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第36話 特異

 それはとても不思議な光景だった。

 日差しが厳しい初夏の草原を進むと、突然肌寒い風が吹きすさび、ある境目を超えると、とても同じ時期とは思えない極寒の空気に変わる。

 目視できるほどの空間の境目、それが北のエリアだと一目で理解できた。


「これは、すごいね……」


「どう考えても自然現象ではありませんな」


「異常だニャ」


「普通の防寒具じゃ間に合わないブー」


「一応テスト通りに動いているみたいねコレ」


 タマモが着ている服を観察してその働きを確かめている。

 一見ただの防寒具のように見えるコートだが、実際には内部に魔力を通した金属の網が貼り巡っており、首の後ろにある魔道具から金属全体に熱を伝達し、コート自体が発熱して内部を温暖にしてくれる。着れるコタツみたいな作りになっている。

 金属の鎧を寒冷地で装備することは危険なので、防寒対策と防御を考えての装備として革と金属繊維の合わせた装備を考え、さらに魔法の力を用いて防寒対策を高めていた。

 ファンタジー素材も利用したことによって現代日本でも高機能なヒーター内臓の防寒具が出来上がった。お陰で吹雪が吹き付ける中でも寒さに困ることはない。


「いやぁ、この足が暖かいのはたまりませんな!」


「指先が冷えないのも助かるニャ!」


「ハヤテが近くにいれば馬鹿みたいな魔力が使えるからいつもポカポカね」


「馬鹿みたいって……」


「普通こんな魔力を消費し続ける仕組みは考えないブー」


「魔石に魔力を込めてそこから使用してるんだけど……」


「この仕組だと途中で急に魔力供給が止まってこの暖房機能が切れるリスクがあるから危ないニャ、でもハヤテの魔力を皆で利用できるからずっと魔石に魔力を供給できる。魔力切れが怖くてこんなこと普通はできないニャ!」


「確かに魔道具は燃費が悪いよね……便利なんだけど普及しない理由がわかる、魔石も供給できないしね……」


「ハヤテに出会ってなければ自分が魔道具の研究するなんて思わなかったわ」


「タマモはいろんな考えを持っててすごいニャ!」


「ハヤテが色んな話をしてくれるから実現しようとしてたら色々わかってきたのよ」


「要求する道具の製作難度が高すぎるブー」


「全くだ、俺とスサノオの苦労を考えてくれ」


「でもなんだかんだ言って作ってるよね二人共」


「まぁ、タマモの魔道具は我らの旅を楽にするものばかりだからな」


「難しいもの作ってうまくいくのは楽しいブー」


 実は僕に限って言えば白衣で防寒対策ができる。

 ただ、みんなでこうやってものづくりをする時間はとても楽しい。

 没頭し続けて目的を忘れるぐらいには楽しい。

 もともと何かを工夫して乗り越えることが好きだから、今、生きていることに対して工夫しているのが楽しくて仕方がない。

 

「それにしても、コレがなければ真っすぐ進んでいるのかもわからない吹雪ですな」


 アマテラスが見ているのが探知魔法を利用したマップ、周囲の簡易的な地形と自分の位置、そして移動経路が表示されていく。現在僕たちは北へと真っ直ぐ進めているけど、この機能がなければ今どちらに進んでいるのかもわからないほどの吹雪が吹き付けてくる。


「うーん……これは徒歩での踏破は無理かもね、雪上車を作ったほうがいいね」


 指向性に探知魔法を放ってみても、目的の山は探知範囲に入ってこない。

 この吹雪によって魔力が干渉を受けて探査範囲が短くなっていると予想しても、3キロ以上は雪路を進む必要がありそうだ。

 

「引き返しましょう」


「仕方ないニャ!」


「さて、どんな感じにするかなぁ……キャタピラは間違いないけど動力はどうするかなぁ……」


「キャタピラ?」


「ああ、キャタピラっていうのはー……」


 結局、初回のアタックは状況把握に留まった。

 外科手術なんかもそうだけど、きちんと情報を集めて攻める時は攻めて引く時は引かなければ大きな問題を起こす。

 必要な検査があることがわかる。必要な道具があることがわかる。そういった本番前の準備は、ある意味本番よりも大事だ。

 正直、これは時間がかかると確信した。

 寒さは甘く見てはいけない、命に直接関わる。

 やはり生物は環境温度一つで命取りになる程度の存在だから、自然とは戦っても仕方ない。

 今回は防寒具の機能実地検査ができて必要なことがわかったことで十分な成果だと思う。


「大掛かりなもの作らないといけないけど、みんながいれば絶対に成功するよ!」

 

「それにしても、たしかにコレは普通の対策じゃ入り込んだら二度と帰ってこれないな……

 何かを拒絶しているかのようだな、魔物の気配も感じないし……ん?」


 周囲を探ってみると、魔物のような大きな気配はないが、何か、違和感のような……?


「タマモ、ツクヨミ、周囲探ってなにか感じる?」


「……別に感じないわ」


「うーん、何もいないと思うニャ!」


「カタカタカタカタカタカタカタ(ククノチも何もないよと告げている)」


「主殿、何かありましたか?」


「ううん、気の所為だったみたい。さ、帰ろう帰ろう」


 ファーストアタック失敗。

 そしてこれから、挑戦の日々が始まるのであった。 


 

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