みそうね」
「だといいんだけど、ていうかそうじゃないと困る! 僕たちは北を目指さないと!」
「相談なんだけど、次の調査は冬前から出発はどうだろうブー?」
「あの雪山に冬に挑むの?」
「ちょっと調べんたんだけど、あそこの周囲は春だろうが夏だろうが冬だろうが何も変わらないブー。だったら、冬に出たほうが装備を付け替えたりする手間も省けるし、冬の間なら王国も大規模な動きはできないブー」
「確かに、スサノオの言うとおりですね」
「なるほど、よく考えれば確かに……先入観で寒いところには暑い時期にアタックするっておもいこんでいたや」
「あるエリアから突然厳冬になる場所なんてそうそうあったらたまらないのニャ」
「寒さは本当に危険だからね、一瞬で命を落とすから」
「素材の厳選から構造の構築までやれるだけのことをやって現状最高の対策をしてあるブー」
「技術転用で冬の生活もかなり快適になるとおもうわ」
「戦い用の技術が生活に生かされていくのはこっちの世界でも一緒なんだなぁ」
「研究なんて生活が安定していなければ出来ないから、安定をくれた事に本当に感謝してるわ」
「さすがは主様であります」
「いやいや、どう考えたって皆が頑張ったからでしょ」
どうにもうちの子達は僕を過剰に持ち上げようとすることがあるからなぁ……
「コレでしばらくは時間稼ぎできるだろうし、その間にできることをやっていこう」
「そうだブー」
「主様の御心のままに」
「よーし、じゃあまずはバリバリ戦闘訓練頑張ろうか!」
僕の言葉に空気が凍ったようなきがするけど、気にしないで訓練場へと足を向ける。
後ろについてくる皆の足取りがすっごく重いような気がするけど、これは必要なことだから仕方がない。僕も皆も強大な敵との戦いを勝ち続けなければいけないんだから……
その日は少し気合を入れて戦闘訓練を行い、外傷の治療にも力が入った。
毎日の生活の中で、重症な症例が生まれることがある。
特に出産関連では緊急で夜中だろうがすぐに処置しなければいけないこともある。
「出ないね、すぐに帝王切開にするよ」
「せ、先生妻は大丈夫ですか?」
「出産は命がけです、あなたも祈ってください!」
緊急帝王切開。
母体と胎児の安全を確保しながらできる限り素早く処置を行わなければいけない。
特に重要なのが麻酔管理だ。この世界の不思議アイテムを組み合わせることによって、できる限り一つの薬品の濃度を低くすることによって胎児への影響を下げてあげる。
もともと母親の身体と子供の体の間には、子供を守るための仕組みが存在している。
母親の身体は子供を生み育てるために自分の身体を変化させ、全ては子供のために身体を作り変えていくのだ、それには感動を覚える。
傷はできる限り小さく、それでいて胎児に負担をかけない大きさにする。
素早く上皮、腹壁、子宮壁にメスを走らせ、胎児にアプローチする。臍帯を処理し、看護師へと胎児を渡す。胎児は看護師の手によって呼吸を刺激され、しばらくすると元気な産声をあげる。
「早くママにあの声を聞かせえてあげないとね……ん……これ……ごめんなさい、旦那さんを呼んでください!!」
手術室に緊張が走る。




