第37話 気配
早々に帰還したことによって村人たちはちょっと困惑していた。
「だから調査だって言ったじゃないですか」
「なんにせよ、無事のご帰還お慶び申し上げます!」
帰宅途中に狩ってきた獲物を見るとくるっと手をひっくり返してきたけども、年単位を考えていたら二週間くらいで戻ってきたんだから、仕方ないね。
村の発展はできる限りは村人たちに任せて、僕たちは雪上車の開発に追われた。
「とにかく、今まで以上の大量の資材が欲しいから、死の森方面に開発の手を伸ばそう。
あの巨大山脈に眠る資材と、森の強力な魔物の素材が欲しい。
とりあえず、直線で森へとアクセスできるルートを作ろう。
もちろん、森の魔物が外に問題を起こすようなことのないように」
「カタカタカタカタカタカタ(ククノチはすでに森は守護樹の加護下になっているので、その危険性は少ないと伝えている)」
「おお、それは朗報。なら早速ルート開拓に行こう!」
死の森を囲う山脈へ向かって道を整備する。雪上車の開発に伴い、大型の車両試作機のテストにちょうどいい。魔法による地盤改良と加工技術はずいぶんと向上した。
凹凸のないまるでアスファルトのような道路もあっという間に作れる。
ここらへんは科学技術よりも魔法技術のほうが上だね。
魔法による形態変化は魔力の供給を断つと崩れてしまうが、そこに物理的な変化、例えば熱による変化を加えておけば、魔力供給が無くなっても科学的な変化は持続する。
魔法と科学の合成によって、現代科学よりも優れたことが可能になる。
「名付けて魔法科学!」
「そのままだニャ!」
「わかりやすくていいんじゃない?」
タマモはこの魔法科学にとても高い興味を示している。
だいたいスサノオがつきあわされている。
タマモが僕の話を聞いて理論構築して、それに必要な道具をスサノオが作らされて実証して、改善点を僕たちと議論する。こういった手順で様々な方法が生み出されている。
魔道具などもそうだし、何かを成し遂げるための手順のマニュアル的なものも多く生み出されている。現在行われている超高速舗装道路づくりもマニュアル化されているために魔法構築にも無駄がない。きちんとした工程が固まっている魔法は効率が非常に良い。魔力発現、威力、魔力消費などが効率化されている。僕のでたらめな魔力に浮かれることなくそういった物を追求するタマモには頭があがらない。
「ハヤテは自分の専門的なことには驚くほど効率的なんだけど、興味が薄いととたんにポンコツになる」
タマモからよく言われる。
その通りなので何も言えない。
「しかし、地平線が見えるほどの草原に一本きれいな道があるって風景は、いいね!」
ある程度進んで振り返り、その風景に心動かされた。
青空と緑の絨毯に伸びる一本の茶。絵画のようなその光景は美しい。
「村を囲う巨大な壁は無くして正解でしたね」
「あれはあれで味があるけど、今の堀式のほうが周囲とのバランスはいいね。
ガッチガチの城塞都市もいずれは作ってみたいなぁ」
「主ならいずれ巨大都市を治めることになります!」
「治めるとかはめんどくさいなぁ……」
「ハヤテは皆と一緒に動いてる方が似合うニャ」
「確かにそうだブー」
「僕もそう思う。今だってアマテラスとかが仕切ってるようなもんだし、頼りにしてるよ」
「もったいないお言葉!」
「押し付けられていることに気がついたほうがいいにゃ」
「いいんじゃない? 本人は嬉しそうだし」
「カタカタカタカタカタ(ククノチが異変を伝えている)」
「どうしたのククノチ?」
「カタカタカタカタ(ククノチは少し離れた方角を指し示している)」
「……ハヤテ、戦いの気配があるわ」
「うー、僕はわからないや、でも、行こう! 一旦荷物は放置で!」
タマモしか感じ取れないほど離れていると、今持っている車や荷物は邪魔になる。
僕たちは身体を強化し草原を駆けた。
「……捉えた! 跳ぶよ!」
自分でも争いの気配を察知して、正確な距離を把握できたので全員を近くに飛ばす。
魔法によって射出する。
空高く打ち上げられ、周囲が一望できる。
かなりの速度が出ているが、もう慣れたもので周囲の風景を楽しむぐらいの余裕がある。
「アマテラス、見える?」
「はい、小型の虫のような魔物と人間が戦っています。
戦いというよりは、虫に遊ばれている感じですね……」
「着地と同時に戦闘態勢、相手は飛んでいるから逃がすと厄介だから散開して周囲から一気に虚をつくのがいいと思うブー」
「それでいこう!」
着地寸前に逆風を起こし静かに現場近くに到着し、すぐに散開、戦いの場を5方から一気に強襲する!
小型と言っても1mくらいはある……直立したトンボのような魔物が人間の周囲を飛び回り時折切りつけている。6本の手足の一番前が鎌のようになっている。
戦っている人間は2名、破壊された馬車を守るように立ち回っているが、トンボ虫の速さに全くついていけていない。
「風弾!!」
「水弾!!」
タマモとツクヨミが飛び上がり虫たちの頭上から魔法で叩き落とす。
「土鎖!」
地面に叩きつけられた瞬間に槌による鎖で僕が捕縛する。
「ふっ!!」
「ふんぬっ!!」
アマテラスとスサノオが動けなくなった虫たちの首を一刀のもとに落とした。
奇襲は大成功。
「虫だからきちんと死んだの確認してね! 大丈夫ですか!?」
「な、何が起きた……?」
「た、助かったのか?」
「すみません、襲われていたのを見つけて助けに来ました」
「あ、ありがたい……、ぼ、坊ちゃまは!?」
「坊ちゃま!! なんてことだ……」
二人はそれなりにちゃんとした装備をしている。揃いの装備に盾には紋章もあることから騎士的な身分なことがうかがえる。
中年の渋いおじさまと若い男性、その若いほうが馬車の扉を開けて中から人を抱いて地面に寝かせている。
小学生くらいの子供だが……背中には美しい羽が生えている。天使……?
「坊ちゃま!! 目をお開けください!!」
口元から一筋の血が流れる。
「私、医者です! 診せてください!!」




