第46話 腐臭
巨大な火柱が魔熊を包み込み燃え上がる。
天まで伸びる火柱から熱波が周囲に広がるが、僕たちには僕の魔力によるヴェールを纏わせてるのでダメージはない。
「相変わらずえげつないニャー」
「もう、やっちゃたんじゃない?」
「あ、それフラグ」
「グギャアアアアアアアアァァァァァァ!!」
怒りの咆哮とともにバアッンと爆発が起きて火柱が弾けた。
そこには一部の体表がグズグズと焼け焦げた魔熊、しかし……
「穢が広がっていく……」
「メッチャクチャ怒ってるブー」
「グアアアアアァァァァ!!」
全身を穢が包み込み、邪なる魔熊は禍々しい姿へと変化していく……
「あんまり剥ぎ取れなかったよ」
攻撃によって引き剥がした穢を浄化し魔力として取り込みたかったが、濃厚で強固な穢の塊は綱引きによってあっちに固定されてしまっている。
「がああっ!!!」
魔熊が腕を振ると穢を纏いし爪が巨大化し、爪刃が空間を切り裂き僕たちに襲いかかってくる。
地面を削り、削り取った周囲が穢れていく、瘴気が立ち上がり、周囲の環境を一変させていく。
「主殿、これはマズいのでは……?」
「まずい、タマモ、ツクヨミ、せめて周囲に結界を張ってこれ以上広げないようにするよ!!」
「わかったニャー!」「了解!」
「アマテラス、抑えるブー!」
「仕った!!」
魔熊を中心に3方に起点を設置し、更にずれて計6点に魔石を突き立てる。
「「「魔力防護陣」」」
六角形の結界が展開し、周囲と内部を隔離する。
広がっていた瘴気が結界に触れてバチバチと魔力へと還元され壁の維持に使われる仕組みだ。
「あいつには簡単に壊されちゃうから、この結界の中央に釘づける必要があるね」
「もうやってくれてるにゃー、私達も行くニャー!」
ツクヨミが鞭を鳴らす。
「あれだけ濃厚な穢を剥がすにはよほど強力な魔法や攻撃がいるわね……」
濃縮した魔力の矢をつがえながらタマモが戦場に駆ける。
「僕も、行くよっ! 穿て土槍!!」
……やっぱね、詠唱があったほうがというか、魔法をこうイメージしやすい言葉をつけると、魔法は強力になる事がわかっている……恥ずかしかったけど、仕方がない、仕方がないんだ! 楽しんでないぞ!! 楽しんでない!!
「引き裂け風牙! 焦がせ炎鎖! さらに巻き付け水鎖!」
炎で熱せられた熱湯によって皮膚が激しい火傷を起こしながら絡みつき、その脆弱になった皮膚を風の刃が切り裂いていく。魔法防御力は汚れによって跳ね上がっているので、物理的な熱傷によってダメージを与えていく。火傷は、本当に厄介なんだよ。
もちろん魔熊は普通の生物ではないので、本来なら治癒に非常に時間がかかるはずの火傷も穢が覆い隠して戦闘を継続している。普通なら体表面積の5割を越えたような熱傷なんて戦闘継続なんて不可能になるはずなのに……
「なんだか、どんどん強くなってるブー!」
「周囲の瘴気が濃くなっているニャー!!」
「カタカタカタカタカタカタ(嫌な気配が近づいてきているとククノチは伝えている)」
ぼこぉ……と地面が盛り上がる。
「死霊、地下からか……」
「ゾンビ、ぐぅ……匂いが酷い」
タマモが鼻を押さえる。たしかに、腐敗した匂いが瘴気と混じって酷いことになっている。
「結界を利用して大気を循環させるっ!! 逆巻け嵐!」
フィルターによる空気洗浄機みたいに結界で空気を濾過していく。
しかし、時すでに遅し、地面からはゾンビが次々と湧き出てくる。
「……主殿、全て焼き払えませんか……我が犬牙狼爪が……臭く……」
「やってるんだけど、瘴気の層みたいなのが……」
「諦めるブー……あとで……浄化してもらうブー……」
武器の形状的に飛び散った肉片が悪臭を放ちながら盾や武器にこびりついて、スサノオは諦めがついたようだった……
「最悪だニャ……」
鞭というものは、優れた使い手が用いると非常に強力な武器になる。相手の動きを制したり音速を超える攻撃で皮膚を切り裂く。ゾンビ相手でもその腐肉を引き裂くのだが、細かな体液が飛び散り……地獄絵図だ。
ゾンビと魔熊が暴れまわり、腐敗臭がいくらしょりしても充満し……
僕たちも敵も強力な力で守られいて、地力で勝る僕たちが少しづつ敵を削っていくという、非常に効率の悪い持久戦をする羽目になってしまった……
「も、もう限界……」
タマモが結界の外にかけていく……
「ぼ、僕も流石に……うっぷ……」
「……ニャー……」
「……」
間違いなく、一番の被害者はスサノオだ。
あらゆることを諦めた死んだ目をしながら魔熊の攻撃を防ぎ、ゾンビをぐちゃぐちゃに潰してくれている。
絶え間なく浄化し続けている瘴気から得た魔力によって結界による瘴気浄化能力も向上し、ようやく瘴気の濃度も低くなってきている。魔熊が身に纏う穢も明らかに縮小してきいる。
「狼牙咬旋斬!!」
アマテラスの斬撃が魔熊の剛腕を引きちぎる。
「もらったぁ!! 喰らえ炎咬球!」
僕の放った火球がばくんっと跳ね飛ばされた腕を飲み込み焼き尽くす。
魔熊は穢で擬似的な腕を創ろうとするが、身体をカバーしている分を削ればそれだけ装甲が薄くなり、動きもぎこちなくなっていく。
「ぶひーーーーーーー!!!! 全て潰れろーーーーーーーー!!!!!!
国落としっ! 星砕きぃぃぃぃぃぃぃ!!!!
ブヒヒ!! 潰れろ!! 潰れちまえーーーーー!!!!」
最期は、とうとうブチギレたスサノオの一撃でぺしゃんこに潰され、魔熊の驚異は去った……
周囲のゾンビたちもスサノオによって耕されていくのであった……
「……オツカレニャ」
「……魔石、残ってたわよハヤテ……」
魔熊の魔石はなかなかな大きさのものだった。
「お風呂入りたいね」
「カタカタカタカタカタカタ(ククノチは巨大な水球を創ることを勧めてきた)」
「こう? 大水球」
頭上に現れた巨大な水の塊。
「カタカタカタカタカタカタ(静謐たる万物が母、その聖なる息吹を我が前に示し、汝が子らを清め給え)」
水球が光り輝き、弾けた。
「うわあああ……」
「き、気持ちいいブー……」
「穢が消えていく」
「なんと心地よい」
霧状に広がった清められた水は僕たちの身と心と、そして大気や大地も浄化してくれるのだった……




