第38話 事情
少年は顔面蒼白、口からこぼれた一筋の血が物凄く目だって見える。
意識は完全に消失、口腔内に目立った外傷はなし、そうすると消化管からの出血、服を急いで脱がせると腹部に内出血、位置的に肝臓損傷が一番まずい、腹腔内に派手な液体貯留はない……
精細な画像診断はできない。
これだけで内蔵損傷がないことはわからない、爪を押すと色の戻りが悪い、血圧低下の兆候!
「外傷性ショックの可能性が高い、すぐにルート取ります」
タマモが素早く静脈ラインを取りやすい姿勢に支えてくれるのですぐに留置して点滴を全開で流していく。胃の内部に持続した液体貯留もなさそう、この腹部へのダメージによる一過性の出血と判断してまずは全身循環の改善を目指していく。
「主、コレを!」
破壊された馬車から簡易ベッドをアマテラスとスサノオが作り上げてくれた。
「ツクヨミが荷物を回収しに行ってくれたブー」
「生存者の様子を見てトリアージしておいて!」
「分かったブー」
皆僕が何も言わなくてもそれぞれの役目を理解して動いてくれている。
僕は僕の責務に集中できる。
顔面蒼白だった子供の顔に少し色が戻ってきた。
吐血の量は増えることはない、腹腔内の液体が増えたりもしていない。
激しくお腹を打ち付けて迷走神経反射によってショック状態になってしまったのだろうか……
大きな損傷がなくてよかった。
結局生存者は外で戦っていた二人と少年だけだった。
騎士の二人は中等度の外傷と激しい疲労、彼らが守った少年もまだ意識は戻らないが、バイタルは落ち着いている。
「あなた達は、何者ですか?」
ある程度処置が落ち着いて、まぁ、当然という疑問を投げかけられた。
アマテラスに目配せをすると落ち着いた声で話し出す。
「この近くに村がありまして、主はそこでまとめ役をしております。
今回は死の森周囲の調査に向かう途中、戦いの気配を感じて駆けつけた……ということです」
「このあたりに村があるという話は聞いたことはない、流民の村か?」
「おいっ! 恩人に失礼なことを言うな! 失礼しました。部下が無礼なことを……」
「いえ、当たらずも遠からずといったところ。
ところで、なぜこのような場所に身分高き方が?」
若い騎士が静かに剣に手をかける。
うーん、失敗したかな……
「答えなくても全然いいです! すみません、詮索はお互いない方向で……」
上司の騎士がじっと僕の目を見つめてくる。
いや、ちょっとイケオジの熱い視線は来るものがあるんだが……
そして、短く息を吐き話し始める。
「私の名はガーレウス、私の部下はレオル、そしてそちらのお方は我々の主であるミーグ=シルバーウルフ様です」
家名があるってことは、多分貴族なんだろう。
「申し遅れました。僕はハヤテ、ハヤテ=ミナヅキ。彼らは僕の……仲間、アマテラス、タマモ、ツクヨミ、スサノオと……ククノチです」
「カタカタカタカタカタカタ(ククノチはよろしくと言っている)」
ガーレウスさんは僕が名字を名乗ったことと、普通の人にはゴーレムに見えるククノチを見て少し考える素振りを見せる。
ゴーレムというのは高位の魔道具技師が創ることができるもので、ククノチほどの小型なものは、多分世界のどこにも存在しない。つまり、とんでもない技術を持った魔道具技師によって作られたものと、誤解される。
「失礼ですが、家名に聞き馴染みがありません。どこか遠方の……」
「主様は、世界を巡る使命を追っている。詳しくは話せません」
「失礼しました……ハヤテ殿、厚かましい申し出とは思いますが、坊ちゃまを、ミーグ様を村に迎え入れることは出来ませぬか?」
「……貴族様が、なぜこんな果の村に?」
流石に聞かないわけにはいかない。
「ご覧の通り、坊ちゃまは翼人……
お館様は……亜人排他主義の急先鋒、ミーグ様の存在は、政敵からの格好の攻撃材料となります。
坊ちゃまは先の奥様に生き写し、なんとか離れで生活を共にしてきました。
本当にご聰明で、この背の先祖返りさえなければ、それは素晴らしい名君になられたはずが……
ついにその存在が外に漏れ、実の父親とその後妻、翼人を産んだと殺された奥様メルエール様を貶めた、ベルエッタによって命を狙われ、坊ちゃまを慕う数名と逃げ出したのであります。
追手がつきにくい死の森へ続く山脈を走っていたら、魔物に襲われて……」
「そして僕らが通りがかったと」
「できればウイエント公国までたどり着くつもりだったのですが……」
「とりあえず、治療もまだかかるので、一旦村へ招待しますよ。
それでいいよね皆?」
皆頷いてくれる。
「とりあえず、馬車を創ろうか」
ガーレウスさんとレオルさんは首を傾げていたけど、周囲の木々を切り倒し、ささっと馬車を作り上げ終わる頃には口を開いてまるで餌をまつ鯉のようになっていた。
もともと使っていた馬車の素材も使わせてもらったけど、病人は僕たち特製の車に乗せていく。
「魔法動力で、こんな、巨大な物が……?」
「は、ハヤテ殿は何者なのですか!?」
最初は訝しげに僕を探っていたレオルさんも、僕たちのやることなすことに驚き、ついには敬意を持った態度になってくれた。
「医療の知識がある、好奇心旺盛なただの女の子ですよ」
「「え!? 女性!?」」
そこかぁ……




