第49話 商人
草原に残る雪も少なくなり、日差しも柔らかく暖かくなってきた頃、その人達はやってきた。
「これはこれはお久しぶりですガーレウス様」
数台の馬車を引き連れて現れた男性は人当たりの良さそうな少し恰幅のいい初老の男性。
過度に誇るような贅沢さはないけど、全体として上品さを感じさせる装いと、それを包み込んで人に警戒心を与えない表情素振り、コレが商人としての立ち振舞かぁと感心してしまう。
「お久しぶりですマチルトン殿、それと、私はもうシルバーウルフ家とは関係ありませんので、様はいりません」
「ふむ、それでもガーレウス様とは長いおつきあい、そして、これからも……、早速ですが、あの剣はどうされたのですか?」
表情は笑顔のままなんだけど、キラリと眼光が鋭くなる。
「さすがはマチルトン殿話が早い。まずは紹介したい人がいるのです、こちらが今お世話になってるこの街の領主ハヤテ=ミナヅキ様です。そして、あの剣はハヤテ様のお仲間が作ったものです」
「おお、これはこれは、はじめましてミナヅキ様。私は商人をしておりますマチルトン=ライエン、どうかマチルトンとお呼びください」
僕と挨拶をしながらもその瞳は僕がどんな人物であるのかを目利きしているようだ。
「はじめまして、遠路はるばるこのような場所まで来ていただきありがとうございます。
積もる話もありますが、とりあえずは落ち着いた場所へいきましょう。
それと、遠方に待機されている方々もよろしかったらご一緒にいかがですか?」
「……ガーレウス様もお人が悪い、只者ではいらっしゃらないようですね」
うひー、怖い怖い。笑っているんだけど、明らかに雰囲気が変わった。
「あの者たちは後に紹介いたします。お心遣いは感謝しますが、ひと目に晒せない商品もございますので……」
「さぁさぁマチルトン殿、こちらへどうぞ」
こうして会談の場所を僕たちの拠点へと移動する。
「それにしても、驚きました。この地にコレほどの都市が出来ているとは……。
いや、これは、失礼なもの言いかもしれませんが、異常ですね」
「お気持ちはわかります。私もはじめはそう思いました」
「あの剣を見て、手紙の中のおとぎ話のような話を信じてよかったと今確信しています」
「マチルトン殿であればあの剣の価値がわかると信じておりました。
いろいろとミーグ様のことでお世話になっていたので、なんとかして恩をお返しできればと考えておりましたので」
「襲われて消息を絶ったと聞いたときから、ずっと負い目を感じていました……
あの手紙をレオル様が持参しなければ信用するつもりはありませんでしたから」
「捨てる神あれば拾う神あり、こうしてハヤテ様と縁を結び、今があるということです。
足場も固まりましたので、マチルトン殿にご連絡することにしたのです」
「ふふふふ、私の商人としての勘が大騒ぎしています。
ハヤテ様とは、すえながーーーーーく、お付き合いをしろと……」
「ふっふっふ、そうですか……」
横から見ていると完全にこの二人は悪代官と越後屋なんだけど、本人の横でそういう話をするもんなんだろうか……?
「は、ははは、よ、よろしくお願いします」
目が怖い……
営業スマイルで対応しておこう。
場所を拠点の応接間へと移す。
「……これは、まさか、室温を調整しているのですか?」
凄いな、部屋に入って軽く部屋を観察してすぐその事実に気がついた。
「はい、今日はいい天気ですがまだ少し肌寒いですし、それにしても、よくわかりましたね」
「これでも商人、一応の目端は効く方なんです。この部屋には火の気配を感じませんが、なんとも過ごしやすい……照明も……魔道具、しかも、なんだこの精巧な……」
「まぁまぁマチルトン殿、積もる話はこちらでゆっくりと、ハヤテ様、よろしいですよね?」
「もちろんです、そのためにご足労いただいたわけですから」
「わかりました。改めまして私はマチルトン=ライエンと申します。
皆様今後ともよろしくお願いします」
僕の後ろに立つアマテラス、スサノオ、ツクヨミ、タマモ、(ククノチ)にも丁寧に礼をしてから席に着く。その所作がとても綺麗で感心してしまう。
「今回はガーレウス様の紹介でうちの商会の商品をお求めということでしたが、当商会の商品は誰にでもお売りするというものではありません。私がこの目で判断したお客様とのみ商いをする。
それが我がライエン商会がここまでこれた理由だと自負しております」
「はい、無理を言っているのはこちらですから、商会側の決まり事を違えるような無理は強いません」
背後から(ハヤテってこんな喋り方出来るんだね)とか(主がちゃんと話してる)などと失礼な小声が聞こえてくる。
ゴホン!
軽く咳払いをすると小声が止む。失礼だな、これでもちゃんと仕事をしていた社会人だぞ。
「失礼、ですので、ぜひ我々の街、そしてわたくしの人となりを見ていただき判断していただければ幸いです」
「そうですか、私としては、すでに心が決まっているのですが、お言葉に甘えてぜひこの街を案内していただきたいです!」
「ええ、喜んで。各部署の担当者を紹介しますね……」
アマテラスたちを紹介してから、マチルトンさんと共に街を案内することになるのでありました。




